プライマリ・ケア医も 精神科医も 精神症状に使える!漢方処方レシピ集
精神症状に漢方が効くって本当?! 漢方処方初心者向け、“超”入門書
内容紹介
診察をしていると、“抑うつ”や“不安”、”不眠”といったコモンな精神症状に出会うことが多くなってきました。また、最近、”認知症のBPSD”も増えてきています。「すぐに、向精神薬はちょっと…」と思うなら、軽度であれば漢方は有用で、漢方を勧めるのも一つの手です。
本書は、抑うつや不安、不眠、認知症BPSDの興奮・焦燥・アパシー、向精神薬の減量サポートと併用に有用な方剤や具体的な処方を紹介。精神症状の患者に出会うことが多くなったプライマリ・ケア医や漢方をあまり使ったことがない精神科医でも、本書を読めば、精神症状における漢方の立場がよくわかり処方できるようになること、間違いなし!
序文
久しぶりに一から本を書くこととなりました。ありがたいことです。実を言うと個人的にはネタ切れ傾向にあったのですが、「漢方を使ってみたいけれども、どうしても専門用語が…」という声を耳にすることが度々ありました。入門書と言われるものを読んでみても、確かに初学者にはとっつきづらいと思われる内容であることが多いようにも思われたのです。そのため、「漢方の用語を使わずにうまく説明できたら、はじめの一歩には良いかもしれない」という気持ちがあったのは事実。そんな折に漢方薬関連の執筆依頼を頂き、今回の運びとなりました。よって、本書は「漢方って何なの?」という方々向けであり、精神症状を題材とした“入門中の入門”になります。同じく私の漢方本である『ジェネラリストのためのメンタル漢方入門』(日本医事新報社)よりもずいぶんと易しめになっている、とお考えください。
本書の内容で少しお話ししておくことがあります。まずは日本漢方の考え方をしていない、という点。すなわち、処方決定の際に有名な“体格”や“体力”を考慮していません。そのため処方の仕方が変わっているように思われるかもしれませんが、このような方法もあるのだなとご理解いただければ幸いです。ただし、日本漢方にも配慮をして“体格”や“体力”も参考程度に記載することにしました。そしてもうひとつは、漢方製剤のタイプです。製薬会社による細かい生薬の違いは述べませんが、漢方製剤には1日3回タイプと1日2回タイプのものがあります。本書では採用の多さから1日3回タイプを前提として進めています。
ここでひとつご注意を。本書には架空の患者さんに多く登場してもらっています。それぞれの患者さんの冒頭には“ケース”という言葉が付いていますが、これはあくまでも便宜上です。“ケース”という表現は好ましくなく、医療者の関与を見ていないことになります。私たちは人と人とのあいだに生きる存在であり、患者さんの行動や感情を、独立したもの、患者さん固有のもの、患者さんに“責任”が帰されるもの、として扱ってはなりません。実際の臨床では、常に私たちの関与によって浮き上がる現象として考えてみるようにしましょう。
今回の目玉は、見ていただくと分かるのですが、私にしては珍しくページ数も抑え気味で、お値段も安い! これまでは脱線するのがデフォルトであり、広がりすぎて収集がつかなくなることも頻回だったのですが、本書は何とかそれを自制できたと思っています。内容もほとんど漢方の話で(それが当然なのですが…)、ユーザーフレンドリーを目指しました。専門用語を出来るだけ廃し、西洋医学“風”の言葉と日常用語を交えて説明しています。“無理をしない漢方診療”の踏み台として、ぜひ。読み終わった暁には、ステップアップのために様々な書籍に触れていただければなお良いかと思っています。
最後に、医学の進歩へと多大な貢献をしてくれている実験動物の皆さん、出会った全ての患者さん、生活を支えてくれている家族に厚く御礼申し上げます。とりわけ、資格を何も持たない一介の勤務医に機会を与えてくださった金芳堂の西堀智子様には、消えない虹のような感謝を。風邪ばかりひいて弱っている私をムチ打つように (?) 激励してくださった西堀様がいなくては、本書は決して形にならなかったでしょう。
かぜに乗り、途切れながらも、続く夢
2019年4月
宮内倫也
目次
はじめに
chapter1)精神症状と漢方
①誰に向いている?
②重症?軽症?
③いざ処方?でもここには注意
④入門に最適な症状は?
chapter 2)漢方の基礎知識 ~イメージで覚える~
①漢方はあやしい?
②日本漢方と中医学
③漢方での健康と病気とは?
④漢方の理論から病気の種類や程度を見分ける
・患者さんの“証”を見分ける
・患者さんの“不足”と“停滞”を見分ける
・患者さんの“寒”と“熱”を見分ける
⑤それぞれの所見を見てみよう
・日本漢方の“虚証”と“実証”
・エネルギーの不足
・エネルギーの停滞
・栄養素・内分泌面の不足
・栄養素・内分泌面の停滞
・体液面の不足
・体液面の停滞
・寒
・熱
⑥病気の種類や程度を見分けた後の漢方処方のポイント
⑦注意すべき漢方薬の副作用について
黄?、甘草、山梔子、麻黄、附子、桂皮、当帰、人参、地黄、芍薬、大黄
⑧漢方薬を処方する時の疑問と解答
chapter 3)漢方処方レシピ集
①抑うつ
・エネルギー不足を補うもの
六君子湯、補中益気湯、十全大補湯
・エネルギー停滞を攻めるもの
香蘇散、半夏厚朴湯、苓桂朮甘湯、四逆散、加味逍遙散、大柴胡湯
②不安
・心配して疲れるタイプ
加味帰脾湯
・恐怖感の強いタイプ
柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、桂枝加竜骨牡蛎湯
・悲しみの中にいるタイプ
甘麦大棗湯
・上乗せで効果アップ
六味丸、当帰芍薬散
③不眠
・入眠困難のタイプ
補中益気湯、芍薬甘草湯、黄連解毒湯、抑肝散(または抑肝散加陳皮半夏)
・中途覚醒のタイプ
酸棗仁湯、人参養栄湯
④認知症のBPSD:興奮・焦燥
・最初の一手
抑肝散(または抑肝散加陳皮半夏)、釣藤散、加味逍遙散
・次の一手
黄連解毒湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、桃核承気湯
⑤認知症のBPSD:アパシー
・エネルギーやうるおいの不足を補うもの
補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯
・エネルギーやうるおいの停滞を攻めるもの
釣藤散、桃核承気湯、桂枝茯苓丸
⑥向精神薬の減量サポート
・感覚過敏が強い時
人参養栄湯、大柴胡湯+抑肝散
・めまいや耳鳴りが強い時
四物湯+苓桂朮甘湯
・めまいが強い時
四物湯+五苓散、四物湯+半夏白朮天麻湯
⑦向精神薬との併用
・不調時(疲労感・おっくう感・不安・不眠・イライラ感)
方剤とレスポンダー早見表
索引