THE 心臓リハビリテーション 症例で紐解く超実践ガイド
領域・職種の枠を超えた、すべての医療「必読の一冊」 超高齢社会における健康寿命の延伸のカギ、心臓リハビリテーションをマスターせよ!
内容紹介
近年、「心不全パンデミック」という言葉に象徴されるように、超高齢社会において心不全をはじめとする心機能に障害を抱える患者が増加し続けている。
こうした傾向と呼応するように「心臓リハビリテーション(心リハ)」がカバーする範囲も広がり、その必要性も年々高まってきている。いまや心リハに関する知識は一部の関係者のみならず、すべての医療者にとって欠かせない時代に差し掛かっている。
本書は、こうした時代的背景のもとに、すべての医療者を対象として、心リハに関する様々な基礎知識や各種データ(CPXなどの検査結果やエビデンス)の活かし方など、日本を代表する専門医療機関における豊富な実例を交えて、わかりやすく、すぐに役立つ内容を網羅した“超実践ガイド”である。
序文
心臓リハビリテーションが今求められている
超高齢社会を迎え、かつて地味な裏方だと思われていた「心臓リハビリテーション」が、これまでになく注目されています。すべての医療者が、リハビリテーションとは何か、そしてすべての循環器領域の医療者は心臓リハビリテーションとは何かについて、知らなければならない時代を迎えました。
リハビリテーションは、「運動を心がけましょう」、「もっと動くようにしましょう」と声掛けをすることでもなく、あるいは単なるトレーニングとも全く異なります。リハビリテーション(rehabilitation)の語源は、re=「再び」とhabilis=「適した」であり、この語源からも再び人間として適した形で(人間らしく)生きるようにする行為全般のことを指していることがわかります。患者さんが再び人間らしく生きるようにするにはどのようにすればよいか…という工夫すべてがリハビリテーションであると言っても過言ではありません。
リハビリテーションの歴史はそれほど古くなく、戦争中に負傷した兵士を回復させ、再び兵士として早期に復帰させるためのプログラムを起源としているようです。第二次世界大戦以降、この概念が一般人に応用され始め、世界保健機構(WHO)が1968年、「リハビリテーションとは、医学的、社会的、教育的、職業的手段を組み合わせ、かつ相互に調整して、訓練あるいは再訓練することによって、障害者の機能的能力を可能な最高レベルに達せしめることである」と定義したことにより、医学的に広まることになりました。日本では、国際障害者年にあたる1981年の厚生白書で、「リハビリテーションとは障害者が一人の人間として、その障害にもかかわらず人間らしく生きることができるようにするための技術及び社会的、政策的対応の総合的体系であり、単に運動障害の機能回復訓練の分野だけをいうのではない」と宣言されています。
このようなリハビリテーションを心臓に特化した形で発展させたものが「心臓リハビリテーション」です。当初は、長期臥床となりやすかった急性心筋梗塞患者を対象として、早期の社会・職場復帰を目的として入院中に行うプログラムのことを指していました。その後、ほぼ同じ考え方に基づくプログラムが、心臓手術後の患者の回復過程にも応用されていきました。心筋梗塞や心臓手術によって一時的に障害を負った心臓病患者を可能な限り早期に回復させるための工夫です。しかし、現在ではこれにとどまらず、心臓リハビリテーションが、すべての心臓病患者に幅広く応用されようとしています。それは、心臓リハビリテーションが入院中だけでなく、退院後も継続的に行われるようになったことで、心臓病患者の危険因子の管理、生活の質の向上、生命予後の改善に結び付くことが明らかになってきたからです。
運動療法から始まった心臓リハビリテーションは、今や多職種によって形作られたチームが、運動療法にとどまらず、生活指導、薬物療法、精神心理的サポート、カウンセリングなどを含めて多面的・包括的に患者を支援し、人間らしく生きるために貢献するプログラムとなっているのです。
2020年2月
公益財団法人心臓血管研究所 所長
山下 武志
序文
本書は心臓リハビリテーションのいわゆる教科書ではありません。一読すれば、明日から心臓リハビリテーションをやれる気がする、そのような本を目指しました。
医師になり、まだ20年ほどではありますが、この間に日本の高齢化率は倍となり、病院の患者さんも明らかに高齢化していることを実感します。そのような中、かつては心筋梗塞後の社会復帰と2次予防の意味合いが強かった心臓リハビリテーションの在り方も大きく様変わりしています。
本書では、この超高齢時代の心臓リハビリテーションにおいて、よく遭遇すると思われる疾患や病態、私個人が日常臨床で実際に悩むことの多かった問題についても積極的に取り上げました。
