カラー図解 神経解剖学講義ノート

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定価 5,060円(本体 4,600円+税10%)
寺島俊雄
神戸大学教授
A4判・250頁
ISBN978-4-7653-1506-7
2011年12月 刊行
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神経解剖学 入門書の新定番!神戸大学から全国へ広まった、人気の講義資料が書籍化。難解な神経解剖を、超簡略化した模式図と講義感覚のテキストで明快に解説。

内容紹介

神経解剖学のテキストは少なからず出版されており学問的に優れたものも多い。しかしそれらのテキストの内容が初学者にとっては難解なため、学習意欲をなくすことになりがちである。
本書は、神経解剖学の学習を容易にすることを目的として、内容はできるだけ枝葉をそぎ落として簡略化し、可能なかぎり単純化した脳や神経回路の模式図を豊富に掲載した。一方で、臨床に役立つ神経解剖学ということを念頭に置き、各種神経症状や臨床に関連する項目も解説を加えている。

本書の原書は、神戸大学の講義資料で、「わかりやすい図版・平易な解説・簡潔にまとまっている」という評判を得て、全国へ広まったものである。書籍化にあたり、原書のエッセンスは残したまま、図版をすべてカラーにして作成し直し、内容を充実させた。
神経解剖学の初学者が最初に手にするテキストとして最もふさわしい一冊であり、別のテキストで挫折しそうになった/してしまった人の、再入門書としてもぜひおすすめしたい。
また、医学生のみならず、神経科学を志す理工系学生にもおすすめである。

序文

医学教育や看護学教育等で、おそらく一番難解な教科の一つとして「神経解剖学」を挙げることができるだろう。脳や脊髄の解剖学は、構造が複雑なため、三次元的に理解することが難しいし、しかも異なる領域のニューロン同士が軸索を介して神経回路網を形成するため、いっそう理解を難しくしている。そして苦労して覚えた神経解剖学の知識が、実際の臨床神経学の勉強をする頃には、すっかり忘却の彼方に消えてしまい、役に立たない。この難解な神経解剖学の学習には、多くの医療系学生が苦慮していることだろう。神経解剖学の学習に苦労しているのは医療系学生に限らない。理学部や工学部等で神経科学の先端的な研究を志す学生が多いが、彼らにとって最初の障害となるのは神経解剖学で、このハードルを低くすることが求められている。

私は、平成9年に東京都神経科学総合研究所(現東京都医学総合研究所)から神戸大学医学部に赴任し、医学部医学科の2年生を対象として神経解剖学の講義を担当することになった。以来神経解剖学の講義に際して一番配慮したことは、できるだけ枝葉を削ぎ落とし、ぎりぎりまで簡略化した講義内容にすることである。そのために可能な限り単純化した脳や神経回路の模式図を作り、ごく簡単な説明を添えて講義資料とし、これを「神経解剖学講義ノート」として学生に配布してきた。このテキストは、その配布資料を元に、内容および図版を充実させ、カラー化したものである。

本書では内容を簡略化する一方で、ブラウン・セカール症候群やワレンベルク症候群などの神経症状について詳しく説明したつもりである。神経解剖学がいかに臨床神経学に有用かを示すためである。それからできるだけ反射の神経回路についても説明するようにした。外部から刺激を与え、その反射を調べることにより、反射に関わる神経回路の異常を見つけることができれば、病巣診断に役に立つ。このように医療系学生にとって臨床に役に立つ神経解剖学を常に念頭に置いて本書を作成したが、医療系学生に限らず神経科学を志す学生にとって難解な神経解剖学用語の理解に本書が役立つならば、望外の喜びである。

本書を作成するにあたっては、私が所属する神経発生学分野(旧第一解剖)の同僚や学生の援助を受けた。ことに吉川知志講師、勝山裕助教(現東北大講師)、薛富義技官、崎浜吉昭技官の力添えが無ければ、出版には至らなかっただろう。

本書の源流は、著者がかつて在籍した慶応大学の嶋井和世教授と北海道大学の井上芳郎教授の著した講義資料にある。ことに井上教授の著した北大の講義資料「統合神経解剖学」には、有形・無形の恩恵を受けている。また中尾泰右教授(秋田大学)の厳しくかつ温情あふれた解剖学教育を受けなければ、私は解剖学の分野に進まず、路頭にさまよっていただろう。感謝しても言い尽くすことはできない。

最後であるが、本書の出版に際して尽力を賜った金芳堂の関係者各位に対して敬意と感謝を捧げたい。ことに本書の編集を担当した黒澤健氏には、図版の作成など格別な苦労をかけ、感謝の言葉もない。

2011年11月
寺島俊雄

目次

第1章 神経組織学
第2章 神経系の発生、変性、再生
第3章 脊髄
第4章 延髄
第5章 橋
第6章 中脳
第7章 小脳
第8章 間脳
第9章 大脳基底核
第10章 大脳皮質
第11章 神経回路 (1)運動路
第12章 神経回路(2)感覚路
第13章 髄膜と脳脊髄液
第14章 脳の血管
第15章 化学的神経解剖学
第16章 中枢神経系の肉眼解剖学
【付録1】脳の断面
【付録2】脳切片


