ユーモア看護 癒しと和み
近年話題の「ユーモア」と「看護」の関連性について、系統的に記したテキスト
内容紹介
今日、医療の現場では入院期間の短縮化や業務の効率化に伴い、医療従事者の多くは業務に追われ、患者の訴えや要求を真摯に受け止め、誠実に対応することの難しさに憂慮しているのではないだろうか。
しかしそのような状況にあっても、とりわけ看護師には不安や苦悩を抱える患者に寄り添い、その思いに共感し、心の通ったかかわりを持つことが要求される。このようなかかわりを持つために必要なもの、それが「ユーモア」である。日々の患者とのやり取りの中のユーモアは、患者の心を癒し、和ませ、積極的に治療に臨む、手助けとなる。本書では経験豊富な執筆陣を迎え、ユーモアとは何か(1章)、その効果や非言語的行動との関連性(2~3章)を解説。さらに現場でよく遭遇する事例をもとに、ユーモア看護の実践方法(4章)を紹介。すでに臨床の現場で活躍する看護師はもちろん、これからの活躍が期待される看護学生や新人看護師にもおすすめの1冊である。
序文
今日、臨床における医療・看護の現状は、入院期間の短縮化に伴って医療従事者は多くの業務に追われ、患者の訴えや要求を真摯に受け止め、誠実に対応する時間のなさに憂慮されているのではないでしょうか。そうした中で、とりわけ看護師には病苦や病状回復への不安や苦悩を抱える患者の思いを共有し、共感的に受容できる豊かな感性を持ち、心の通ったかかわりを展開することが要求されます。
こうしたかかわりを展開するために、ここに新たな「ユーモア看護」の必要性と治療的作用、その活用について提起しております。ユーモアと笑いを加味した「ユーモア看護」を導入することによって、もつれた患者と看護師の心を和ませ、そこから患者が心を癒し一日も早い回復を実現できる手助けとなるものと考えています。
さて、単独外出する精神科患者と看護師のこんなやりとりがあります。処方されていない昼食後薬を探す姿の看護師をニヤニヤ眺める患者に「ないのを知っていて黙っていたわね」、「あんたは意地が悪い、途中電車にひかれて帰って来なくていいよ」と患者の背中をポンと押しやると、患者がニヤリと「無事に帰って来まーす」と言って外出した。1994年に出版、2019年に映画化された帚木蓬生著「閉鎖病棟」に、心を和ます患者と看護師のユーモラスな場面が描写されています。著者はどう認識されていたかは定かではないですが、25年も前に書かれた「ユーモア看護」といえる示唆に富んだ内容です。
一方、ユーモアと笑いは、愛と思いやりの大切な表現方法であり、人間の自然治癒力、免疫機能を高め、無用な不安や緊張を解きほぐし、心と身体の健康を守る大切な役割があるとアルフォンス・デーケンが述べています。まさに、治療的視点と言えましょう。
本書は、「癒しと和み、その治療的活用」をサブタイトルに「ユーモア看護」に関する本邦初の成書で、内容はユーモア看護の導入から理論的解説とその具体的活用について、またユーモアと非言語的行動との関連性について、最後にユーモア看護アプローチと題して臨地でよく見られる事例を記述しています。臨地に働く方ばかりでなく、医療・看護教育に携わる教員及び看護学生にも大変有用なテキストであり、それぞれの実践の場で是非ご活用して頂きたく推奨するものです。
最後に、(株)金芳堂のご厚意により本書を出版できましたことを心から感謝申し上げ、また、編集部の一堂芳恵氏には企画から出版に至るまで多大なご指導、ご協力を賜りましたことに深く感謝申し上げます。
目次
第1章 ユーモアについて
01 はじめに
02 ユーモアとは
03 ユーモアの成立要件
04 笑い(ユーモア)の三大理論
05 ユーモアの分類
06 ユーモアの効用と作用
07 笑いの古典
08 笑いの研究および実践の動向
09 ユーモア活用の看護
10 クラインの説く「ユーモアと死と癒し」
第2章 ユーモアの効用
01 ユーモアの心理的作用
02 ユーモアの生理的作用
03 ユーモアと免疫
04 ユーモアの治療的作用
第3章 ユーモアと非言語的行動の関連性
01 ユーモアと表情
02 ユーモアと動作
03 ユーモアとアイコンタクト
04 ユーモアとタッチング
05 ユーモアと空間距離
06 ユーモアと相対角度
第4章 ユーモア看護アプローチ
01 興奮状態患者の事例
02 幻覚状態による(恐れの激しい)患者の事例
03 悔しさを表現し続ける患者の事例
04 抑うつ状態(うつ病)患者の事例
05 高齢者の集団に対してユーモアや笑いを活用したゲーム「ふみふみカルタ」の実践例
06 引きこもり状態(慢性疾患)患者の事例
07 泣きわめく(幼児)の事例
08 苛立ち(糖尿病)患者の事例
09 頑固な認知症患者の事例
10 拒絶状態患者の事例
11 絶望的状態(がん疾患)患者の事例
12 認知症患者の事例(老健施設)
執筆者一覧
■監修
平澤久一 前大阪青山大学健康科学部看護学科学科長、教授
古谷昭雄 前中京学院大学看護学部看護学科教授
■編集
井村弥生 大阪青山大学健康科学部看護学科教授
岩瀬貴子 活水女子大学看護学部看護学科教授
大川眞紀子 大阪青山大学健康科学部看護学科特任教授
森明広 久米田看護専門学校副校長
木村美智子 関西福祉大学看護学部看護学科准教授
木村洋子 同志社女子大学看護学部准教授
津島和美 関西医療大学保健看護学部看護学科准教授
■執筆者一覧(五十音順)
阿部真幸 大阪青山大学健康科学部看護学科助教
磯野洋一 京都先端科学大学健康医療学部看護学科講師
井村弥生 大阪青山大学健康科学部看護学科教授
岩瀬貴子 活水女子大学看護学部看護学科教授
宇佐川徹 医療法人若草会小郡まきはら病院看護師長
大川眞紀子 大阪青山大学健康科学部看護学科特任教授
梶川拓馬 明治国際医療大学看護学部看護学科講師
木村美智子 関西福祉大学看護学部看護学科准教授
木村洋子 同志社女子大学看護学部看護学科准教授
佐藤睦恵 枚方公済病院看護師
瀧澤美津江 前大阪青山大学健康科学部看護学科助教
武田真慶 医療法人養心会国分病院
地本勲 医療法人清心会八尾こころのホスピタル
津島和美 関西医療大学保健看護学部看護学科准教授
堤梨恵 太成学院大学看護学部講師
中村由香理 活水女子大学看護学部看護学科助教
長谷川幹子 大阪医科大学大学院看護学研究科博士後期課程
平澤久一 前大阪青山大学健康科学部看護学科学科長、教授
古谷昭雄 前中京学院大学看護学部看護学科教授
森明広 久米田看護専門学校副校長
吉野由美子 千葉科学大学看護学部看護学科准教授
和井政則 学校法人藍野大学藍野高等学校非常勤講師