私にとっての“Choosing Wisely” 医学生・研修医・若手医師の“モヤモヤ”から
“最も患者と医療者の狭間で揺れ動く存在である医学生と研修医/若手医師の体験”を通じて“Choosing Wisely”の理念と具体像を描き出す
内容紹介
日頃、こんな“モヤモヤ”感じていませんか?
「すべてCT撮影すべき?」
「不要な検査は減らせるか?」
「抗菌薬の適正使用とは?」etc…
解決の糸口は“Choosing Wisely”にあります!
Choosing Wiselyとは、
医療者と患者が対話を通じ、しっかりとしたエビデンスがあり、患者にとって本当に必要で、かつ副作用の少ない医療の賢明な選択をめざす、国際的なキャンペーン活動」であり、惰性的な検査・過剰な診断や治療を見直すことを推奨し、この理念に基づいた医療を実現させることを目的に活動している
本書は“最も患者と医療者の狭間で揺れ動く存在である医学生と研修医/若手医師の体験”を通じて“Choosing Wisely”の理念と具体像を描き出そうとする一つの試みである
序文
序文
Choosing Wiselyは、「正しい」キャンペーンである。もしかすると、ときに「正しすぎる」のかもしれない。過剰医療の適正化、患者と医療者の対話を促進する、患者にとって最善の医療選択を目指す、どれも理想的には大切であることは疑う余地がない。では、何が過剰なのか?どこに線があるのか?適正化とはどのような状態か?対話とは何か?何が対話を進めるのか?何が対話を阻むのか?それぞれにとっての最善とは何か?…実践に際しては、数多の現実的な問いが生まれてくる。そうした問いに一つひとつ向き合うことではじめて、この概念は世に普及し、実装されていくことになる。理想の押し付けでもなく、現実からの諦めでもなく、理想と現実の間を繋ぐにはどうすればよいだろうか。
私は、ここに、一般市民でもなく患者でもなく、(経験豊富な)医師・医療者ではない間の存在である、医学生・研修医の可能性があると信じている。医学生から研修医は、現場の現実にさらされながら医学部で学んだ理想を実践している世代である。研修医は特に、学んできたことと目の前で実践されていることのギャップから、葛藤し、モヤモヤを抱えることが多い。この葛藤やモヤモヤこそ、理想と現実の間を繋ぐ手がかりになるのではないだろうか。
今回、Choosing Wisely Japan Student Committeeに所属する医学生・研修医・若手医師に、自分たちの葛藤やモヤモヤの体験を紐解き、Choosing Wiselyの概念に照らしてケースとコラムを書いていただいた。医学生や研修医が物を言いやすい現場ばかりではない中で、勇気を持って書き記してくださった皆さんには、深い感謝と尊敬の念が尽きない。どれも生の現場と想いが詰まった珠玉の一稿である。また、ケースにコメントを寄せてくださり、後押しをしてくださった指導医の先生方にも格別の感謝を申し上げたい。この本が読んでくださる皆さんにとって、「私にとってのChoosing Wisely」を考え始めるきっかけの一端を担えれば、この上ない幸せである。
2019年11月ベルリンにて
荘子万能
本書の刊行に至る経緯
Choosing Wiselyキャンペーンは2012年に北米で始動したが、2013年末に「Choosing Wisely in Japan -Less is More-」をテーマにジェネラリスト教育コンソーシアムが名古屋で開催されたのを皮切りに、多くの方々のサポートを受けてわが国でも急速に広がり、2016年10月の「Choosing Wisely Japan(CWJ)」設立に繋がった。
北米とは異なり、「医療の質・安全学会」や「日本医療機能評価機構」などの全面的な支援を受けたことも大きかったが、何よりも、患者・市民の声を代表する熱心な医療ジャーナリストの参画を得たこと、また、当初から“Choosing Wisely”の考え方に共鳴して熱心な活動を展開していた医学生グループの存在がCWJが急速に存在感を示す原動力となった。
世界的にもChoosing Wisely CanadaのSTARS(Students and Trainees Advocating for Resource Stewardship)の活動が注目されているが、CWJのStudent Committee(「学生委員会」)は、全国の医科大学を行脚する活動などを通じて医学生や研修医、若手医師の間に全国的ネットワークを形成しているだけでなく、卒前・卒後の臨床教育の在り方について鋭い問題提起を行ってきた。
今回、”Choosing Wisely”についての書籍出版が提案されたとき、真っ先に脳裏に浮かんだのは、このエネルギッシュな「学生委員会」の皆さんに、自分たちの体験・思い・疑問・抱負を率直に語ってもらうことであった。本書は、このような経緯を経て編纂されたのであるが、若手の、時には”青い”意見表明に対して、的確なコメントをお寄せいただき、本書のテーマである「過剰医療」の議論に深みを与えていただいた指導医の先生方には、編者の一人として深甚の謝意を表したい。
本書が、過剰医療、更には過剰診断(over-diagnosis)にまつわる現代的課題について、特定の見解を押し付ける成書ではなく、自由闊達な議論のきっかけとして多くの読者に読んでいただけることを期待している。
2019年11月
小泉俊三
目次
第1章:賢い医療の選択“Choosing Wiselyキャンペーン”とは何か?
