パノラマ精神医学 映画にみる心の世界
-CINE-PSYCHOPATHOLOGY-
著 | 中村道彦 |
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京都教育大学教授 |
- 【 冊子在庫 】
映画を楽しみながら「心の健康障害」を理解する!
内容紹介
いじめや不登校、校内暴力、ひきこもり、幼児・高齢者虐待、DV、対人関係のストレス、自殺、自傷、ドラッグ…と現代社会が抱える諸問題は多様化し、その背後には現代人の心の平衡・健康を消失しつつある危機感、心の健康障害、精神を病んだ姿が見えてくる。これらは多面的な視点をもち、精神医学の観点のみから捉えることができないが、精神科医である著者はこれら諸問題を心の健康障害として捉え、映画解説を随所に取り入れて、映画の中で描かれている心の健康障害を精神医学の視点から紹介した。
映画を楽しみながら健康障害を理解できる、とっつきやすく読みやすい精神医学の手引書である。たとえば、ストレス対処法では映画『ポーラー・エクスプレス』(ロバート・ゼメキス監督、2004年)を紹介している。この映画を観たことのある読者は映画のシーンを思い出しストレス対処の奥義を学ぶだろう。あるいは映画を知らない人は興味を抱いてレンタルビデオやDVD屋に走るかも知れない。
本書をきっかけにして映画を鑑賞することでさらに心の健康問題に目を向けていただきたい。映画は古くは1940年代から最新版2007年のものまで約100点をセレクトした。心の健康障害を理解するための入門書として一味ちがったユニークな本に仕上がっている。幅広い読者層にお薦めする。
[主な掲載映画リスト](出典順)
○『ポーラー・エクスプレス』(ロバート・ゼメキス監督、2004年)
○『アラバマ物語』(ロバート・マリガン監督、1962年)
○『カッコーの巣の上で』(監督 ミロス・フォアマン、1975年)
○『博士の愛した数式』(小泉堯史監督、2006年)
○『私の頭の中の消しゴム』(イ・ジェハン監督、2004年)
○『コーマ』(マイケル・クライトン監督、1977年)
○『レナードの朝』(ペニー・マーシャル監督、1990年)
○『酒とバラの日々』(ブレイク・エドワーズ監督、1962年)
○『シャイン』(スコット・ヒックス監督、1995年)
○『ベニスに死す』(ルキノ・ビスコンティ監督、1971年)
○『デジャブ』(トニー・スコット監督、2006年)
○『ライムライト』(チャールズ・チャップリン監督、1953年)
○『心の旅路』(マーヴィン・ルロイ監督、1942年)
○『ジギルとハイド』(ステイーブン・フリアーズ監督、1996年)
○『アナラズ・ミー』(ハロルド・ライミス監督、1999年)
○『めまい』(アルフレッド・ヒッチコック監督、1958年)
○『ランボー』(テッド・コッチェフ監督、1982年)
○『エデンの東』(エリア・カザン監督、1955年)
○『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督、1968年)
○『ルートヴィッヒ神々の黄昏』(ルキノ・ヴィスコンティ監督、1980年)
○『タクシー・ドライバー』(マーティン・スコセッシ監督、1976年)
○『ナッツ』(マーチン・リット監督、1987年)
○『イヴのすべて』(ジョセフ・L・マンキウィッツ監督、1950年)
○『欲望という名の電車』(エリア・カザン監督、1951年)
○『マイ・フェア・レディ』(ジョージ・キューカー監督、1964年)
○『サムサッカー』(マイク・ミルズ監督、2005年)
○『レインマン』(バリー・レヴィンソン監督、1988年)
○『ウィズ・ユー』(ティモジー・ハットン監督、1973年)
○『17歳のカルテ(ジェームス・マンゴールド監督、1999年)
○『インソムニア』(クリストファー・ノーラン監督、2002年)
○『ガス燈』ジョージ・キューカー監督、1944年)
○『刑法三十九条』(森田芳光監督、1999年)
○『理由なき反抗』(ニコラス・レイ監督、1955年)
(など多数)
序文
