ブラック・ジャックの解釈学 内科医の視点
医書界初のブラック・ジャック本誕生 不明熱・レアディジーズハンター國松淳和先生がブラック・ジャックに挑戦する!!
内容紹介
■なんと言おうと医学書である!
不朽の名作『ブラック・ジャック』(1973-1983)は天才的技術をもった外科医を主人公にした漫画であり、顔の形成や臓器移植などの外科技術が強調されがちだが、医師免許をもつ手塚治虫が描いていることもあり、内科疾患の描写や患者描写もまた真に迫っている。そのため、40年間の医学の進歩による疾患概念の深化に基づけば、作中のブラック・ジャックの診断とは異なる診断が可能であるほどである。
そこで本書では23の『ブラック・ジャック』のエピソードをとりあげ、全12章で、
・難病・病態を再検討し、現代医学から再診断する
・難題(難病・悪条件)に取り組むプロフェッショナリズムのお手本としてのブラック・ジャックを拾い上げる
という試みに、不明熱や不定愁訴、仮病など診断困難な領域において医学界に新しい風を吹き込んだ國松淳和先生が挑戦した。
これまでも、ブラック・ジャックの診断をもとに、別の手技や治療法を再提案するファンブックはあったが、本書は手塚の描写を可能限り真であるとして、BJ世界を徹底的に探求した医学書だ。病跡学のように当時の検査水準や疾患分類を検討することで、その結果創作上の架空症例と一般に思われてきたものも、ぎりぎりのところまで踏み込めば現実の疾患との照合ができることに読者は驚くだろう。
僅かな手がかりと症例報告やエビデンスから診断をひきだすという診断学の入門書でもあり、医学生レベルの知識があれば十分に診断の醍醐味を理解できる。
本書ではこうした試みをを臨床病跡学あるいは解釈学的な試みとして実践し、医学書『ブラック・ジャック』を深く掘り下げたものなのだ。
■本書で取り上げた珠玉のエピソード
畸形嚢腫
本間血腫
おばあちゃん
三度目の正直
モルモット
小うるさい自殺者
勘当息子
がめつい同士
命のきずな
話し合い
流れ作業
霊のいる風景
獅子面
木の芽
されどいつわりの日々
ハッスルピノコ
けいれん
フィルムは二つあった
壁
命を生ける
満月病
古和医院
ピノコ西へいく
「ブラック・ジャック」© Tezuka Productions
装画 手塚プロダクション
装釘 宗利淳一
序文
この本は、私の大好きな漫画『ブラック・ジャック』を、現代医学の水準で見返した際に気づかれるさまざまなことについて書いた医学書です。
単に、ブラックジャックのしたことやデータをまとめたりするものではありません。単に、ブラックジャックの凄さを並べ、感想を述べたりするものでもありません。『ブラック・ジャック』はあくまでも漫画の表現として描かれたものでありますが、 私にとっては『ブラック・ジャック』はすでに、質の高い偉大な古典です。私がしたのは、この『ブラック・ジャック』という古典から読み取れることを、自分で分析し、自分の言葉で書いたというだけです。
その内容は大まかに3つに分けられます。
1つは、“古典”に関するコメンタリー(注解書)を書く感覚で本書を執筆したので、基本的には、ブラックジャックのしたことの真意や、手塚治虫先生の描きたかったことについて、随所で述べようとしています。
2つ目は、『ブラック・ジャック』の時代における医療と現代の医療を比較しています。『ブラック・ジャック』執筆の時代にはなかった疾患概念が、今日に至るまでにどんどん新しく登場しています。そうすると、『ブラック・ジャック』で描かれた症状や病気を今の水準でその眼でみてみると、[別の]診断に至る、あるいは[新しく]診断がついてしまう、といったことが起こりうるわけです。
この背景について補足的に述べておきますと、これがなぜ可能かと言えば、手塚治虫先生による医療上の描写が極めて高いリアリティを備えているからだと私は考えています。手塚先生の描写は、実際の患者の病態を直接みたか、当時得られる症例報告を広く深く読み込んだとしか思えないレベルに達しています。現在になり、私のような一介の臨床医が、『ブラック・ジャック』でなされた医療描写を使って臨床病跡学的な検討をなぜできてしまうかと言えば、まさに手塚治虫先生の描写が精緻であるからで、しかもそれらに普遍性と先見性があったからに他なりません。
