プライマリ・ケアに求められる 発達障害の診かたと向き合い方

    定価 3,740円(本体 3,400円+税10%)
    編著斉藤まなぶ
    弘前大学大学院保健学研究科心理支援科学領域
    A5判・186頁
    ISBN978-4-7653-2004-7
    2024年06月 刊行
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    発達障害児・者との向き合い方を知ることで、かかりつけ医の診療の幅を広げよう!

    内容紹介

    発達障害児・者に寄り添っていますか? 発達障害に対して、医療関係者だけでなく、保健・福祉・教育関係者にも広く周知されてきたことから、発達障害の患者数が増え、それに伴い、保護者や本人から心配の声も高まり、かかりつけ医に相談されるケースが増加しています。住み慣れた地域で診療していくためには何が必要でしょうか? 一度診療したら終わりではなく、長い目で見たケアも重要です。相談機関によって支援内容が違うのか、発達障害を家族に伝えるときはどうしているか、子育てがつらいという親にはどうしたらよいのか、地域のサービスなどを利用したいがどう探せばいいのか、など具体的なアドバイスも掲載しています。発達障害スクリーニングツールも開発した専門医が伝えたい病態、切れ目のない支援・連携をまとめました。

    序文

    この10年で、大人も含めた発達障害の患者さんの精神科受診は、約3.5倍に増加しています。増加の理由として、発達障害が広く認知されてきたことで診断を希望する保護者や当事者が増えていること、診断基準がスペクトラム化されて障害の境界域が曖昧になったことで、軽症あるいは診断閾値以下の相談が増加していることが考えられます。また、出産の高齢化、胎生期の問題などにより、発達障害自体が増加にある可能性も議論されていますが、未だ確固としたエビデンスが得られておりません。ただ、これら認知される発達障害の増加により、実際に特別支援を受ける子どもの数はこの10年で2~3倍に増えていますし、小学校1年生の普通学級で12%の子どもが学習や行動に問題があるという文部科学省の報告からは、発達障害児や保護者への支援ニーズは、想定以上に高まっていることがわかります。これらのニーズに対し、発達障害の専門医療機関や専門医は極めて少なく、初診待機が1年以上の医療機関も珍しくありません。子どもたちは日々刻々と成長していくため、周囲が気づいた時点で介入支援が開始されることが望ましいです。このため、国は、認知症と同様に、発達障害は精神科だけが診るものではなく、かかりつけ医が相談や暫定診断を行う役割を担うことを推奨しています。すでに、保護者や発達障害児・者の相談先は、医療機関だけでなく、保健・福祉・教育関係者にも広がった地域ネットワークが構築されようとしています。各機関が連携して、地域を中心とした切れ目ない支援体制の実現もさほど遠くはないでしょう。

    発達障害は生来の神経発達における脆弱性に起因するものですが、乳幼児期の脳は未成熟のため生後早期の養育環境やその後の学習環境によって、症状は改善もするし悪化もします。幼少期から思春期を経て成人を迎えるにつれ、特性に伴う不適応、生来の自律神経失調など、相談内容も多様に変化していきます。ストレス反応は、多くの場合、身体愁訴(頭痛や腹痛、易疲労、不眠、動悸など)として出現し、かかりつけ医にプライマリケアを希望して受診します。本書は、日常において最も多く発達障害児・者と接するプライマリケアの先生方を対象に作成いたしました。改正発達障害者支援法に基づく、発達障害の早期発見・早期対応の意義、発達障害児・者が抱えやすい身体的・精神的な問題、治療・支援の基本原則、専門医への紹介、専門医からの治療継続依頼、地域の包括的な多領域連携ネットワークのあり方などについて、専門家へのよくある質問事項の他、対応例や事例を含めて概説しました。本書がプライマリケアに当たる様々な職種の方々のガイドブックとして活用していただき、先生方にとっても、発達障害児・者とその家族にとっても、今より一歩前進した支援に近づくことへの一助となれば幸いです。

    子どもを取り巻く大人の理解が広がり、次の世代を担う子どもたちや若者たちが一人一人尊重される社会が築かれていくことを望みます。

    編集 斉藤まなぶ

    目次

    執筆者一覧
    まえがき

    第1章 発達障害への理解を深める

    第1節 年代別の発達の診かた(斉藤まなぶ)
    ①発達のマイルストーン
    ②神経発達症群の診断基準(DSM-5-TR)
    ③早期発見のためのスクリーニングや発達検査
    ④早期発見のための問診や診察のポイント

    第2節 発達障害の疫学・併存症とグレーゾーンの扱い(斉藤まなぶ)
    ①知的発達症群(ID)の疫学
    ②自閉スペクトラム症(ASD)の疫学
    ③注意欠如多動症(ADHD)の疫学
    ④限局性学習症(SLD)の疫学
    ⑤発達性協調運動症(DCD)の疫学
    ⑥グレーゾーンの考え方と支援
    ⑦神経発達症のプライマリケア

    第3節 発達障害への薬物療法(斉藤まなぶ)
    ①自閉スペクトラム症(ASD)への薬物療法
    ②注意欠如多動症(ADHD)への薬物療法

    第4節 発達障害児・者のライフステージにおける心理(大里絢子)
    ①発達障害の乳幼児期
    ②発達障害の児童期
    ③発達障害の思春期・青年期
    ④発達障害の成人期以降

    第5節 ライフステージに合わせた有効な介入支援(坂本由唯)
    ①ライフステージごとの介入支援
    ②応用行動分析学とは
    ③介入支援の各論

    第6節 保護者への心理支援(三上珠希)
    ①我が国の施策
    ②Evidence based Practice(EBP)のある保護者支援について

    第7節 環境調整(町田徳子)
    ①なぜ、環境調整が必要なのか(発達障害の特性)
    ②環境調整が重視されないことで想定される課題
    ③環境調整をするために何が必要か(アセスメントの重要性)
    ④アセスメントの種類
    ⑤環境調整の際の重要な視点

