ヘイスティングス・センターガイドライン 生命維持治療と終末期ケアに関する方針決定

(原書名:Guidelines on the Termination of Life-Sustaining Treatment and the Care of the Dying: a report)

  • 絶版
定価 5,060円(本体 4,600円+税10%)
原著Nancy Berlinger/Bruce Jennings/Susan M. Wolf
監訳前田正一
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授
A5判・320頁
ISBN978-4-7653-1666-8
2016年03月 刊行
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終末期医療のガイドライン決定版

内容紹介

本書は、1987年に出版された『生命維持治療および死期のケアの中止に関するガイドライン(原題:Guidelines on the termination of life-sustaining treatment and the care of the dying : a report)』(The Hasting Center , Indiana University Press)の増補・改訂版の全訳である。しかし終末期治療のガイドライン・生命維持治療のガイドラインといっても、本書は終末期治療の正しい決定を行うための公式やアルゴリズムを提供するものではない。ましてや倫理の『レシピ本』ではない。本ガイドラインは、終末期に優れたケアを提供するために必要な熟慮や判断、そして行動のための指針を提供すること、特に困難でかつ心理的な苦悩を伴うこともある状況下で決定を行うための倫理的枠組みを提供することを目的としたものである。

本書は、1987年版のガイドラインを改訂・増補し、その後25年間の実証研究や臨床技術の進歩、法政策の展開、診療・システムをめぐる専門家によるコンセンサスから、施設の倫理サービス等、医療環境における現代アメリカの倫理観、さらには患者の利益を考慮に入れるとともにその家族や社会的関係を尊重すべくヘルスケアを整備してきた25年間の継続的取り組みの結果を反映させたものである。さらに初版には含まれなかった小児の意思決定に関する指針も含まれるようになっているので、インフォームド・アセントや、決定能力のある小児の終末期医療にも対応している。

本ガイドラインは、日本においても、決定プロセスに参加する者それぞれの権利と責任を明確化し、決定が適切な討議、透明性と公正なプロセスの下で、かつ弱い立場にある患者を保護するための手段が講じられた上で行われることを確保する手助けとなることを確信している。 終末期医療に関する意識調査等検討会「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」(平成26年度)によれば、非医療関係者・非介護職の一般国民の意識においても70%の方が意思表示書の作成に賛成している状況にある。本書がその作成にあたっての重要な手がかりになることを祈っている。

序文

世界を代表する生命倫理の研究所である、米国のヘイスティングス・センター(The Hastings Center)は、1987年に終末期ケアに関する倫理ガイドラインを公表した。このガイドラインは、体制整備や教育の問題を含む、終末期ケアの進め方について多方面から検討し、実践上の論点を明確にしたものである。このため、本ガイドラインは、終末期ケアに関わる米国の医療関係者や医療機関の管理者の注目を集めてきた。それだけではなく、このガイドラインは、丁寧な基礎研究に基づき実践上の論点を明確にしたものであることから、終末期ケアに関する倫理的検討を行う際に重要な基礎資料となり、また、米国以外の国で医療政策や法政策に関する検討を行う際にも重要な基礎資料になることから、この問題に関わる彼の国の内外の研究者の注目も集めてきた。

上記のガイドラインの公表から約20年が経過したとき、ヘイスティングス・センターは、高齢化や医療技術の進歩、医療費の増加など、初版刊行後の諸環境・諸事情の変化を鑑み、今日の現場対応に相応しい改定・増補版を刊行するためのプロジェクトを立ち上げた。その成果がまとめられたものが本書(原書)であり、初版の公表から四半世紀を経て出版された。

改定・増補版が出版された直後、今回の翻訳者の一人である上白木氏から、邦語版刊行の提案があった。しかし、翻訳作業には、邦語の選択の問題や、本書内でのその統一の問題など、悩ましい問題が付きまとうことから、原書の内容を正確に、そしてわかりやすく記述した文章を作成するためには、それ特有の忍耐力が必要となる。このため、監訳者は、監訳であっても、上記の提案を実際の計画に移すことに気が進まなかった。しかし、原書のページをめくるにつれ、邦語版の刊行の重要性を強く感じるようになった。その理由の一つには、原書における、家族を交えた方針決定やチーム医療に関する記述がある。わが国でも、これらの重要性は、早くから語られてきた。しかし、監訳者にとっては、それが時に形式的な言及であるようにすら思えることがあった。また、法的・倫理的問題があるのではないかとして、わが国で報道された終末期医療のケースをみると、家族を交えた方針決定やチーム医療について、問題があったと指摘されても仕方がない実態があったことがわかる。

本書の具体的な内容については、続く目次のページで確認していただくことにするが、本書の概要を一言で示せば、優れた終末期ケアとは何か、このことについて検討の道筋を与えるためのものであると言える。したがって本書は、終末期ケアの倫理問題に対応するためのハウツーを示したものでもなく、生命維持治療の中止について、法的責任を問われないためにはどうすべきかについて記述するものでもない。この点については、原書の中でも、次のような記述がなされている。

