内科医のための漢方診療 正直なところ「漢方って本当に効くの?」と内心思っているあなたへ

    定価 3,520円(本体 3,200円+税10%)
    岩﨑鋼
    野上達也
    吉澤和希
    A5判・144頁
    ISBN978-4-7653-1769-6
    2018年12月 刊行
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    漢方なんて効かないんじゃないの? そう思っているあなたに

    内容紹介

    岩田健太郎先生絶賛!!
    本書は漢方医学界の「アビーロード(とくに B 面)」である。生薬、原典、エビデンス、症例、余談、批判、奇譚。話は錯綜し、二転三転するが全てつながっている。止められない中毒性がある。とにかく本書を開いたら最後まで一気に読むべしである。
    神戸大学医学部 岩田健太郎


    本書はふつうの内科学のテキストみたいな構成だ。

    目次をみると、いつもの見慣れた病名のあいだに八綱弁証、五臓六腑、六経弁証といったいかにも漢方らしい語句がある。かと思えばなかなかかゆいところに手が届くのではと期待したくなる訪問診療・雑病なる章もある。おやおや膠原病というなかなか難しそうな項目もあるではないか。

    書名はとても挑戦的だ。当然著者たちは効くと思っている。しっかりエビデンスも載っているし、エビデンスがないところはないと断り、古典の記述や理論を疎かにしているわけではないが、あくまで経験に基づいて書いている。EBMが当たり前のこの時代の漢方はこうでないと。

    序文

    一般診療医に売れそうな漢方の本はどんなものだろうか。多分、風邪に葛根湯、下痢に五苓散のように、コモンディジーズにすぐ使える漢方薬が一覧になったものだろう。疾患ごとに、二、三種類の漢方薬が挙げられて、簡単な使い分けのコツが書いてあるのがよいだろう。

    反対に、太陽病とは、という解説から始まって、太陽病の処方解説をした本は売れないだろう。読者は太陽病が何か知りたいわけではない。いや太陽病などという病気の存在すら知らないに違いない。よほど稀な疾患か?と思われてしまう。

    だが、漢方診断(弁証という)に出てくる疾患は、決して稀なものではない。むしろ、ありふれたモノなのだ。

    ある時、私は急性胃炎に罹った。休みの日、昼間食い気を出して鰻重を食べたのがいけなかった。夕方から、胃が何とも重苦しく、辛い。腹を押すと痛い。便は出ない。吐き気はしない。胃に塊が詰まったようで、実際げっぷをすると昼間食べた鰻の匂いがする。ちっとも消化されていない。そのうち熱っぽくなってきたので計ると36.9℃。私にすれば、確かに微熱がある。汗がじとじとと出てくる。悪寒はしない。熱感である。

    そのうちはたと気がついた。便が出ない。熱感がする。胃が苦しい。漢方の有名な古典『傷寒論』に、陽明之病、胃家実是也(陽明病とは、胃に病気の原因が存在しているものだ)とある。今の私が、まさに是也だ。なんだ、陽明病じゃないかと弁証したのである。

    陽明病の治療は、下すことである。そこで寝る前に我が家にあった唯一の瀉下剤である麻子仁丸を3包飲んで寝たら、翌朝お通じがあって、その後胃の具合がよい。なんか久しぶりに天ぷらが食べたくなって、昼飯に仙台三越のつな八で天丼を食べてしまったが、大丈夫そうだ。その代わり、二度下痢をした。腹が大変すっきりした心持ちがする。

    陽明病とか、太陽病とか、ICDにも載っていない病気が実在するのかという人もいるかもしれないが、ちゃんと日常的に経験するものなのである。

    いやそれは胃カメラをしなければ診断は付かない。きっとFDの一種で、なんとか型だ、と言い出す向きもあるだろう。別に反対はしないが、そう言う診断で、それなりの治療をして、一晩で治せるなら、それも良かろう。だが陽明病という弁証をして、麻子仁丸を飲んで、一晩で治したってよいのである。ちゃんと治っていれば、どちらの考え方をしてもいけない理屈はないのだ。そして、漢方で患者を治すなら、「陽明病」という弁証ができた方が断然、効く。

    とまあそんなことをつらつら思って、この本ではやはりあえて漢方診断(弁証)を説明することにした。ただし、弁証学を一から十まで説明はしない。そんなことをしたら、教えるのに5年掛かってしまう。あくまで一般診療で漢方を使うのに必要な範囲で説明するのだ。それも、思い切ってかみ砕いて説明する。漢方の専門家からしたら、無茶だと言われるかもしれない説明をするが、ただし本質は踏み外さないことにする。なおこの本は、拙書『高齢者のための漢方診療』(丸善出版)の続編みたいなものである。併せてお読みになれば、なお理解が増すことと思う。

    エビデンスはどうしても入れなきゃならないだろう。今の時代、エビデンスを示さない臨床の教科書なんてどうかしている。だがエビデンスを提示するとどうなるかは書く前からおおよそ予想が付いている。それは本論を読めばわかるだろう。

    章立ては、一般的な内科学書のそれによることにした。第一章「太陽病」では本が売れないからである。とはいえ、内科専門医試験に出るような稀少疾患はあまり扱わない。そういうものを漢方で治療する機会がないわけではないが、専門の漢方医に任せた方が無難だろう。主に「一般内科」で遭遇するコモンディジーズに絞って書く。ただ私自身の思い入れもあり「訪問在宅診療」に一章を割いた。内科の枠には留まらない中身だが、現代において欠かせない分野であると考えた。また、心身医療、婦人科疾患についても「一般内科医が扱う範囲で」取り上げることにした。純粋な内科からは若干外れるが、漢方をやっていると、どうしてもこうしたニーズが多いからである。そんなわけでこの本は内科と銘打ちながら、どちらかというと『総合診療に於ける漢方治療』の本に近いと言えるかもしれない。

