社会的弱者への診療と支援 格差社会アメリカでの臨床実践指針
(原書名:Medical Management of Vulnerable and Underserved Patients: Principles, Practice, and Populations 2nd edition)
原著 | Talmadge E. King・Margaret B. Wheeler | |
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監訳 | 松田亮三 | |
立命館大学産業社会学部/現代社会学科教授 | ||
小泉昭夫 | ||
京都保健会社会健康福祉研究センター京都大学名誉教授 |
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社会的に弱者が傷病で苦しんでいるとき、医師や医療機関はどのように対処すべきなのか?
内容紹介
文化的・社会保障制度的に、シングルマザーや移民、独居老人、LGBT、ホームレスといった人々は、健康状況が悪化するととたんに生活が破綻する、「社会的弱者」である。そういった人々が傷病で苦しんでいるときに、医師や医療機関はどのように対処可能なのかを明らかにするアメリカの教科書を抄訳し、どのような診療やケアが効果的なのかエビデンスを添えて明らかにしている。
本書の参考文献を一覧にまとめました。下記リンクよりご覧いただけます。ただし、当資料は原著に掲載されている状態のままを再録しており、リンク切れ等で閲覧ができない場合があります。ご了承くださいませ。
序文
本書の翻訳に取り組むに至った経緯には、二つのリソースがあります。
一つは、監訳者の一人松田亮三教授と翻訳者メンバーの石橋修医師・宮川卓也医師が先行して行った通称インクルーシブ研究です。医療者が、患者支援に困難を感じる事由の抽出を目指したその研究は、その一環として、格差先進国米国での現場の取り組みの視察を行いました。その打ち合わせの過程で石橋医師が以前から注目していると話題にしたのが、本書の原著“Medical Management of Vulnerableand Underserved Patients”でした。いわく、「考え方だけでなく、こうした真に実践的で医学的知見に基づいたものを日本へ紹介できたらなあ」と。
もう一つは、学生ボランティアチームの池尻達紀君(現小浜市民病院研修医)と外山尚吾君が私たちの病院のスタッフと続けていた「地域医療のコアを考える会」(通称「コア研」)です。「地域医療」という用語の中に多元的に包含される価値・志向を抽出することを目的に、「在宅医療」「終末期」「認知症」「ごみ屋敷問題」「宗教」「格差」「アルコール」等、毎回テーマを決めて、職員と医系学生が学習・議論してきていました。彼ら二人はたまたま医学部ESSにも所属し、既に大学教授のもとで英語教科書の邦訳を経験していました(コア研については、外山尚呉、池尻達紀、小林充「地域医療を再定義する―『地域医療のコアを考える会』の取り組み」日本プライマリ・ケア連合会誌2018,41(4):191-193、を参照して下さい)。
コア研のとある会合の際、私や、そばにいた石橋医師から学生に本書の原著を紹介し、こうした教科書を邦訳して日本に紹介できたらいいなと考えていることを伝えたところから事態が一気に動きました。彼らは、自分達の、ESSでのつながりや活発な医系学生同士のつながりを使って、分担して精力的に翻訳活動を始めてしまったのです。
もう後には引けませんでした。松田教授と、京都保健会社会健康福祉研究センターに招聘された小泉昭夫京都大学名誉教授に快く監訳を引きうけていただけました。金芳堂の浅井さんには、拙い私どものプランに耳を傾けてもらった上に、経営陣に掛け合ったり、原著者への版権交渉をしていただいたりして出版への道をつけていただきました。医学知識と診療現場での実践の感覚を持つ(しかしその分診療に奔走し超多忙な)多くの京都民主医療機関連合会の同僚医師たちが二次訳を引き受けてくれたことがこの翻訳を実現する最後の決定打となりました。併せて、本書の出版に当たり、費用の一部を、京都民主医療機関連合会医師自主活動支援制度から拠出いただいたいことを付記しておきます。