Choosing Wiselyキャンペーンはどのように始まり、世界に広がったのか?-小泉俊三
Choosing Wiselyキャンペーン、若手世代のうねり-荘子万能
第2章:医学生・研修医の体験から〜Case&Essay〜
CASE 1 | 手術という治療選択は患者に何をもたらすのか?-池尻達紀(小泉俊三) |
ESSAY 1 | 病理診断で無益な再生検を回避するには?-古川雅大 |
CASE 2 | 失神はすべて頭部CT撮影すべき?-礒田翔(大生定義) |
ESSAY 2 | デザイン思考から見た医療の形-織部峻太郎 |
CASE 3 | 小児の頭部外傷、経過観察かCT撮影か?-寺田悠里子(茂木恒俊) |
ESSAY 3 | 過剰医療を医療アクセスから考える-村上武志 |
CASE 4 | 無症候性の下肢閉塞性動脈硬化症に対して血行再建は必要か?-西織浩信(中尾浩一) |
ESSAY 4 | 医療における対話と演劇-小林遼 |
CASE 5 | 疾患を抱える患者の就労支援のあり方とは?-藤田佳奈(谷口恭) |
ESSAY 5 | 意思決定ツールとしてのEBM・SDMと費用対効果-水田貴大 |
CASE 6 | 延命治療はいつまで行うべきなのか?-大塚勇輝(笹壁弘嗣) |
ESSAY 6 | 薬学生の取り組み、薬剤師に必要なスキルは何か?-金原加苗 |
CASE 7 | 高齢者の細菌尿における抗菌薬の適正使用とは?-高橋佑輔(鄭真徳) |
ESSAY 7 | 薬剤耐性(AMR)と動物医療-原田智之 |
CASE 8 | 児童が起こす問題行動に対する薬物療法、どう向き合うべきか?-福元進太郎(伊井俊貴) |
ESSAY 8 | 「院内プラネタリウム」と「対話」-山本和幸 |
CASE 9 | 赤ちゃんにとって安全なお産とは?-大川隆一朗(柴田綾子) |
ESSAY 9 | 「言葉」をめぐる考察―医療における熟慮と選択-外山尚吾 |
CASE 10 | 睡眠薬を含むポリファーマシーへの適切な介入・減薬のあり方とは?-古川由己(吉村健佑) |
ESSAY 10 | 医療過疎地域における医療資源の問題-中村恒星 |
CASE 11 | NSAIDsによる腎機能低下リスクはどこまであるのか?-前田広太郎(西崎祐史) |
ESSAY 11 | 対話を促進する場としての“まちづくり”-守本陽一 |
CASE 12 | 新規の静脈血栓塞栓症に対して血栓性素因の検査は必要か?-宮島徹(大山優) |
ESSAY 12 | がん患者支援活動と対話のための場づくり-西明博 |
CASE 13 | 検査前確率の高い尿路結石でもCT撮影すべき?-水谷肇(篠浦丞) |
ESSAY 13 | 会社員時代の乳がん検診で感じたモヤモヤ体験-大池麻衣 |
CASE 14 | 高齢者の無症候性細菌尿は治療するのか?-西澤俊紀(忽那賢志) |
ESSAY 14 | ケニアにおける抗菌薬使用の現状-長嶋友希 |
CASE 15 | 腰痛を精査するためのCT撮影は必要か?-福井隆彦(志賀隆) |
ESSAY 15 | 医療の曖昧さと私-原大知 |
CASE 16 | 風邪の早期改善に抗菌薬の処方は正しい?-相庭昌之(岸田直樹) |
ESSAY 16 | 医療側が情報発信することの重要性-重堂多恵 |
CASE 17 | 患者にとって本当に必要な検査とは何か?-豊田那智(徳田安春) |
ESSAY 17 | 地域医療実習とへき地医療経験-浦田恵里 |
CASE 18 | 紹介制度が改善すれば不要な検査は減らせるか?-玉城駿介(小坂鎮太郎) |
ESSAY 18 | 医学部1年生にとってのChoosing Wisely-西垣敦司 |
CASE 19 | 進行した認知症で食事が取れない患者への栄養投与経路はどうすべきか?-近藤敬太(鄭真徳) |
ESSAY 19 | チーム医療で実現する真に患者さんに根差した医療-近澤徹 |
CASE 20 | 術後せん妄に対する理想の対応とは何か?-華岡晃生(本村和久) |
ESSAY 20 | 初めての患者さんを通して考えたこと-宮﨑友希 |
CASE 21 | 頭痛患者には必ず頭部CT撮影すべき?①-北村昂己(隈丸加奈子) |
ESSAY 21 | 臨床推論の勉強会を通して考えたこと-稲葉哲士 |
CASE 22 | 頭痛患者には必ず頭部CT撮影すべき?②-白髭知之(隈丸加奈子) |
ESSAY 22 | ボランティア活動を通して考えた「患者との対話」-住吉紗代子 |
CASE 23 | 細気管支炎に対する“気管支拡張薬”、実際どうなのか?-野崎周平(郷間厳) |
ESSAY 23 | 対話を通した学びの教育-佐々木周 |