本書は、心の健康やその障害について、精神医学の専門家ではない姿にも理解していただく一助となることを願って出版した。したがって、できるだけ専門用語を使わずに説明することに努めた。パノラマという題名は、心の世界を正常~異常にかかわらず概観することを目指したからである。臨床心理では正常な側面から、精神医学では病的な側面から心を見つめている。これは例えれば心の世界の平野部(正常領域)と山岳部(異常領域)に視点を置いたものであるが、パノラマはこの両者を鳥瞰的に見晴らすことを目指す。なお著者が精神科医であるために召喚するのは山岳部よりになることはお許しいただきたい。このように本書は心の世界を広く知るための入門書として役立つことを目的にしている。心の健康やその障害について専門的な理解を深めたいと思っている方は、関係の専門書を参考にしていただきたい。
さらに心の健康とその障害のイメージをつかみやすいように、映画の中で描かれている心の世界を紹介した。映画と精神医学を扱った書籍としては、小此木啓吾先生の『映画でみる精神分析』(1992年、彩樹社)という素晴らしい書籍が出版されている。映画の中に描かれた心の機微を力動精神医学の視点から深く洞察した書である。他にも名古屋工業大学保健センターの粥川裕裕平先生は東海テレビに「銀幕こころの旅」というコラムで映画と心の問題を紹介しておられる。これらの著者に比べれば本書は表彰表層的な映画の紹介に終わっていると思うが、本書をきっかけにして映画を見ることでさらに心の健康問題に目を向けていただければ幸いである。なお副題にあげた「シネ・サイコパソロジー(映画精神病理学)、CINE-PSYCHOPATHOLOGY」は全くの造語であるが、映画における精神の多元的な研究法が新たなジャンルとして発展することを願っている。
なお本書は精神科の具体的な治療については触れていない。治療は、基礎的な知識や経験のない者が見よう見真似で行うべきではなく、専門家に相談して指導を受けるべきものであるからである。治療について浅い知識を持つことは、治療に関する誤解を生み出しやすいだけでなく、その人が治療を受ける場面でも不利益になることがある。例えば、治療に対する誤解から、その治療をかたくなに拒んだり、思い込みから独断的な行動をとって結果的に治療をゆがめたり、あるいは誤った方向に治療を向けてしまうことも起こりうる。したがって本書では、治療法については敢えて触れないことにした。ただ、ストレス対処と薬物治療に関する基本的な考え方については述べてある。これらは治療を受ける時の心構えのようなものであり、むしろ多くの方に理解していただいた方がよいからである。
さらに本書はいじめや不登校、発達障害など、こどもたちの心の健康問題にも触れており、ことに教師の方には、こどもたちをどのように見ていけばよいのか、そしてどこまで関わっていけるのかを考えるための参考にしてほしい。
本書が専門家のみならず精神医学や心の健康について学びたいと思っている非専門医の方の入門書として役に立つものであることを願っている。
最後に、楽しくなるようなカバーイラストを描いていただきました喜田富美代氏に感謝申し上げます。
2007年9月
中村道彦
目次
I ストレス
A ストレス状態
B ストレス対処法
Ⅱ 心身症
A 不適応反応
B 心身症
Ⅲ 精神病
A 広義の精神病
B 認知症(痴呆症)
C 意識障害
D アルコール関連障害
E タバコ依存症
F 統合失調症
G 妄想性障害
H 気分障害
Ⅳ 神経症
A 広義の神経症
B 神経症の歴史
C 神経症の発症メカニズム
Ⅴ 発達関連障害
A 心の発達
B 人格障害
C 破壊的行動障害
D 広汎性発達障害
E 学習障害
F 知的障害(精神[発達]遅滞)
Ⅵ 欲求関連障害
A 摂食障害
B 性障害
C 睡眠障害
D 自傷と自殺(自死)
Ⅶ 衝動関連障害
A 衝動制御障害
B チック障害
C いじめ
D 児童虐待
Ⅷ 社会的待避状態
A 不登校
B ひきこもり
Ⅸ 疾病捏造
A 虚偽性障害
B 詐病
Ⅹ 薬物治療の理解
A 「治る」こと
B 心の薬
XI 現代日本の社会と心の病理
A 戦後社会におけるわが国の意識変化
B 現代人の制御不能感