■本書の構成

●本書は全16章と付録から構成されている。

●神経解剖学の講義では脳の肉眼解剖学から講義を始めることが多いと思うが、実際に人脳に触れるチャンスが得られない学生にとって脳の肉眼的理解は難しい。そこで本書では「脳の肉眼解剖学」の章はあえて最終章の第16章とした。学習が進んだ時点で余裕があれば、本章を読めば良い。そのかわりに神経系の構成要素つまりニューロンとグリアの理解が最も重要と考え、「神経組織学」を第1章として冒頭に置くことにした。ついで神経系の理解には発生学的なバックグランドが不可欠であること、また現在、神経系の変性や再生の研究が進み神経疾患の治療が夢でなくなったことを受けて、「神経系の発生・再生・変性」を第2章とした。以下、脊髄から大脳皮質に向かって順に脳の各部位についての章を設けたが、どこから読み始めても良いように、重複は厭わず説明したので、興味のある章から順に読み進めるのが良いだろう。

●本書では脳の各部位の章の後に、総復習として第11章神経回路(運動路)」と第12章神経回路(感覚路)」を置いた。実はこの神経回路に関する2章さえ勉強すれば、第3章の「脊髄」から第10章の「大脳皮質」を読んだことになるから、時間を惜しむ学生にはこの2つの章の学習を勧めたい。

●髄膜の解剖学は、とかくおろそかにされがちであるが、脳の境界や区画を定めている髄膜が破綻すると、福山型筋ジストロフィーなど重要な脳の障害が生じることから臨床的には極めて重要である。また髄液の産生と吸収のメカニズムはまだ不明なことが多く、脳脊髄液減少症など最近では社会問題となっている。そこで第13章として「髄膜と脳脊髄液」の章を設けた。臨床医学の側面からみると脳の血管障害がもっとも頻度の高い神経系の疾患であることから、第14章として「脳の血管」の章を設けた。統合失調症や躁うつ病など精神機能の疾患をはじめとして、私たちの「こころ」や「感情」などについて、モノアミンなどの神経伝達物質から神経系を眺めることは重要であるため、第15章として「化学的神経解剖学」の章を設けた。しかし本章はアミノ酸やペプチドについて言及していないので不十分であり、今後、改訂の機会があれば、充実しなければならない章である。最後に、脳の水平断面と前額断面、脳幹の組織切片からなる付録を置いた。MRIやCTなど脳の断面像の理解が必須であるからだ。

●通常のテキストでは、図版の重複はしないのが普通であるが、本書では同じ図が何度も出現する。読者の利便性を考えできるだけ本文の説明の近くに置きたかったからである。

Memo
Memoは、本文中で重要と思われる事項について、喚起を促すために作成した。

小ポイントで記載した事項は、重要であるがとりあえず読み飛ばしても良い内容である。

■練習問題
●各章の章末には、学習内容を振り返るための練習問題を設け、解答は巻末(p.233)に載せた。単に○と×を回答するのではなく、×の場合、誤っている箇所に下線を引いて正しい語句で訂正してほしい。

序文でも述べたように、本書の図は黒板に板書するために作成した模式図が元になっている。黒板に書く絵はよほど簡略化しないと描けないし、また理解を深めるために簡略化・模式化することは意味があると思う。しかし、そのために位置関係などが現実と合わない部分も生じてくるが、上記を考慮したうえでのこととご了承いただきたい。

執筆者一覧

■著

寺島俊雄 神戸大学教授

トピックス

■Q&A
Q:92頁 図6-24 外眼筋の作用とマヒ

この図では、下斜筋、上斜筋が耳側、上直筋、下直筋が鼻側に描かれていますが、別の書籍などでは、下斜筋、上斜筋が鼻側、上直筋、下直筋が耳側となっております。この図はどのように見ればよいのでしょうか?

A:
この図は、筋の作用の方向を示す図であって、実際の筋肉の解剖学的位置を示すものではありません。たとえば上斜筋は、眼球の上内側にある筋ですが、途中に滑車がある関係で、筋の作用が反転し、下外側に眼球を引きます。したがってこのような図になります。逆に下斜筋が収縮すると、眼球を上方かつ外側に引きます。上直筋の作用は眼球を上内側に引き、下直筋は下内側に引きます。これらの作用は説明が難しいのですが、外眼筋の作用の方向はそれぞれの筋の起始と停止および滑車の有無などによって決まりますので、外眼筋の個々の名称とその作用の方向は一致しません。

【補】
臨床医学を学んでいる学生によく質問されるのですが、臨床のテキストでは、上斜筋の作用は、下内側に眼球をむけると記載されているのが普通です(ちょうどこの図では下直筋の作用と一致します)。その理由は、上斜筋の作用は、眼球を内転位にしたときに、純粋に下転のみとなるからです。それゆえ、眼科医は上斜筋の作用を見るときに、患者に目を寄せさせて(内転位にさせて)、その上で下転させますから、臨床のテキストでは、上斜筋の作用は、眼球を下内側に向けるという表現になります。このように解剖学のテキストと臨床医学のテキストで上斜筋の作用について大きな違いがあり、これを理解してもらうことが、とても困難ですが、外眼筋の作用は、眼球の位置により変わります。解剖学のテキストでは、あくまでも眼球が通常の位置にあるときの作用の方向が記載されていますが、臨床医学のテキストでは、個々の筋の作用が最も検出できるような眼球の位置での作用の方向となります。