CASE 24 | 若年者の軽度の頭痛に対してCT撮影すべき?-渡辺真子(隈丸加奈子) |
ESSAY 24 | 法曹経験者として考えたこと-三橋昌平 |
CASE 25 | 旅行保険に入っていない外国人に対してどこまで検査を行うべきか?-加瀬早織(押味貴之) |
執筆者一覧
■編著者
荘子万能 Choosing Wisely Japan
小泉俊三 Choosing Wisely Japan代表
■著者
Choosing Wisely Japan Student Committee
■Case執筆者(50音順)
相庭昌之 市立函館病院初期研修医
池尻達紀 杉田玄白記念公立小浜病院初期研修医
礒田翔 名古屋第二赤十字病院総合内科後期研修医
大川隆一朗 国保総合旭中央病院産婦人科プログラム初期研修医
大塚勇輝 岡山大学病院卒後臨床研修センター初期研修医
加瀬早織 東京医科歯科大学医学部附属病院初期研修医
北村昂己 関東労災病院初期研修医
近藤敬太 藤田医科大学総合診療プログラム家庭医療専門医
白髭知之 長崎大学病院初期研修医
髙橋佑輔 天理よろづ相談所病院初期研修医
玉城駿介 公立病院[兵庫県]初期研修医
寺田悠里子 手稲渓仁会病院初期研修医
豊田那智 自治医科大学卒後2年目
西織浩信 千葉大学医学部附属病院心臓血管外科後期研修医
西澤俊紀 聖路加国際病院総合診療/家庭医療コース後期研修医
野崎周平 総合病院旭中央病院初期研修医
華岡晃生 公益社団法人石川勤労者医療協会城北病院初期研修医
福井隆彦 豊橋市民病院初期研修医
福元進太郎 総合病院南生協病院内科後期研修医
藤田佳奈 岡山大学医学部医学科6年
古川由己 総合病院南生協病院初期研修医
前田広太郎 兵庫県立尼崎総合医療センター腎臓内科後期研修医
水谷肇 大阪市立大学医学部附属病院初期研修医
宮島徹 北海道大学病院血液内科後期研修医
渡辺真子 草津総合病院初期研修医
■Essay執筆者(50音順)
稲葉哲士 京都府立医科大学医学部医学科6年
浦田恵里 大阪医科大学医学部医学科6年
大池麻衣 旭川医科大学医学部医学科4年
織部峻太郎 東北大学医学部4年
金原加苗 岡山大学薬学部薬学科6年
小林遼 国立精神・神経医療研究センター精神科後期研修医/青年団演出部
佐々木周 総合病院南生協病院初期研修医
重堂多恵 旭川医科大学医学部医学科5年
住吉紗代子 富山大学医学部医学科3年
外山尚吾 京都大学医学部医学科5年
近澤徹 北海道大学医学部医学科3年
長嶋友希 高知大学医学部医学科6年
中村恒星 北海道大学医学部医学科3年
西明博 安房地域医療センター総合診療科後期研修医
西垣敦司 滋賀医科大学医学部医学科2年
原田智之 福井大学医学部医学科6年
原大知 水戸協同病院初期研修医
古川雅大 長崎大学医学部医学科3年
水田貴大 堺市立総合医療センター初期研修医
三橋昌平 島根大学医学部医学科4年
宮﨑友希 大阪大学医学部医学科6年
村上武志 北海道大学医学部5年
守本陽一 公立豊岡病院初期研修医
山本和幸 京都民医連中央病院初期研修医
■執筆協力者(50音順)
CASE「先輩医師はこう考える」
伊井俊貴 メンタルコンパス株式会社代表取締役社長
大生定義 特定医療法人新生病院院長
大山優 亀田総合病院腫瘍内科部長
押味貴之 国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター准教授
岸田直樹 感染症コンサルタント
隈丸加奈子 順天堂大学放射線診断学講座准教授
忽那賢志 国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長
小泉俊三 Choosing Wisely Japan 代表
郷間厳 堺市立総合医療センター呼吸器疾患センター長
小坂鎮太郎 板橋中央総合病院総合診療科
笹壁弘嗣 新庄徳洲会病院院長
志賀隆 国際医療福祉大学医学部救急医学講座准教授
篠浦丞 国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部教授
柴田綾子 淀川キリスト教病院産婦人科
谷口恭 太融寺町谷口医院
鄭真徳 佐久総合病院総合診療科部長
徳田安春 群星沖縄臨床研修センター長
中尾浩一 社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院院長
西崎祐史 順天堂大学革新的医療技術開発研究センター准教授
茂木恒俊 久留米大学医療センター総合診療科
本村和久 沖縄県立中部病院総合診療科部長
吉村健佑 千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センター長特任教授