本ガイドラインは、正しい決定を行うための公式やアルゴリズムを提供するものではない。倫理の『レシピ本』ではないのだ。本ガイドラインは、終末期に優れたケアを提供するために必要な熟慮や判断、そして行動のための指針を提供すること、特に困難でかつ心理的苦悩を伴うこともある状況下で決定を行うための倫理的枠組みを提供することを目的としている。
「序」2頁

本書の読者対象としては、医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、臨床心理士など、終末期ケアに直接関係する(関係することが期待される)医療従事者はもとより、医療機関内で、終末期ケアの倫理的・法的問題を検討する、臨床倫理委員会の委員や、臨床倫理コンサルテーションの関係者などをあげることができる。日本では、医療安全分野の管理者もまた、現場の医療従事者から、終末期ケアの倫理的・法的問題について相談を受けることがあろう。そして、終末期医療の問題について研究をする、医療倫理や医事法、医療政策や法政策に関わる研究者も本書の読者対象として示すことができる。その理由は、上記で示したように、本ガイドラインが丁寧な基礎研究に基づき実践上の論点を明確にしたものであるからである。さらには、家族を交えた方針決定の問題や、終末期ケアに関する事前指示の問題などを鑑みると、本書は広く一般市民の方々にとっても益のあるものだと考えられる。こうしたことから、多くの方々に本書を手にしていただければ幸いである。

原書の翻訳作業について付記する。まず、監訳者・前田が本書を一読し、訳者の一人である横野氏の協力を得て、用語の邦語訳を纏めた単語帳を作成した。次に、各訳者へ、同単語帳を参考にして翻訳をすることを依頼した。その後、各訳者による翻訳原稿を、監訳者が確認・校正した。その中には、出版時期を急いだことから、訳者の希望により、監訳者が校正した原稿が出版稿になったものもある。いずれにしても、本書に不適切な記述があれば、それはもっぱら監訳者の責めに帰すべきものである。

本書の刊行にあたっては、校正・編集作業において、訳者の一人である及川正範氏と株式会社金芳堂編集部の浅井健一郎氏に大変お世話になった。労力を惜しむことなく、刊行まで支援してくださったことに、記して厚くお礼を申し上げる。

2016年2月
前田正一

目次

本ガイドラインの構成
本倫理ガイドラインの機能と根拠
本ガイドラインが基礎を置く法的・倫理的コンセンサス:権利、保護および重要な哲学上の区別
第1部 枠組みと背景
第1章 患者が生命維持治療に関する決定に直面している場合または終末期が近い場合における優れたケアための倫理上の目標
第2章 生命維持治療に関する決定に直面している患者または終末期が近い患者を担当する医療専門職に対する倫理教育
第3章 優れたケアおよび倫理的行為を支援する組織システム
第4章 社会、経済および法律の各側面
第2部 ケア計画および意思決定に関する指針
第1章 事前ケア計画および事前指示に関する指針―患者の選好によるケア目標の確立とケア計画の開発
第2章 意思決定プロセスに関する指針
第3章 新生児、乳児、小児および青年に関する指針
第4章 ケアの引き継ぎに関する指針
第5章 死亡判定に関する指針
第6章 施設の基本方針に関する指針
第3部 意思決定とケアを支援するコミュニケーション
第1章 患者、代理決定者および近親者とのコミュニケーション
第2章 障害のある患者とのコミュニケーションおよび協力
第3章 生命維持治療および終末期ケアに関する意思決定の心理的側面
第4章 特殊な治療方法と技術に関する意思決定
第5章 医療資源の分配ならびにケアにかかるコストについて医療機関内で議論する際の手引き
用語集
引用法令・判決
参考文献

執筆者一覧

■原著者
Nancy Berlinger,PhD,MDiv
Research Scholar,The Hastings Center,Lecturer,Yale University School of Nursing
Bruce Jennings,MA
Director of Bioethics,Center for Humans and Nature,Lecturer,Yale University School of Public Health
Susan M. Wolf,JD
McKnight Presidential Professor of Law,Medicine & Public Policy,Faegre Baker Daniels Professor of Law,Professor of Medicine,Faculty Member,Center for Bioethics,Founding Chair,Consortium on Law and Values in Health,Environment & the Life Sciences,University of Minnesota

■監訳
前田正一  慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科 教授

■翻訳者
井上悠輔  東京大学医科学研究所
及川正範  東京大学大学院医学系研究科
上白木悦子 山口県立大学社会福祉学部
中澤英輔  東京大学大学院総合文化研究科
旗手俊彦  札幌医科大学医療人育成センター
横野 恵  早稲田大学社会科学部

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