非専門医による甲状腺疾患・糖尿病外来診療の実際
-万年研修医と専門診療科医との対話から-
甲状腺疾患・糖尿病24症例 あなたが主治医ならどうする? 万年研修医のための生涯研修ツール!
内容紹介
本書は「非専門医の視点から甲状腺疾患・糖尿病外来診療の到達目標を明らかにする」というコンセプトに基づいた、非専門医による専門領域の本になります。
自称、万年研修医である著者が自分自身の外来症例を呈示し、非専門医としての診療上の疑問、症例に対する議論を専門医にコメントしてもらうという“Q&A形式の対話”を通じて、これからの非専門医(開業医や研修医)が目指すべき到達目標が明らかになるとともに、診療上の実際的なポイントについても理解できる一石二鳥の内容となっています。
万年研修医が生涯学習により知識をブラッシュアップしていく姿勢はもちろん、専門医からのアドバイスについて理解できる能力をもつことの重要性なども本書で学べます。
序文
■序■
内科の各専門領域は日進月歩であり、概念や治療体系が過去20年で大きく変化して来ています。内科診療を実践する実地医家は、万年研修医と自認するのであればそれらを生涯学習により学ぶ必要があります。しかし、それぞれの専門領域においての非専門医に対する到達目標を専門医自身が作成すると、それは到達できないような高いものになってしまうように思います。専門医にとってはルーチンの検査・治療であっても、非専門医にとってはルーチンの検査・治療ではないことは多いのです。
2019年、循環器診療に対して、到達可能な「到達目標」を明確にした万年研修医を対象とした本を循環器専門医である私が発刊しました。しかし、私は生涯研修のためには、非専門医自身が到達可能な目標を掲げて専門診療を論じるべきであると思い、それを発信してきました。非専門医である私がその目標を作成し、それを実践していることで、読者である非専門医にとってもそれは到達可能な目標となるのではと思います。もちろん、開業医であればその地域の医療事情や患者さんからのニーズや勤務医であれば勤務している病院での診療体制は様々ですので、一概に特定の到達目標を設定するのが困難なことは理解しています。
私の卒後5年間における内科ローテート研修内容は、各専門診療科の入院患者をケアすることでした。そして、研修終了後に進んだ循環器内科では、病院の性格上、循環器疾患以外の患者を外来で経過観察することはできませんでした。
開業した19年前から、内科専門医やTFCなどのメーリングリストで自分自身が経験した非専門領域の症例を積極的に呈示し専門医からコメントしてもらうことで、自分なりに非専門領域に対する外来での到達目標が明確になってきました。
この本の甲状腺疾患の共著である山守育雄先生は、TFCメーリングリストでの甲状腺疾患における私の師であり、糖尿病の共著の奈良県立医大の毛利貴子先生は、天理よろづ相談所病院で2年間一緒に勤務し、現在では糖尿病の全人的診療を実践しておられる方です。
この本では、非専門医(万年研修医)である私が自分自身の外来症例を呈示し万年研修医としての診療上の疑問含めて、症例に対する議論を専門医にコメントしてもらうような体裁にしています。お二人の先生方と議論してから追加した検査もあります。
万年研修医と考える実地医家のみなさん、専門内科に分かれていない小規模病院の内科医のみなさん、外来をするようになった後期研修医のみなさん。今回提示した症例を皆様が主治医ならどうされますか?
この本を万年研修医の生涯研修のツールとして活用してもらえれば幸甚です。
2020年7月
伊賀幹二
目次
その1 甲状腺疾患
甲状腺非専門医としての私の到達目標
症例01 6ヵ月のMMI治療にもかかわらず甲状腺機能が正常化しなかったバセドウ病の26歳女性
症例02 β遮断薬により症状がマスクされていたバセドウ病の87歳女性
症例03 発作性心房細動を契機に発見された一過性甲状腺中毒症の39歳男性
症例04 味覚異常からバセドウ病と診断された40歳男性
症例05 亜急性甲状腺炎後に一過性甲状腺機能低下を呈した31歳女性
症例06 出産後に一過性の甲状腺機能低下を来した29歳女性
症例07 心不全で来院し,ヨード摂取が原因と思われる甲状腺機能低下症を合併していた57歳女性
症例08 FT4が正常であるが,TSHは10μIU/mL以上で大きな甲状腺腫をもつ32歳女性
症例09 検診で甲状腺腫大を指摘され機能低下であった60歳女性
症例10 発作性心房細動での受診時にスクリーニングとして測定したTSHが高値であった80歳女性
症例11 初診の診察で硬い甲状腺腫を指摘された86歳女性
症例12 頸動脈超音波像から橋本病と診断された陳旧性心筋梗塞の既往の70歳男性
その2 糖尿病
糖尿病非専門医としての私の到達目標
症例01 間食の増加とともに血糖とHbA1c値が徐々に上昇してきた80歳女性
症例02 冠動脈血管形成術後でHbA1cが7%前後のメタボリック症候群の63歳男性
症例03 ランタス投与中だが血糖のコントロールが不良な71歳男性
症例04 長期経過観察でHbA1cの動揺が激しい79歳男性
症例05 運動量,食事量,体重も変化ないにもかかわらず,空腹時血糖およびHbA1cが5ヵ月で徐々に上昇してきた66歳男性
症例06 急速な体重減少と口渇感を主訴として来院した54歳男性
症例07 体重減少と口渇感を主訴として来院した67歳男性
症例08 本年度検診で,1年前6.6%であったHbA1cが11.1%と著明な上昇を指摘され来院した60歳男性
症例09 仕事がら食事療法が不可能な,不安神経症で薬物服用中の59歳女性
症例10 長期服用していたSU薬を中止し,現在HbA1cが7.5~8.0%の84歳女性
症例11 合併症のない80代前半の2型糖尿病の男性-薬の選択は-
症例12 認知症により血糖コントロールがきわめて悪化してきた85歳女性
Column
TSHレセプター抗体について
生活習慣への介入
空腹時血糖の判定の際の注意点
シックデイルール
ペットボトル症候群
ネガティブ・ケイパビリティ