薬のデギュスタシオン 2
-製薬メーカーに頼らずに薬を勉強するために-
編集 | 岩田健太郎 |
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神戸大学医学部附属病院感染症内科教授 |
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気鋭の著者らによる好評書、第2弾!
内容紹介
医薬品の価値は「他者との比較」によってなされる。Aという薬を使う時、同じ薬効を持つA,B,Cを比較し、「臨床的に意味のある違い」を吟味する。それにより、Aという薬を十分に理解することができる。製薬メーカーの勧める薬、漫然とお気に入りにしている薬だけではなく、「あれ」と「これ」はどのように使い分けられるのか差別化することによって、医薬品の正しい選び方を学ぼう!医師、薬剤師さん他すべての医療従事者にお薦めのユニークな一冊。
序文
「薬のデギュスタシオン」の第二作をお送りする。
前作同様,薬の評価は「比較」によってなされるべきだ。AとBの違いはどこか,同じところはどこか。
世に「非劣性試験(non-inferior trials)」という研究方法がある。AとBという治療法のどちらがベターか,を探索する「優越性試験(superiority trials)」,AとBは同じような効果であることを示す「同等性試験(equivalence trials)」と比較される。「Aという治療法はBという治療法よりも劣っているとはいえない」という二重否定を使うややこしい概念だ。これが否定されると「非劣性とはいえない(not non-inferior)」という三重否定になり,更にややこしい表現となる。
では,なぜこのような非劣性試験が必要なのか。
それは,薬は薬効だけでは評価できないからだ。
例えば,同じ薬効でもずっと安い薬があるかもしれない。より安い薬で同じ効果が得られるならば,そっちのほうがベターに決まっている(コスト効果が高い)。
あるいは,錠数がずっと少なくなる。注射薬が経口薬になる,といった患者の利便性における優位性も大事だ。より副作用が少なくなる,というのもいいだろう。
例えば,HIV感染症の治療薬は近年どんどん必要な錠数が少なくなり,副作用が少なくなり,長期内服を容易にしている。それはアドヒアランスの向上をもたらし,患者の予後も改善させるというわけだ。もはやエイズは「死の病」ではなく,HIV感染者は非感染者と同じ長寿をまっとうできる(Trickey A,May MT,Vehreschild J-J,Obel N,Gill MJ,Crane HM,et al. Survival of HIV-positive patients starting antiretroviral therapy between 1996 and 2013: a collaborative analysis of cohort studies. The Lancet HIV Internet.published online 2017 May 10,cited 2017 May 13. Available from: http://www.thelancet.com/journals/lanhiv/article/PIIS2352-3018(17)30066-8/abstract)。
というわけで,非劣性試験の存在意義(レゾンデートル)は,「既存の治療薬より劣っていないけど,ベター」な治療の吟味である。ベターでなければ,意味がない。
それなのに,非劣性試験は間違った目的で使われることもある。同等性試験や優越性試験よりもアウトカムが出しやすく,ハードルが低く,「エビデンス」としやすいからだ。抗菌薬の世界ではより高額で広域で耐性菌を作りやすく,副作用については市販後調査が不十分で「ブラックボックス」な新薬が,既存の安価で狭域で耐性菌が問題になりにくく,副作用については十分なデータのある抗菌薬と比較されて「非劣性」というやつだ。
臨床系の論文はその論文の内的な質だけを吟味するだけではだめだ。もっと遠いところから,「鳥の目」でその論文の存在意義そのものを問わねばならない。いくら精緻なデザインで巧妙な統計解析を用いたややこしい研究でも,「意味がない」論文には意味がない。
本書では気鋭の著者らが治療薬の比較をする。それは比較のための比較ではない。あくまでも臨床的に使うための比較である。「意味のある」比較である。
本書が単なる情報としてではなく,現実の診療に活用されることを心から希望して「はじめに」とする。「あとがき」は前作のものを再掲する。あれは何度でも読んでいただきたい名文だからだ(笑)。背中のファスナーを下ろすとMR が出てくるような医者たちが消滅することを心から願ってやまない。
2017年新緑の5月
岩田健太郎
目次
1 せん妄に対する薬物療法(大滝 優・鎌田一宏)
2 高齢者への睡眠薬の投与方法(大滝 優・鎌田一宏)
3 ベンゾジアゼピン系睡眠薬(宮内倫也)
4 認知症に対するコリンエステラーゼ阻害薬の比較(宮内倫也)