また本書では、心臓リハビリテーションを患者さんおよび患者さんを支える家族の人生をよりよくするための「手段」と位置付けています。「手段」の先にあるゴールは「疾患二次予防や生命予後の改善」でもよいですし、「近所に囲碁を打ちに行けるようにする」あるいは「自力でトイレに行く」でもよいでしょう。
この本を手に取られる皆様は、すでに心臓リハビリテーションの必要性を感じていらっしゃるはずです。皆様の臨床現場において本書が少しでも参考になれば幸甚です。
2020年2月
公益財団法人心臓血管研究所付属病院
心不全担当部長・心臓リハビリテーション科担当部長
加藤祐子
目次
序章:さあ、心臓リハビリテーションを始めよう
-仲間・場所・物品の確保-
■心臓リハビリテーションを始める前に
◎1.リハビリテーション室の運営に必要なもの
・仲間
・場所
・物品
◎2.リハビリテーション室の運営を継続させるには
・診療報酬制度における施設基準
・保険診療が可能な疾患
・患者をリクルートする仕組みづくり
・リハビリに関わるスタッフに必要なスキル
第1章:心臓リハビリテーション実施の基本原則AKK
-A安全に・K効果的に・K継続的に-
■1.心臓リハビリテーション実施前に確認すべき臨床評価項目
◎1.病歴
*One Point Memo:胸部症状の種類と出現部位について
*One Point Memo:心不全が悪化したときの自覚症状と他覚症状
◎2.理学所見
・頸静脈怒張(Jugular Vein Distention:JVD)
*One Point Memo:なぜ右心不全の指標である頸静脈怒張で左心不全を判断できるのか?
・ベンドプニア(Bendopnea)
・聴診所見
◎3.胸部X線所見
◎4.血液検査所見
・腎機能(尿素窒素:BUN、クレアチニン:Cre、推定糸球体濾過量:eGFR)
・ヘモグロビン値(Hb)
・ナトリウム(Na)、カリウム(K)
・脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP、NT-pro BNP)
・T-Bil、ALP、γGTP
・GOT(AST)、GPT(ALT)、LDH
◎5.心エコー所見
・左室駆出率(EF):rEFとpEF
・左室拡張末期径(Ventricular end-Diastolic dimension:LVDd)
・弁膜症:僧房弁閉鎖不全症(MR)、大動脈弁閉鎖不全症(AR)、大動脈弁狭窄症(AS)、三尖弁閉鎖不全症(TR)、僧房弁狭窄症(MS)
・左室瘤
・心嚢液
・心室中隔肥厚:シグモイド中隔(S 状中隔)、肥大型心筋症
・三尖弁逆流速度
・三尖弁輪収縮期移動距離(Tricuspid Annular Plane Systolic Excursion:TAPSE)
・下大静脈の呼吸性変動
■2.運動処方に必要なCPXの基礎知識
◎1.心肺運動負荷試験(CPX)で測定している指標
◎2.最大酸素摂取量(peak VO2)
◎3.嫌気性代謝閾値(AT)
■3.運動処方の進め方
◎1.運動中のリスクを把握する―運動負荷試験―
・運動負荷試験で見ておくべきこと
※症例:ST低下(70歳、男性)
◎2.嫌気性代謝閾値(AT)ってないとダメ?―ATがわかる場合と不明の場合の処方―
・激しい運動はなぜ続かないのか?
・激しい運動でどのくらい血液は酸性になるのか?
・ATの求め方
・ATを用いた運動処方の仕方
*One Point Memo:もう少し詳しくATの求め方を知りたい方に
・ATを求められない場
*One Point Memo:二重積屈曲点によるAT推定
◎3.心房細動の場合はどうするか
・運動療法を行う時に心房細動だったら
・安静時の心拍数はいくつぐらいまで許容されるのか?
・安静時頻脈だと運動時にはもっと頻脈になってしまうのでは?
・運動処方にカルボーネン式は使えない
・心拍数が多すぎると心拍出量(stroke volume)が減って運動耐容能が下がるのでは?
・心房細動症例に運動処方するには―やっぱりCPXが有用-
*One Point Memo:心房細動の予測最大心拍数はあるのか?
◎4.運動中・運動後に見るべきこと
・患者の外観、表情
・バイタルサイン
・自覚症状
・運動療法は心筋梗塞や心不全を引き起こさないのか?
・重篤でない心血管事故は運動後24時間以内に多い
第2章:心不全と運動療法
■1.これさえ知っておけば心不全は怖くない−CPX(心肺運動負荷試験)4つの指標
◎1.CPXで確認すべき4つの指標とは?
・最大酸素摂取量(peak VO2)
*One Point Memo:肥満心不全患者の予後指標
・VE-VCO2 slop
・PETCO2(ETCO2)、呼気終末炭酸ガス分圧(濃度)
・運動時周期性呼吸(EOV)
※症例1:EOV例(69歳、男性)
※症例2:EOV例(67歳、女性)
・発生頻度
・EOVの機序
◎2.4つの指標での重症度を見分ける
■2:なぜ運動が良い治療法なのか?
