特発性大腿骨頭壊死症
編集 | 久保俊一 |
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京都府立医科大学大学院教授 | |
菅野伸彦 | |
大阪大学大学院教授 |
- 【 冊子在庫 】
内容紹介
「序」より
特発性大腿骨頭壊死症(idiopathic osteonecrosis of the femoral head;ION)は、大腿骨頭の阻血性疾患で、進行すれば、大腿骨頭圧潰から変形性股関節症に至り、疼痛や歩行障害など生活の質(QOL)を著しく低下させる難病である。男性が女性よりもやや多く、男性で40歳代、女性で30歳代をピークとして青荘年期に好発し、ひとたび発症すると保存療法ではなかなか治癒させることができず、手術療法でも時間とコストを要し、医療経済や社会経済的にも損失は大きい。早期診断、早期治療、そして高リスク患者においては予防も望まれるところである。このIONの研究や臨床に関しては、日本が世界をリードしている。それは厚生労働省大腿骨頭壊死症調査研究班が存在してきたからである。この調査研究班は、1975年(昭和50年)に発足し、現在まで35年を数えている。この間、8人の班長が調査研究班を組織し、疫学、病態、診断、治療、予防の分野でめざましい成果をあげている。
診断基準による精度の高い早期診断と病型分類による自然経過の分析で、ION発生後の病態はかなり明らかとなってきた。ステロイド投与と関連性のあるステロイド性大腿骨頭壊死症が疫学的に50%以上を占め、ステロイド投与開始後早期に無症状で発生し、その後はステロイドが継続投与されても壊死の拡大や新たな発生はないことが明らかとなっている。また、脂肪塞栓、骨髄脂肪肥大による骨髄内圧上昇、血液凝固亢進と血栓、酸化ストレスと血管内皮障害など、阻血発生機序に関する研究が優れた動物モデルなどを用いて精力的に行われている。さらに、ステロイドの感受性や代謝の個人差によりステロイドの効果に差異のあることが遺伝子レベルでも証明され、臨床的な予防法開発に関しての全国規模の多施設共同研究も進んでいる。
編者は平成16年度から平成20年度まで調査研究班の班長を努めたが、長年にわたる多大な研究成果の上に積みあがる新しい知見を広く知ってもらう必要性を痛感し、菅野伸彦先生とともに本書の企画に至った。本書では、長年実績をあげてこられた先生方に厚生労働省ION 調査研究班の研究成果を基にして、疫学、病態、診断、治療、予防について最新情報を分かりやすく紹介していただいた。
本書が日常診療の参考となるとともに、今後のION の病因解明および発生予防へつながる研究の一助となることを祈っている。
目次
Ⅰ 序章
1 特発性大腿骨頭壊死症の定義、分類、病理的特徴
2 厚生労働省特発性大腿骨頭壊死症調査研究班の歴史
Ⅱ 疫学
1 疫学を理解するための基本:研究デザインの観点から
2 特発性大腿骨頭壊死症の全国疫学調査
3 定点モニタリングシステムによる疫学調査
4 疫学からみた発症要因―症例・対照研究―
5 特発性大腿骨頭壊死症に対する人工股関節全置換術・人工骨頭置換術の登録監視システム
Ⅲ 診断
1 X線学的診断
2 MRI診断
3 MRI診断(特殊編)
4 骨シンチグラム
5 骨生検―組織像の読み方のコツ―
6 診断基準
Ⅳ 病態
1 病期分類、病型分類
2 特発性大腿骨頭壊死症の自然経過
3 動脈造影からみた特発性大腿骨頭壊死症の血管走行
4 PETからみた大腿骨頭の血行動態
5 ステロイド性大腿骨頭壊死症の臨床像
6 ステロイド性大腿骨頭壊死症の壊死領域の変動
7 多発性骨壊死の病態
Ⅴ 実験的研究
1 ステロイド性大腿骨頭壊死症の動物モデル作製とその特徴
2 骨壊死実験動物モデルにおける発生早期のMR画像評価
3 ステロイド性骨壊死とアポトーシス
4 ステロイド性大腿骨頭壊死症における脂肪組織の役割
5 血管内皮障害―アポトーシスの観点から―
6 血管内皮障害―nitric oxideの観点から―
7 ピタバスタチンによるステロイド性骨壊死発生予防―動物モデルでの検討―
8 骨内DNA酸化障害の骨壊死への関与とグルタチオンによる予防効果
9 ビタミンEのステロイド性骨壊死抑制効果
10 電磁場のステロイド性骨壊死予防効果
Ⅵ 治療
1 特発性大腿骨頭壊死症における基本的な治療方針
2 大腿骨頭前方回転骨切り術
3 大腿骨頭後方回転骨切り術
4 大腿骨転子間弯曲内反骨切り術
5 人工骨頭置換術・人工股関節全置換術
6 血管柄付き骨移植術
7 core decompressionとcore biopsy
Ⅶ 新しい治療法の開発
1 表面置換型人工股関節全置換術
2 特発性大腿骨頭壊死症に対する自家骨髄単核球移植術
3 ビスフォスフォネートによる早期骨壊死の治療
4 コンピュータ支援手術
Ⅷ 臨床的予防法の開発
1 ステロイド性大腿骨頭壊死症に対する予防法開発の現況
2 ステロイド性大腿骨頭壊死症に関する遺伝子多型
3 ステロイド代謝酵素活性の個体差は利用できるか
4 薬物による予防は可能か―高脂血症治療薬―
5 薬物による予防は可能か―抗凝固薬―