5 気分安定薬としてのリチウムとバルプロ酸とラモトリギンの比較(宮内倫也)
6 抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SSRI、SNRI)と骨折リスクの比較(青島周一)
7 抗うつ薬による低ナトリウム血症リスクの比較(青島周一)
8 部分発作に対する抗てんかん薬の比較(吉田剛・金城紀与史)
9 アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の比較(青島周一)
10 慢性心不全におけるループ利尿薬:フロセミド、トラセミド、アゾセミドの比較(青島周一)
11 スタチンの比較(本村和久)
12 輸液蘇生における膠質液と晶質液の比較(佐藤直行)
13 喘息発足時のメプチンとサルタノールとベネトリンの比較(倉原 優)
14 喘息の慢性期治療はICS単独かICS/LABAか(名郷直樹)
15 含嗽薬:イソジンガーグルとネオステリングリーンの比較(倉原 優)
16 胸膜癒着剤:ユニタルクとピシバニールの比較(倉原 優)
17 抗線維化薬:ピレスパとオフェブの比較(倉原 優)
18 肺炎発症リスクに影響を与える薬剤の比較(青島周一)
19 高齢者の便秘に対する薬物療法(大野 智)
20 SGLT2阻害薬間に違いはあるか(能登 洋)
21 DPP4阻害薬は本当にSU薬より優れるのか(能登 洋)
22 糖尿病患者に対するスタチンの比較:リポバス、メバロチン、ローコール、リピトール、クレストール、リバロ(能登 洋)
23 GLP-1受容体作動薬5種類の比較:バイエッタ、ビクトーザ、リキスミア、ビデュリオン、トルリシティ(岩岡秀明)
24 各種持効型インスリン製剤の比較:ランタス、レベミル、トレシーバ、ランタスXR、グラルギン、リリー(岩岡秀明)
25 超速効型インスリン製剤および混合型インスリン製剤の比較検討(岩岡秀明)
26 リファンピシンとリファブチンの比較(倉原 優)
27 クロストリジウムディフィシル感染症におけるメトロニダゾールとバンコマイシン(中久保 祥・岸田直樹)
28 尿路感染症におけるDe-escalation :アンピシリン(ABPC)とセファゾリン(CEZ)の比較(鎌田啓佑・岸田直樹)
29 ST合剤とペンタミジンとアトバコンの比較(佐藤直行)
30 EGFRチロシンキナーゼ阻害剤:イレッサとタルセバとジオトリフとタグリッソの比較(倉原 優)
31 緑内障治療における点眼薬の比較(青島周一)
32 ステロイド外用薬の使い分け(鎌田一宏)
33 止血剤:アドナとトランサミンの比較(倉原 優)
34 脳梗塞の抗血小板剤による慢性期二次予防(難波雄亮・金城紀与史)
35 桂枝茯苓丸と当帰芍薬散と加味逍遙散の比較(野上達也)
36 六君子湯とアコファイドとガスモチンの比較(野上達也)
37 抑肝散と抑肝散加陳皮半と釣藤散の比較(野上達也)
38 大建中湯と大黄甘草湯と麻子仁丸の比較(野上達也)
39 麦門冬湯と柴朴湯の比較 (野上達也)
40 漢方エキス製剤の各メーカーでの比較(野上達也)
41 四君子湯と四物湯の比較(宮内倫也)
42 補中益気湯と十全大補湯と人参養栄湯の比較(と六君子湯)(宮内倫也)
43 柴胡加竜骨牡蛎湯と桂枝加竜骨牡蛎湯と柴胡桂枝乾姜湯の比較(宮内倫也)
44 痛風発作に対するアロプリノールとフェブキソスタット(金城光代)
45 メトトレキサートとサラゾスルファピリジンとブシラミンとイグラチモドの比較(とタクロリムスについて)(佐藤直行)
46 変形性膝関節症に対するコンドロイチン、グルコサミンの比較(青島周一)
47 輸血前投薬(佐藤直行)
48 優先的にDeprescribingを考慮すべき薬剤の比較(青島周一)
49 認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する薬物療法(大滝 優・鎌田一宏)
執筆者一覧
●執筆者一覧
青島周一 | 徳仁会中野病院薬局 |
岩岡秀明 | 船橋市立医療センター代謝内科 |
大滝優 | ホスピタル坂東心の診療科 |
大野智 | 大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 |
鎌田一宏 | 東京城東病院総合内科 |
鎌田啓佑 | 北海道大学病院内科Ⅰ呼吸器内科学分野 |
岸田直樹 | 感染症コンサルタント/北海道薬科大学客員教授 |
金城紀与史 | 沖縄県立中部病院総合内科 |
金城光代 | 沖縄県立中部病院総合内科・リウマチ膠原病科 |
倉原優 | 国立病院機構近畿中央胸部疾患センター |
佐藤直行 | 練馬光が丘病院総合診療科 |
中久保祥 | 北海道大学病院内科I 呼吸器内科学分野 |
名郷直樹 | 武蔵国分寺公園クリニック |
難波雄亮 | つばさ在宅クリニック/沖縄県立中部病院総合内科 |
野上達也 | 富山大学附属病院診療科・中央診療部和漢診療学講座 |
能登洋 | 聖路加国際病院内分泌代謝科 |
宮内倫也 | 可知記念病院精神科 |
本村和久 | 沖縄県立中部病院総合内科 |
吉田剛 | 近森病院内科 |