手 その機能と解剖
第6版
若手医師、作業療法士、理学療法士など幅広い読者層に対応
内容紹介
今迄に出版した各版をもう一度見直し、内容を統括し、その上で最近の知見を加えて第6版が作製された。
基本的な知識から治療の実践上知っておくべき手の機能と解剖の要点がまとめられている。この本を熟読して頂ければ、正常な手の進化の過程やその機能と解剖の知識を得られるばかりでなく、手の先天異常、損傷、病気などについてもある程度は学べるように配慮され、生きた手の機能と解剖が克明に説き明かされている。
また、多数の色刷りシェーマとカラー写真やX線写真で、明快に展開されているので、整形外科医、形成外科医はもちろん、ハンドセラピスト、理学療法士、作業療法士など幅広い読者層に対応する充実した内容を完備した。
序文
第6版の発刊にあたって
1970年に本書第1版を出版してから早や50年の歳月が流れた。この機会に今迄に出版した各版をもう一度見直し、内容を統括した。その上で最新の知見を加えて、第6版を構成した。今回の主な改訂の要点は次の如くである。①以前の版の文面に見られた不適切な文字や不明確な文章を修正した。②手の働きや解剖を理解し易くする為に多くの写真・X線像・付図を用いた。手の写真や図には右手を使用することに統一した。③参考文献は夫々の章または節ごとの後部に纏めて記載した。④初版発行の頃にはマイクロサージャリーは未だ十分に普及していなかったが、現在の手外科では一般的に広く使われている。手の手術時に必要と考えられる微小な解剖所見は出来るだけ記載した。例えば、マイクロサージャリーで使われる回転皮弁や血管柄付き骨移植に必須な微小動脈や穿通枝なども記載した。また、近年重視される骨間膜や靭帯の微細組織構成も記載した。臨床でも重要なこれらの微小解剖所見がわが国の研究者によって数多く発表されるのは非常に悦ばしい。
過去50年間に社会情勢は大きく変化した。地球周辺に宇宙ステーションが建設され、多くの宇宙衛星が飛び回っている。ある国では平和で豊かな生活を享受しているが、他の国では戦争によって混乱した極貧の生活を過ごしている。古代人は手で火をおこし、道具を使って狩猟や農耕をしていた。IT時代の現代人はITカードやスマートフォンを使って日常の生活をしている。いずれの時代でも手は人間生活にとって不可欠である。ただし、古代人は人類を存続させる為に手を使っていたが、現代人は人類の存亡を軽視して手を使っている。手でリニアモーターカーを造るが、原爆やミサイルなどの大量殺人兵器をも造るのである。
人が手を使う時、それは脳に伝わり、脳を活性化し、脳を発達させる。脳の発達に伴い手は更なる機能を習得する。手と脳とは相互に刺激し合いながら発達して来たのである。愛に満ちた母の手が触れる時、子どもの心に愛が生まれる。握手する時、友の心に友情が芽生える。美しい手が舞う時、人の心に美が育つ。そして、慈愛に満ちた手が優しく美しい物を作り出す時、平和な社会が育てられる。人の手は平和の為に使わねばならない。それが私たちの願いである。
手が送り出す情報がどのように脳に伝わり、脳から発信される指令が如何に手を働かせるのであろうか。強い興味を覚える。
この著書の最初の目的は手外科の参考書としての利用であったが次第に読者の層が広がった。初期の読者は手外科医・整形外科医・形成外科医・一般外科医などの医師であったが、やがてハンドセラピスト・理学療法士・作業療法士などが読者に加わった。そして、手の働きに関心を持つロボット研究者・幼少児教育者・音楽家の方々にも読まれるようになった。望外の幸せであり、深く感謝している。
この著書の出版に当っては、本当に多くの方々からご支援を賜った。故人となられたが、私には忘れ得ない恩人として恩師の伊藤鐡夫名誉教授、およびEmeritus Prof.Robert E.Carrollが居られる。また、永年に亘る協同研究者であった故田村清先生、故小原安喜子先生、故須藤容章先生たちである。そして、現在もお元気で長年に亘るご指導とご支援を頂いている数多くの同門や学会の友人たちである。改めて、ここに厚く御礼を申し上げます。
末筆になりましたが、今回の改定には近畿大学整形外科学柿木良介教授および京都大学手外科グループの諸先生から多大の助言とご協力を頂き誠に有難うございます。また、今回の大幅な改訂に協力して頂きました金芳堂の皆様に厚く御礼を申し上げます。特に、前社長市井輝和氏、現社長宇山閑文氏、そして5版から引き続き改訂を担当して頂きました小崎徹也氏に深甚なる感謝の意を表します。
平成28年11月吉日
上羽康夫
目次
1章 手の機能
Ⅰ 手の機能
A.手の基本機能
