第4走者:吉永繁高先生【消化器内科医】
この連載は、2021年4月発売の
『Dr.ヤンデルの病理トレイル 「病理」と「病理医」と「病理の仕事」を徹底的に言語化してみました』(著:市原真)
について、病理医・臨床医の皆さまに読んでいただき、それぞれの視点から感想と、「病理」に関する考えを書評という形でまとめていただいたものです。
「病理トレイル 書評リレーマラソン」と題したこのマガジンを通じて、「病理」とは、「病理医」とは、「病理の仕事」とは何かを感じ取っていただけると幸いです。
■評者■
吉永繁高
国立がん研究センター中央病院内視鏡科医長
■書評■『Dr.ヤンデルの病理トレイル』
「あぁ、なるほど。これはDr.ヤンデルの心の旅行記なんだ」本書を読み終わった時、不思議とスウィフトのガリヴァー旅行記を思い出した。
本書は、一病理医が日々何を考え、どのような思考過程で手に入れた情報を処理し、どのような形で出力するか、その心の中にある過程をトレイルランになぞらえてわかりやすく表現されており、病理医を目指す学生、病理に関わる医療者に病理医の仕事というものを手に取るように理解させてくれる。
でも、『なんとかの病理』とかではない自分の仕事のことを徒然なるままに本にする病理医なんて聞いたことがない。2015年に初めて、Dr.ヤンデルこと市原医師の講演を拝聴した時に感じたことであるが、彼は良い意味で変態であり、少なくとも現在に至るまでその評価は覆っていない。
経験則、条件反射で行っているルーチンワークを言語化することは難しい。しかし、人の頭の中を覗けない以上、人に伝えるためには言語化しなければならない。このように言語化することは、すべてのprofessionalができて当然のことであり、これができないと自分の仕事を客観的に振り返り向上させることも、後輩に指導することもできない。市原医師は自分のために自分の仕事の振り返りをしているふりをしながら、すべての読者にそのことを教えてくれている。
さぁ、君も一緒に心のトレイルランをしようじゃないか。
■「あなたにとって病理・病理医・病理の仕事とは」
消化管内視鏡を行っていて病変を見つけると、その形態、色調、周囲の粘膜などの情報を加味して診断する。そして病理学的に評価するために組織生検と言って2mm程度の組織を採取し、病理の先生に顕微鏡を用いて診てもらう。しかし、内視鏡医の診断だけでも病理医の診断だけでも真の診断には辿り着かない。
つまり内視鏡医と病理医は『相棒』における右京さん(水谷豊さん)と米沢さん(六角精児さん、異動しちゃいましたが)、『科捜研の女』における土門さん(内藤剛志さん)とマリコさん(沢口靖子さん)のようなものである。どちらかが暴走しても誤認に繫がるだけであり、お互いの情報を共有し(時に仲良く、時にぶつかり)discussionしないと真実は暴けない。
これは全く臨床の世界でも同じことが言え、我々内視鏡医は必要な情報、自分の考え(疑っている疾患)を組織とともに病理側に提供し、病理からのfeedbackを元に最終的な診断をする。つまり、内視鏡医にとって病理の先生とは切っても切れない関係であり、お互いを高め合う相棒なのである。
■書誌情報■
『Dr.ヤンデルの病理トレイル 「病理」と「病理医」と「病理の仕事」を徹底的に言語化してみました』
著:市原真
札幌厚生病院病理診断科
定価 3,080円(本体 2,800円+税10%)
A5判・278頁 ISBN978-4-7653-1862-4
2021年04月 刊行