臨床が変わる! 画像・病理対比へのいざない「肝臓」
これまで「なんとなく」超音波画像を読んでいたあなた、これからは「なんとなく」で終わらせない!
内容紹介
多くの知識と経験を積んだスタッフが集結し、20年超に及ぶ臨床症例をもとに、画像と病理の対比を試みたテキストブック!
単なる診断名の当てっこだけでない、所見と診断名の照合で終わらせず、病変の拡がりや進展度、組織型や予後まで推測し、疾患の本態に迫ることこそが画像診断の本質である。様々な病理組織、臨床画像を見ながら、病理医と直接ディスカッションしている気分を味わおう。本書を読み終えたら、あなたの診断力も向上しているはず。深みのある診断学を身につけよう。
序文
■監修のことば
本書は札幌厚生病院の医療スタッフと道内有志での勉強会「腹部画像研究会」で扱った20年超に及ぶ臨床症例をもとに、画像と病理の対比を試みたテキストブックです。
以前よりteaching fileを後進に残したいという願望を抱いておりましたが、多忙を言い訳に実現していませんでした。この度、病理医の市原真先生のお力添えで、本書『臨床が変わる画像・病理対比へのいざない「肝臓」』が刊行されるに至り、小生の怠慢を補っていただいた形となり、感謝に堪えません。
本書は市原節とでも言うべき口語調で記されていますが、ライトな文体に騙されてはいけません。組織像の裏付けがあり実は重厚な内容が秘められています。
「画像と病理の対比」と言えば、その先駆けは何といっても「胃癌の診断学」です。胃の二重造影や内視鏡の精緻な画像と病理所見の対比による診断学は日本が世界に誇れる秀逸ものでした。小生が医者になった頃は、それが集大成された時期であり、多くの読影会では先達が熱いディスカッションを交わしておりました。そこで学んだことは単なる診断名の当てっこではいけないということ。所見と診断名の照合で終わらず、病変の拡がりや進展度、さらには組織型や予後まで推測し、疾患の本態に迫ることこそが画像診断の本質であるという強いメッセージでした。
その後、肝胆膵の診断学は消化管の業績に倣い、超音波やCT、MRIなどを駆使して後追いをしていく訳ですが、小生はその魅力に取り憑かれた一人でした。「腹部画像研究会」も深みのある診断学を身につけたい、そんな動機で始めたものです。
本書の筆頭著者、市原君は札幌厚生病院に赴任して間もなく、小生の意に賛同してこの勉強会に参加してくれるようになりました。はからずも病理の解説が加わることになり、勉強会の質が格段に向上したのは言うまでもありません。そんな彼が中心となって本書は企画されました。画像は消化器内科の症例を中心に小生や同僚の医師、放射線技術部門のスタッフがかき集めたものですが、病理の解説はほぼ市原医師一人の手によるものです。
病変は実に様々な形態で「結果」を示します。しかし,その裏にはなぜそのような画像になるのか「原因(わけ)」があります。本書ではぜひその「わけ」のほうを推測する深みを学び取ってほしいと思っています。
「ライトな言葉」で「重厚」を学ぶ、という本書の果敢な試みを汲み取っていただきながら読み進んでください。皆さまの診断力向上のお役に立ったとすれば望外の喜びです。
編集に明け暮れた2019年の流行語大賞そのままに、本書は同志たちの力の結集でできた「One teamの書」です。共著者はもちろん、画像の編集に多大な労力を割いてくれた技師達、定例会で活発なディスカッションを展開してくださった参加者諸兄、辛抱強く編集に携わってくださった藤森さんをはじめ、金芳堂のスタッフの方々、多くの皆さまに心から感謝の意を表して、稿を終えたいと思います。ありがとう。
2020年1月
大村卓味
■序
再校ゲラの索引項目に蛍光ペンを引き終えた今、本書をあらためて俯瞰する。気になることがひとつ。
各章ごとに執筆者として冠されている名前に、病理医の名前がやたら目立つ、ということ。
「おかしいな、手に取ったのは画像の本だったはずなのに」と少し不安になる方もいらっしゃるかもしれない。自分で書いておいてアレだけれど、私自身も不安だ。大丈夫なのか。
マッチポンプ的に言い訳させて頂くと、あくまで骨組みとなる「文章」を書いたのが市原であった、というだけだ。実際には、すべての章が多くの医師・放射線技師の力を結集して作られた。だから安心してほしい。この本はちゃんと立派に画像の本である。なお、もし校正作業がDropbox上で展開されていなかったら、おそらく郵便費用だけで印税の何割かが消滅しただろう、それくらいの暴力的なやりとりが毎日くり返された。クラウドがなかったらと思うと冷や汗が出る。