– 1.運動機能
– 2.知覚機能
– 3.形態機能
B.手の作業能力
– 1.手の運動と中枢神経系
– 2.手の知覚機能と中枢神経系
– 3.熟練作業と小脳の働き
C.手の社会的役割
Ⅱ 手の機能障害
Ⅲ 手の機能評価法
A.手の基本機能の評価法
– 1.手の運動機能の評価法
– 2.知覚機能評価法
– 3.形態機能評価法
B.手の作業能力の評価法
C.手の社会的役割の評価法
2章 手の発生と発達
Ⅰ 手の系統発生
A.魚類胸鰭から両生類前脚への転換
– 1.現生魚コイの胸鰭
– 2.胸鰭から前脚への進化
B.両生類の出現と四肢の発達
– 1.両生類前脚の進化
– 2.現生両生類ヒキガエルの前脚
C.爬虫類の前脚
– 1.爬虫類における前脚の進化
– 2.現生爬虫類トカゲの前脚
D.恐竜の適応放散と手の形態変化
E.哺乳動物の前脚の進化
– 1.陸上哺乳動物の脚端変化
– 2.哺乳動物ライオンの前脚
– 3.把持型脚端の進化
– 4.サルとヒトの手の比較
– 5.アカゲザルRhesusmonkeyの手
Ⅱ 人胎芽における手の発生と発達
– 1.軟骨・骨・関節の発生
– 2.神経と筋肉の発生
– 3.脈管系の発生
– 4.肢芽発生に関わる蛋白、特定体、および特定転写因子
3章 表面解剖学
Ⅰ 皮膚解剖
A.前腕の皮膚解剖
B.手の掌側皮膚解剖
– 1.手の掌側部位の名称
– 2.皮線と隆線
C.手の背側面解剖
– 1.手背皮膚の特徴
– 2.爪
D.表面解剖と深部組織との関係
– 1.手の表面解剖と深部組織
– 2.手背の表面解剖と深部組織
– 3.Zone
Ⅱ 表面運動解剖
A.前腕運動
B.手関節運動
– 1.手関節背屈運動
– 2.手関節掌屈運動
– 3.手関節橈屈運動
– 4.手関節尺屈運動
– 5.手関節回転運動
C.指の運動
– 1.指の側屈運動
– 2.指の屈曲運動
– 3.指の伸展運動
D.母指の運動
– 1.母指運動の概念
– 2.母指屈曲運動
– 3.母指伸展運動
– 4.母指外転運動
– 5.母指内転運動
– 6.母指対立運動
E.関節運動と可動域表示
4章 深部解剖学
Ⅰ 骨
A.前腕骨
– 1.橈骨
– 2.尺骨
– 3.前腕骨間膜
B.手の骨
– 1.手根骨
– 2.中手骨
– 3.指骨
– 4.その他の手の骨
Ⅱ 関節
A.前腕の関節
– 1.近位橈尺関節
– 2.遠位橈尺関節
– 3.三角線維軟骨と三角線維軟体
B.手の関節
– 1.手関節
– 2.手根中手関節
– 3.母指手根中手関節、大菱形関節
– 4.中手指節関節=MP関節
– 5.指節間関節
Ⅲ 筋および腱
A.前腕筋群(外在筋)
– 1.屈曲・回内筋群
– 2.伸展・回外筋群
B.手筋群(内在筋)
– 1.母指球筋
– 2.小指球筋
– 3.骨間筋
– 4.虫様筋
C.指の伸展機構と指のバランス
– 1.伸展機構の主要組織
– 2.伸展機構の補助組織
– 3.指の伸展運動
– 4.指のバランス
D.指運動と腱のモーメントアーム
E.母指の伸展機構と母指のバ
Ⅳ 腱鞘
A.手掌および指の腱鞘
– 1.総指屈筋腱腱鞘
– 2.指腱鞘
– 3.長母指屈筋腱腱鞘
B.手背の腱鞘
Ⅴ 筋膜
A.浅層筋膜
– 1.前腕および手の浅層筋膜
– 2.指の皮膚靱帯
B.深層筋膜
– 1.前腕の深層筋膜
– 2.手根部掌側の深層筋膜
– 3.手掌の深層筋膜
– 4.手掌腱膜
– 5.手根部背側の深層筋膜
– 6.手背の深層筋膜
– 7.末節骨の側骨間靱帯
Ⅵ 筋膜腔
A.前腕および手掌の筋膜腔
– 1.大前腕腔
– 2.中央手掌腔
– 3.母指腔
– 4.後母指内転筋腔
– 5.虫様筋腔
B.手背の筋膜腔
Ⅶ 神経
〔微小解剖〕
A.前腕の知覚神経
– 1.内側前腕皮神経
– 2.外側前腕皮神経
– 3.後前腕皮神経
B.前腕および手の運動知覚神経
– 1.正中神経
– 2.尺骨神経
– 3.橈骨神経
〔筋枝〕
C.手の皮膚知覚神経
– 1.皮膚分節
– 2.末梢神経の知覚支配域
Ⅷ 動脈
〔微小解剖〕
A.橈骨動脈
B.深掌動脈弓
C.尺骨動脈
– 1.尺側反回動脈
– 2.総骨間動脈
– 3.前腕遠位背側部の動脈群
– 4.背側手根枝
– 5.掌側手根枝
D.浅掌動脈弓
– 1.浅掌動脈弓の変異
– 2.手掌皮膚への細動脈
– 3.指の動脈
– 4.屈筋腱への血流
E.動脈変異
F.動脈の損傷
G.フォルクマンの拘縮
Ⅸ 静脈
〔微小解剖〕
A.深静脈
B.浅静脈
– 1.橈側皮静脈
– 2.尺側皮静脈
– 3.前腕正中皮静脈
Ⅹ リンパ系
A.リンパ管
– 1.浅リンパ管
– 2.深リンパ管