紙面の都合で全訳とはできませんでした。日本での現場での実践に参考となり得ることを目安に、背景事情の大きく違うテーマを扱った章については今回邦訳からは割愛せざるを得ませんでした。このような当方での事情に快く許可を与えていただいた原著者の皆様に感謝の意を表します。
もちろん系統的・網羅的な学びを目指して通読してもらうのもよいのですが、現場で対応に悩んでおられて、総論はいいから、どんな考え方や実践が推奨されているのかをとあえず知りたい、という方は、各論の該当分野をまず読んでいただくのが役立つかもしれません。なお、米国の医療や保険の事情についての予備知識がほとんどないという方は、先に巻末の補論を読まれることをお勧めします。
本書が、日本において、複雑な背景・困難な事情を抱えた人々の診療や支援にあたっている多くの医療従事者・介護福祉職・研究者・教育者・学生の手に取られ、励ますものとなることを念じてやみません。また併せて、米国に追いつきかねない格差拡大の道を歩むこの国の在り方へ、一石を投じることになれば幸いです。
2020年3月吉日
翻訳者代表
小林充(京都民医連あすかい病院内科)
目次
序文
謝辞
翻訳にあたって
第1章 脆弱な集団・健康格差・健康の衡平
第2章 医療ケア格差:概観
第3章 サービスが十分に行き届いていない患者の倫理的ケアにおける原則
第4章 地域・コミュニティを視野に入れた活動とパートナーシップ
第5章 医学的に脆弱で十分なサービスが受けられない集団のケアにおけるグローバルな視点
第6章 健康の社会的決定要因を臨床に生かす方略
第7章 脆弱な患者の臨床的ケアにおける効果的な介入のためのコンテクストを生み出す
第8章 十分なサービスを受けられていない患者のためのメディカルホームをつくる
第9章 行動変容を促す
第10章 服薬アドヒアランスの評価と推進
第11章 コミュニケーションの改善:制約されたヘルスリテラシーに焦点を当てる
第12章 サービスが行き届かない階層におけるグループ受診
第13章 ハイリスク患者に対するケアのための多職種協働モデル
第14章 支援が十分に行き届いていない子供たち:慢性疾患の予防と健康増進
第15章 ケアの環境としての家族
第16章 隠れた貧困:高齢者のケア
第17章 死にゆく患者のケア
第18章 労働、生活環境、そして健康
第19章 ホームレス患者のケア
第20章 レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの患者への医療サービス
第21章 精神疾患を持つ患者への医学的治療
第22章 女性の健康:貧困な女性における生殖と生殖を超えた問題
第23章 親密なパートナーからの暴力
第24章 アルコールやその他の薬物を使用している患者の治療方針
第25章 喫煙者
第26章 歯のケア:忘れられたニード
第27章 障碍と障碍のある患者たち
第28章 社会体に複雑さを抱えた患者に対する病院でのケア
執筆者一覧
■監訳者
松田亮三 立命館大学産業社会学部/現代社会学科教授
小泉昭夫 京都保健会社会健康福祉研究センター京都大学名誉教授
■翻訳者(五十音順)
足達尚美 京都民医連あすかい病院 薬剤師
石橋修 京都民医連あすかい病院 内科
大塚賢 京都民医連あすかい診療所歯科
大庭まり子 上京診療所 家庭医療科
菊川玲子 京都民医連あすかい病院 リハビリテーション科
小林充 京都民医連あすかい病院 内科
近藤悟 京都民医連あすかい病院 精神科
高木幸夫 上京診療所 家庭医療科
玉木千里 京都協立病院 内科
中馬博子 京都民医連あすかい病院 内科
寺本敬一 ふくちやま協立診療所
栂野春奈 京都民医連あすかい病院 精神科
宮川卓也 京都民医連あすかい病院 内科
■学生翻訳ボランティアチーム(五十音順)
青木杏奈
池尻達紀
稲元瑞月
上田早紀
大上紗英
大澤開
小川瑠里子
川崎翠
木谷百花
金子璇
坂井有里枝
坂口磨哉
澤登千聖
七條ありさ
白石りつ
荘子万能
竹内美優
外山尚吾
内藤惇
永松果林
林亮太
平田千尋
深田一輝
古田凌都
松浦宗一郎
宮脇里奈
本林凌
吉川美佳子
李展世