今回私がした、ある種の“診断の再検討”のような試みは、私が知る限りまだ誰にもされたことがありません。本書では、こうしたことについて十分そして慎重に書いたつもりです。治療などの診療内容の違いなどにも触れています。
最後3つ目は、ブラックジャック/手塚先生の「慧眼」について折に触れて述べています。医療の話で昔と今の比較というと、すべて今の方が優れていると思いがちです。実はそうではありません。ブラックジャックの言動や行動のうち、驚くほど多くのことが、現在にも十分通じるのです 。そこで私は思いました。医療の本質あるいは医療に携わる人の普遍的な“悩み”というのは、時代を超えて変わらないのだと。だからこそ、本書が現代の「実用書としての医学書」として成立する・通用するものと考えています。本当に大切な本質的なことというのは、何年経っても変わりません。つまり、手塚先生が当時すでに、時代の変化によっても変わらない大切なことを見抜く慧眼とそれを残す表現力があったということに他なりません。
巻頭言としてはもう終盤です。私が本書を書いた理由は、漫画『ブラック・ジャック』が大好きだからなのですが、最初は実は「学術論文(らしきもの)」を書こうとしていました。本書の「ピノコ誕生の回」の内容は、本当は学術論文にしてどこかの大学に持ち込んで学位論文にしたかったのです。でもそれは広範囲に内緒にしといてください。ちなみになんの学問かといえば、病跡学です。本書のことを知るかご覧になり、関心を持たれた精神医学教室の教授の先生、ご連絡をお待ちしています。『ブラック・ジャック』で博士号をとりたいです。
論文ではなく医学書/書籍にしようと決めたら、表現の仕方や自分の考えの述べ方に自由が生まれました。学術なら、想像と推論の境界が曖昧な事柄には強く言及できませんが、自著の書籍なら書けると思いました。当然「想像一辺倒」のようなことはしていません。ただ、現代に生きる臨床医である私の感性で行った「古典解釈」は込めています。『ブラック・ジャック』は古典であり、本書は単著の書籍なのですから、古典を眺める“個人的態度”は示してもよいのではと思ったのでそうしました。厳密さが気になる諸氏には、申し訳ありませんという他ないです。
実質「國松担当」となっている金芳堂編集部の浅井健一郎さんには大変ご負担をおかけいたしました。基礎的な編集スキルが高いうえに、いつも鋭く知的で刺激的なコメントをいただき、感謝しかありません。またこのような「変な」書籍の企画・出版を許容してくれた手塚プロダクションにも感謝申し上げます。
医療法人社団永生会南多摩病院 総合内科・膠原病内科
國松淳和
目次
序
長い長いまえがき
1.ピノコ誕生の裏に見えた真実!?
コラム1:悪霊が乗り移ったのか?
2.本間先生のかたきをうつ :“本間血腫”の正体に迫る
コラム2:甚大な誤り?
3.ブラックジャックがわからなかった“心ブロック”の正体は?
コラム3:Happy heart syndromeの何がHappy?
4.手塚治虫がみた腎不全患者とは?
5.それでも残しておきたい臓器
6.救急救命医ブラック・ジャック
コラム4:働き方改革?
7.霊魂のせいか否か
8.獅子面病とブラックジャックの賭け
9.外科手術だけではない
コラム5:精神的加重?
10.難しい病気に負けないように
11.華の命と人の命
12.王道の分野だけではない
トピックス
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■2020.07.29
本書の著者である、國松淳和先生のインタビューが公開されました。
連載: ブラック・ジャックの解釈学 著者に聞くVol. 1 ブラック・ジャックが医学書に!著者 國松医師の意外な素顔 | Doctors LIFESTYLE | m3.com