◎運動の多面的効果(pleiotropic effect)
◎筋肉量は生命予後の重要なマーカー
◎運動習慣と余命
◎どのくらい動けば効果があるのか?
・心不全患者の場合
*One Point Memo:健康な人を寝たきりにしたら、心拍出量はどうなるのか?
第3章:運動とプラスα
■1.運動以外に大切なこと
◎1.薬物療法
・心不全標準治療―β遮断薬・RAS阻害薬―
・高齢者の内服アドヒアランス
◎2.食事療法
・減塩
・エネルギー量
・タンパク質
*One Point Memo:心不全患者はタンパク質を積極的にとったほうがよいか?
・栄養状態をどう評価するか?
■2.みんなで患者さんをケアしよう
◎再発させないための介入
■3.どうやって運動を継続させるか?
◎1.運動療法のアドヒアランスの実態
◎2.運動療法継続の障壁と促進因子
◎3.アドヒアランス向上への取り組み例から見えること
・運動の場合
・薬の場合
◎4.運動の機会へのアクセスのしやすさ
第4章 実例で学ぶ心臓リハビリテーション
■1.急性心不全(入院)
◎急性心不全の心臓リハビリテーションの目的
◎心臓リハビリテーション開始のタイミング
※症例:48歳、男性
・本症例におけるリハビリ開始のタイミング
・本症例におけるリハビリの目標
・ベッドサイド/病棟でのリハビリで注意したこと
*One Point Memo:重度の心不全で起こる運動開始前/運動時の血圧低下にどう対処するか?
*One Point Memo:心不全の体液量評価をどうするか?
*One Point Memo:頻脈性心房細動の急性心不全では、心拍数がいくつになったらリハビリを開始してよいか?
■2.慢性心不全(外来)
◎慢性心不全の心臓リハビリテーションの目的
◎心臓リハビリテーション開始のタイミング
※症例:62歳、男性
*One Point Memo:植え込みデバイスの設定を知る
・本症例におけるリハビリ開始のタイミング
・本症例におけるリハビリの目標
・心不全患者のレジスタンストレーニング
・有酸素運動時のインターバルトレーニング
・内服、食事、生活管理のアドヒアランスの確認
・外来でのリハビリで注意すること
*One Point Memo:このモニター心電図がわかりますか?
■3.急性心筋梗塞
◎急性心筋梗塞の心臓リハビリテーションの目的
◎心臓リハビリテーション開始前のチェック事項
◎心臓リハビリテーション開始のタイミング
・当院での急性心筋梗塞リハビリテーションプロトコール
※症例:53歳、男性
・本症例におけるリハビリ開始のタイミング
・本症例におけるリハビリの目標
・本症例のリハビリで注意したこと
・心筋梗塞例に対する疾患教育
*One Point Memo:心タンポナーデ
■4.胸部外科術後
◎胸部外科術後の心臓リハビリテーションの目的
◎心臓リハビリテーション開始のタイミング
※症例:77歳、男性
*One Point Memo:フレイル評価ツールとしてのSPPB
・本症例におけるリハビリ開始のタイミング
・本症例におけるリハビリの目標
・開心術後の発作心房細動で注意すること
・本症例のリハビリで注意したこと
・開胸術後の生活での注意事項
・開心術後の体液量の変化とリハビリテーション
・AS術後にしばしばみられる問題:左室肥大→左室コンプライアンスの低下による病態
・エビデンス
*One Point Memo:開心術後の心電図変化
■5.虚弱な高齢者心不全
◎虚弱な高齢者心不全の心臓リハビリテーションの目的
◎心臓リハビリテーション開始のタイミング
※症例: 92歳、男性
*One Point Memo:Barthel IndexとMMSE
・本症例におけるリハビリ開始のタイミング
・本症例におけるリハビリの目標
・本症例のリハビリプログラム
・本症例のリハビリ実施にあたり注意したこと
・プレレジスタンスからレジスタンストレーニングへの移行
終章 30年後の心臓リハビリテーション
■心臓リハビリテーションのこれから
◎1.“運動”の再評価
◎2.多職種協同
■付録:カラーグラフ一覧
◎索引
◎著者・監修者略歴
執筆者一覧
■監修
山下武志 公益財団法人心臓血管研究所 所長
■著者
加藤祐子 公益財団法人心臓血管研究所付属病院 心不全担当部長・心臓リハビリテーション科担当部長
■執筆協力
櫻田弘治 公益財団法人心臓血管研究所付属病院 心臓リハビリテーション室長・理学療法士