    なお本書では、日本漢方と中医学を交互に比較して論じていく。両者の差違については前著『高齢者のための漢方診療』で概略を述べているので詳しくは触れないが、中医学というのが耳慣れない読者のために中医学についてだけもう一度説明しておく。

    中医学というのは、中華人民共和国において、中国各地の伝統医学を国家が主導して統合し、おおむね理論統一した医学体系である。現在中国で(台湾、東南アジアでも)伝統医学と言えば、まず中医学であり、その中に色々な流派系統はあれども、一応「中医学」という学問体系が確立している。中国では医師の資格が「西医師」と「中医師」に分かれており、中医学を実践するのは中医師だ。中国は国を挙げて積極的に中医学を推奨しており、各地に「中医薬大学」を多数設立している。主要な中医薬大学は日本の旧帝大をはるかに上回る設備と規模を誇る。中医学だからと言って西洋医学的な検査をしないというのではなく、大きな中医医院(中国語の医院は病院のこと)にはMRIもPETも完備している。中国では伝統医学に西洋医学を取り入れる努力が長年重ねられており、これを「中西医結合」という。中医薬大学では最新の研究設備をそろえ、研究者を各国に留学させ、伝統医学の作用機序の解明や新薬の開発に積極的に取り込み、その結果、アジアの伝統医学と言えば今や世界的に中医学が主要な地位を確立している。

    ところで私の文体は「刺激的」なのだそうだ。自分ではちっともそうは思っていないが、毒があるらしい。だが無難、無難を心がけていては、書いても面白くないし、読んではなおさらつまらない。「刺激的」かどうかはともかく、自分の日頃の文体そのままとする。

    対象となる読者層は、ずばり、「漢方って興味あるけど、本当に効くの?根拠あるの?」と思っている全ての医師である。ただし内容は基本的に内科の話を中心とし、それに一般臨床で遭遇するいくつかの女性特有の病態、及び在宅医療とする。理由は、私が内科医なので、「外科の漢方」とか「耳鼻科の漢方」とかは書きようがないからだ。ただし出てくる疾患は極めてコモンなものばかりなので、内科医でなくとも西洋医学的に理解に難渋するということはないであろう。疾患名の略語については、一般医家が普通にわかるだろうと思われるものはそのまま用いている。説明は漢方を深く知らない一般医家のためになるべくかみ砕いて書いたつもりであるが、膠原病についてだけは、疾患の特異性からかなり専門的な話になってしまった。ここだけ少し他の章とはレベルが違うと思っていただきたい。

    2018年10月
    岩﨑鋼

    目次

    まえがき

    第1章消化器疾患
    胃,食道疾患
    GERD,NERD
    方剤とは

    血・津液
    食道
    胸焼け
    胃食道逆流
    胃炎・胃潰瘍
    機能性ディスペプシア
    胃もたれのセカンドチョイス
    五臓六腑
    肝火犯胃
    胃がん
    胃が冷える
    腸疾患
    舌痛症
    肝胆

    第2章 循環器疾患
    心不全
    心房細動
    心筋梗塞
    高血圧
    EBM
    浮腫
    腎の陽気
    心臓神経症
    八綱弁証

    第3章 内分泌と代謝

    糖尿病
    肥満
    脂質異常症
    骨粗鬆症

    第4章 腎臓疾患
    慢性腎臓病
    急性腎不全、慢性腎不全による浮腫

    第5章 呼吸器疾患
    喘息
    COPD
    肺と腎
    痰の多いCOPD
    間質性肺炎
    気管支拡張症
    漢方の診方

    第6章 神経疾患
    パーキンソン病
    認知症
    脳血管性障害
    頭痛

    第7章 アレルギー性疾患
    花粉症
    アトピー性皮膚炎
    アトピー性皮膚炎の標治

    第8章 感染症
    インフルエンザ
    肺炎
    六経弁証
    衛気営血弁証
    ムンプス

    第9章 慢性関節リウマチ並びに膠原病
    関節リウマチ
    SLE
    全身性硬化症
    シェーグレン症候群

    第10章 訪問診療における漢方診療
    コリン作動性鼻炎
    便秘
    下痢
    食欲不振
    認知症
    こむら返り
    嚥下能力低下
    BPSD
    頻尿・失禁
    乾燥肌
    がんの疼痛
    皮膚の細菌感染症
    腰痛
    膝痛

    第11章 心身症

    第12章 女性の病態
    更年期障害
    月経困難症
    月経前症候群

    第13章 雑病
    冷え症
    肝気欝結の冷え
    血瘀の冷え
    子供の冷え
    疲労
    めまい
    耳鳴り
    頻尿と尿漏れ
    子供の夜尿症
    肌のかさつき
    若い人のニキビ
    繰り返す咽頭炎、扁桃炎

    第14章 漢方の有害事象
    あとがき
    索引
    著者紹介

    執筆者一覧

    岩崎 鋼 啓愛会美山病院内科部長
    野上達也 富山大学医学部助手
    吉澤和希 湘南鎌倉総合病院リウマチ科・漢方内科部長

    トピックス