精神科医もできる 拒食症身体治療マニュアル
監修 | 森則夫 |
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浜松医科大学医学部精神医学講座教授 | |
著 | 栗田大輔 |
浜松医科大学医学部精神医学講座 |
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このマニュアルで精神科単科病院での拒食症(しかも重症)の治療が可能に!
内容紹介
神経性無食欲症(拒食症)はあらゆる精神疾患の中で最も死亡率が高く、その死因には低栄養、あるいはそれに由来する身体合併症が関与していることが多い。また、不用意に栄養療法を行うと、リフィーデング症候群という致死的な合併症を生じることが知られている。そのため、精神科医は拒食症患者の入院治療を敬遠しがちであり、現在は内科や小児科で身体治療を受けた後に精神科へ転科することが一般的である。しかし、従来の方法ではANの診療が可能な医療機関は自ずと精神科病棟を有する総合病院に限定されてしまう。近年、拒食症患者が急増している一方で、総合病院の精神科病床数は減少傾向にあり、総合病院を中心とした拒食症の医療体制はいずれ立ち行かなくなることは明白である。現状を打開するためには精神科医も拒食症の身体的な病態生理を理解し、積極的に身体治療に携わるべきと考えた。
そこで、浜松医科大学精神科では既存のガイドラインを参考に精神科単科病院においても利用可能な身体管理マニュアルを考案した。それは、栄養療法開始後の日数に応じて、行うべき検査を明示し、当日のバイタルサイン、諸検査結果などから投与熱量、輸液製剤とその投与速度、内服薬の種類や投与量などを具体的に規定している。当直帯や休日など、主治医が不在であっても同じ水準の医療を提供することが可能である。マニュアル導入後、その成果は驚くべきもので、まずリフィーデング症候群の発生が皆無になり、検査漏れがなくなり、入院期間が短縮され、治療方針が統一されたため、患者からの苦情がなくなり、安全かつ効率的な診療が可能となった。
序文
本書を利用される皆様へのご挨拶
文明の発展は必然的にこころを侵し、今や、こころの病はパンデミー到来の様相を示し始めています。そのひとつが爆発的に増えている摂食障害です。摂食障害には神経性無食欲症(拒食症)と神経性大食症(過食症)があります。欧米では、前者よりも後者が多く(アメリカでは数倍)、過食症への治療に重点が置かれていることはご承知の通りです。一方、我が国には正確な統計学的データはありませんが、拒食症と過食症の割合はほぼ同じと考えられていて、治療に難渋するのは圧倒的に拒食症です。
拒食症の治療については、欧米から幾つかの新しい心理療法の試みが報告されています。しかし、これらの心理療法はBMIが16前後の女性を対象としたもので、わが国で急速に増えているBMIが12前後以下の重症例には適用できません。わが国と英語圏の研究報告や症例報告をサーチすると、BMIが12前後以下の重症例に関する報告はほとんどありません。これは私の推測ですが、おそらく、欧米の医療保険制度では長期に及ぶ入院治療は費用がかかりすぎて現実的に不可能なのではないか。わが国の医療保険制度ではそれが可能です。しかし、BMIが12前後以下の重症例では身体管理が困難であることに加え、精神症状も重症であり精神科以外の医療スタッフには手に余ります。かくして、拒食症の重症例は行き場を失いました。にもかかわらず、重症例は増えています。そこで、我われは考えました。拒食症治療における身体管理には行動療法の応用が必要です。ならば、身体管理も精神科で行い、早期から心理療法を導入した方が良いのではないか。そもそも内科学には“飢餓の内科学”はないのだから、我われが取り組む以外に術はないではないか。
現在の拒食症の入院治療では行動分析学に基づいた行動療法(たとえば、行動制限療法)や家族療法を行います。加えて、患者さんの心理特性にあわせた認知療法を加えていくのが一般的です。当然のことですが、これらの心理療法は身体管理と同時に始めるのが望ましい。重症例であれば、なおさらです。そこで、浜松医大精神科は本書の著者である栗田を中心に、精神科単科病院においても利用可能な身体管理マニュアルの開発に乗り出しました。その成果は驚くべきものでした。まず、refeed-ing syndromeの発生が皆無になりました。検査漏れがなくなりました。入院期間が短縮されました。治療方針が統一されたため患者さんから治療方針への苦情(たとえば、「自分と〇〇さんの摂取熱量が違う」など)がなくなりました。我われが開発した身体管理マニュアルを用いれば、精神科単科病院での拒食症(しかも、重症例)の治療が可能です。精神科単科病院で統合失調症やうつ病を治療するように、拒食症の治療にあたることができます。
身体管理マニュアルの開発に合わせ、浜松医大精神科はわが国初の摂食障害のデイケア(「しんりん」と命名)」を始めました。デイケアのスタッフは最近、小学生用に摂食障害を理解するための絵本も作りました。それも近々上梓したいと思っています。
最後に、惜しみない愛情を患者さんに注いでくれている浜松医大精神科スタッフの労をねぎらって私のご挨拶といたします。
平成26年6月吉日
浜松医科大学精神科
浜松医大・子どものこころの発達研究センター
森則夫
はじめに
神経性無食欲症(AN、anorexia nervosa)では、ボディイメージの歪みや肥満恐怖などの精神病理に対する精神療法は極めて重要であるが、高度の低栄養状態にある患者に奏功することは少ない。一方、栄養状態を改善させることでこのような精神病理が改善することもまた多い。また、徐脈、低血圧、浮腫などを呈する症例を前に不安なくANの診療に従事できる精神科医師は少ないだろう。これらの理由から当科ではANの初期診療において身体治療を重視している。しかし、ANの身体治療は身体科医師をもってしても容易ではない。複数の治療ガイドラインが存在するものの、多くは繁雑であるため臨床に応用し難い。近年、入院期間の短縮を求められる傾向があり、入院が長期化しやすいANの診療環境はさらに厳しくなりつつある。
このような状況に鑑み、当科では安全かつ効率的な医療を提供すべく、行動制限療法やデイケアを含むANの抱括的治療システムを構築した。そして、既存のガイドラインを参考に、合併症の予防、確実な体重増加などを目的とした身体管理マニュアルを作成し、これに組み入れた。治療者はマニュアルに沿って治療を進めるだけで、ガイドラインに則した治療が可能となり、安全性、効率性が向上した結果、入院治療可能な患者数が増え、マニュアル導入前の3倍に増えた。マニュアル導入の効果を広報したところ、多数の問い合わせがあった。身体合併症により生命の危機にある患者、身体管理に難渋する治療者が全国には多数いることを確信し、本マニュアルをさらに周知する必要があると考え、出版するに至った。
浜松医科大学精神医学講座
栗田大輔
目次
本書を利用される皆様へのご挨拶
はじめに
本書の特徴
1章 治療を始める前に
リフィーディング症候群
治療の概要
適応
2章 治療マニュアル
注意事項
入院当日(Day 0)
第1期(Day 1~4)
第2期(Day 5~10)
第3期(Day 11~28)
第4期(Day 29~)
3章 緊急時の対応
1. バイタルサインの異常
2. 低血糖
3. 高血糖
4章 治療薬と各種オーダー
医薬品
約束処方
サプリメント・栄養補助食品
セットオーダー
文献