    第8節 発達障害支援に関わる政策と今後の展望(田中尚樹)
    ①行政の責務
    ②発達障害者支援における施策について
    ③発達障害施策の今後の展望

    第9節 地域のかかりつけ医たちが活動できるような情報提供の取り組み(岩谷玲子・町田徳子)
    ①発達障害者支援法における都道府県・市町村の役割
    ②専門的な医療機関の確保等について
    ③かかりつけ医等発達障害対応力向上研修会の取り組み
    ④発達障害の早期発見・早期支援について
    ⑤発達障害専門医療機関初診待機解消モデル事業の取り組み

    第2章 支援と連携への理解を深める

    第1節 発達障害児・者への支援
    1.全ライフステージを通じての支援(大里絢子)
    ①発達障害・ペアレンティングについて正しい知識を得る
    ②保護者の障害受容に寄り添う
    ③園から小学校、小学校から中学校等、節目ごとに学校との情報共有を積極的にしてもらう
    ④保護者と支援者の対応を統一する
    ⑤不適切行動がある場合、理由や誘因を考える
    ⑥感情的に言わない、叱らない
    ⑦できていることもきちんと取り上げ、伝えてあげる

    2.登園・登校渋りと不登校への支援(斉藤まなぶ)
    ①不登校に関する我が国の現状と取り組み
    ②発達障害と不登校
    ③プライマリケアとしての不登校への対応

    3.問題行動と愛着障害への支援(坂本由唯)
    ①愛着(アタッチメント)とは
    ②愛着の発達
    ③愛着障害
    ④発達障害を持つ子どもの愛着障害

    4.精神障害の合併への支援(斉藤まなぶ・岩城弘隆)
    ①発達障害と精神障害
    ②発達障害と身体疾患
    ③事例紹介

    第2節 専門医療機関との連携(斉藤まなぶ)
    ①メゾシステムにおける医療機関の位置づけ
    ②プライマリケアから専門医療機関への紹介
    ③専門医療機関からプライマリケアへの紹介

    第3節 保育や教育との連携(品川友江・三上珠希)
    ①地域連携における課題
    ②地域での取り組み

    第4節 行政や福祉との連携(岩谷玲子・町田徳子)
    ①切れ目ない支援とは
    ②発達障害者支援センターについて
    ③青森県発達障害者支援センター「ステップ」事業の紹介

    第5節 特別支援教育との連携(照井藍)
    ①特別支援教育とは
    ②特別支援教育の種類
    ③交流および共同学習
    ④就学先の決定方法について

    第6節 移行支援(田中尚樹)
    ①ライフステージの移行期と障害福祉サービス等について
    ②成人になることでの医療機関の移行

    第7節 連携システムの調整(田中尚樹)
    ①地域全体の発達障害児・者の支援体制作りについて
    ②市町村における連携と支援について
    ③発達障害児・者の医療に対する取り組みについて
    ④その他の連携のための取り組み

    第8節 事例紹介(三上珠希・照井藍・坂本由唯・岩城弘隆)
    ①乳幼児
    ②幼児~小学生
    ③思春期~成人
    ④治療困難例

    専門家に相談:
    処方薬(錠剤や漢方薬等)を飲んでくれない、飲み忘れる等という相談を受けた際に、どうアドバイスしたらよいでしょうか?
    大人になる時に課題となるもの、就労がうまくいかないケース(転職を繰り返す等)等が多いが、どうやってサポート・相談に乗るのがよいでしょうか?
    相談機関によって支援内容が違いますか?
    発達の診断を家族に告げる時、どんな工夫をしていますか?
    家庭や園、学校で気をつけることについてアドバイスをするなら、どうすればいいですか?
    子育ての悩みや地域のサービスについての相談先はどこですか?
    保護者や周囲ができること、子育てがつらいという保護者にはどのように対応したらよいですか?
    「お母さんと一緒でないと登校できません」と相談されたら、どうしたらよいでしょうか?
    「パニックになって先生を殴ってしまいました」と相談されたら、どうしたらよいでしょうか?
    発達障害の大人を精神科に紹介できるのでしょうか? 紹介先の探し方はありますか?
    専門医に紹介し戻ってきた時、プライマリケア医ではどのくらいの頻度で診て、どうなったら紹介すべきか等について教えてください
    保育園や学校とどのように連携すればよいですか?
    障害者手帳の取得や特別児童扶養手当等、利用できる福祉サービスについて教えてください
    「特別支援を受けることで差別につながるのではないかと心配です」と相談を受けたら、どうしたらよいですか?
    認知症高齢者に発達障害の息子が同居しているケースが多いのですが、高齢の親が亡くなった後の息子の支援はどうなるのでしょうか?
    相談支援機関に関する情報は、どうやって調べればよいでしょうか?

    索引
    編者プロフィール

    執筆者一覧

    ■編著
    斉藤まなぶ 弘前大学大学院保健学研究科心理支援科学領域

    ■執筆者一覧(五十音順)
    岩城弘隆  医療法人社団玄洋会道央佐藤病院
    岩谷玲子  青森県こどもみらい課
    大里絢子  弘前大学大学院保健学研究科心理支援科学領域
    坂本由唯  弘前大学医学部附属病院神経科精神科
    品川友江  国立病院機構青森病院小児科
    田中尚樹  青森県立保健大学健康科学部社会福祉学科
    照井藍   弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座
    町田徳子  青森県発達障害者支援センター「ステップ」
    三上珠希  国立病院機構青森病院小児科

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