言うまでもないことだが、本書の豊富な臨床画像を選び症例を厳選したのはフラジャイルないち病理医ではない。超音波、CT、MRI、あらゆるモダリティの画像写真が、ラジエーションハウスの俊英たちによって選び抜かれた。画像の読みについては、歴代の「腹部画像研究会(後述)」に出席した数え切れないほどの読影者たちの思考を元にしつつ、研究会を長年見守り育ててきた大村医師をはじめとする優れた指導者たちによって何重にも校正されている。私は彼らの成果を聞いてまとめたにすぎない。すなわち本書における私は、インタビュアーやウェブライターのような存在であり、進行係、ナレーター、狂言廻しであった。
付け加えるならば私が担当した作業はとてもラクだった。
何せみんながよってたかって私に画像の読み方を教えてくれる。講演で用いたプレゼンを惜しげもなく提供してくれる。おまけに、彼らが日常的に抱えているライトな疑問からマニアックでニッチな難問まで、多数のクリニカル・クエスチョンを私に投げかけてくれる。これらを組み直すだけで一冊の本ができた。まあ組み直している間中、Dropboxはあたかも炎上しているかのごとくに編集がくり返されていたのだけれど……。
それにつけても金芳堂の諸氏のご苦労が忍ばれる。症例ごとに組み合わせが異なる臨床画像、色合いひとつで雰囲気が変わってしまう病理マクロ画像、サイズが毎回異なるプレパラート画像などを適切に配置し、フォントのカタチや色合いにまでこだわって「腹部画像研究会(後述)」の足跡をこれほど美しくまとめあげてくださった。担当編集の藤森氏ほか皆様にこの場を借りて厚く御礼を申し上げたい。
さて、他の教科書の序文にだいたいどういうことが書いてあるのだろうかとカンニングしながらナントカ紙幅は埋まった。とりあえず本書の真髄である「病理診断を確定診断として使うのではなく、最も優れた画像モダリティのひとつとして相対化し、臨床と病理とを逐一対比しながらひとつの病態を解き明かそうとすること」については「はじめに」以降にしっかり書いてあるのだからもう書くことがない。いい本ですよ。みんなで書いたんだもの。
2020年1月
市原真
目次
はじめに 直感で「検査」をしていたあなたへ
1.HCCはなぜHCCぽく見える?
2.腹部画像研究会
CHAPTER1 シェーマで学ぼう肝細胞癌
1.シェーマで学ぼう肝細胞癌
2.HCCの多段階発癌
3.肉眼形態はとても大事
4.HCCの造影理論
CHAPTER2 病理に出づらい血管腫
1.リアス式マージナルストロング
2.血液プールのサイズはさまざま
CHAPTER3 転移性肝癌の「当たり前」と「盲点」
1.知られざる壊死の世界
2.転移巣は原発巣に似る
CHAPTER4 対比のための基礎理論
1.音響工学の基礎
2.知って得する“アーチファクト”のいろいろ
3.装置の設定、選別、プリセットについて
4.脂肪=高エコー?
5.造影超音波と造影CT/MRIが合わないのはなぜ?
CHAPTER5 腹部画像研究会、見参(ありふれた病変のありふれていない所見)
1.ちょっとヘンな肝細胞癌
2.ちょっとヘンな血管腫
3.ちょっとヘンな転移
4.転移かどうか悩ましい小結節
CHAPTER6 腹部画像研究会、奮闘(レアな病変を渾身対比)
1.肝内胆管癌(intrahepatic cholangiocarcinoma:ICC)
2.細胆管細胞癌(cholangiolocellular carcinoma:CoCC)
3.限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia:FNH)
4.肝細胞腺腫(hepatocellular adenoma:HCA)
5.血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)
6.いわゆる炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor:IPT)
7.類洞拡張症
8.エキノコックス
執筆者一覧
■監修
大村卓味 旭川厚生病院健康管理科
■編著
市原真 札幌厚生病院病理診断科
■著者
川上智浩 札幌厚生病院放射線技術科
北口一也 札幌厚生病院放射線技術科
島崎洋 遠軽厚生病院放射線技術科
高桑恵美 北海道大学病院病理診断科
戸田康文 旭川厚生病院放射線技術科
西田睦 北海道大学病院検査・輸血部/超音波センター
長谷川聡洋 帯広厚生病院放射線技術科
松居剛志 手稲渓仁会病院消化器内科