心理師、関係者、当事者のための実践テキスト 発達障碍のある人と共に育ち合う 「あなた」と「私」の生涯発達と当事者の視点

    定価 2,860円(本体 2,600円+税10%)
    編集大倉得史
    京都大学人間・環境学研究科
    勝浦眞仁
    桜花学園大学保育学部
    A5判・300頁
    ISBN978-4-7653-1846-4
    2020年11月 刊行
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    発達障碍に関わる心理師、関係者、当事者必読!

    内容紹介

    公認心理師や臨床発達心理士などの資格保持者、保育・療育・教育の現場の方、発達障碍の当事者やその家族などいろいろな方に読んでもらいたい思いから、本書がつくられました。

    ただ資格保持といっても、公認心理師の中には非心理系の前職の方が多いことも実情です。それではアセスメントを身につけるだけとなり、発達障碍を持つ人に対して十分な支援活動ができるとは言いきれません。

    そこで、いろいろな経験を持つ著者らが、それぞれのエピソードを通して、発達障碍者と関わるとはどういうことか、共に生きる社会とは何かを示しています。

    本書では、「障碍を持つ被支援者」を「専門的スキルを持つ支援者」が支援するという枠組みを越え、固有の人生を歩む「私」と「あなた」として、発達障碍のある人と共に歩み、育ち合い、支え合っていく関与のあり方を描きました。最終章では発達障碍の当事者である綾屋紗月さんが、当事者の目から本書の議論がどのようなものとして映るか、吟味・検討しています。障碍のある子どもや大人、その家族が、生涯の展望を思い描けるように、さまざまな支援の現場、ライフステージを取り上げた発達障碍に関わる心理師、関係者、当事者必読の内容です。

    序文

    本書は、発達障碍のある人への支援について考えるための実践テキストです。公認心理師や臨床発達心理士などの資格を持っている方々、保育・療育・教育の現場の方々、発達障碍の当事者や家族の方々など、いろいろな立場の方に読んでいただきたい内容になっています。

    本書を貫いているのは、「専門家」が発達障碍のある人を一方向的に「支援」するという枠組みそのものを乗り越え、固有の人生を歩む「私」と「あなた」として、発達障碍のある人と共に生き、育ち合っていけるような関係を築くにはどうしたらよいのかという問いです。幼少期から成人期までのさまざまな現場で発達障碍のある人に関わってきた実践者・研究者が、たくさんのエピソードや事例を交えながら、この問いについて考えています。発達障碍のある人を一方的に「支援」が必要な対象とみなして、適応的な行動や感情コントロールの力を身に付けさせていこうとする従来の支援論とは一線を画す本になっていると思います。

    さらに、最後の第十章では、発達障碍の当事者である綾屋紗月さんに、当事者の目から本書の議論がどのようなものとして映るか、吟味・検討していただいています。支援をする人が支援をされる人の声に真摯に耳を傾けていくことは、両者の間に人間的な交わりが生まれるための最初の出発点であり、本当の意味での支援を実現していくための必須条件です。そのことを単に理念的に謳うだけでなく、ささやかな形ではあれ︑実際に本書で体現してみたいと考えました。

    読者の方々には、ある種の「異文化」を生きる発達障碍のある人々から謙虚に学び、粘り強く関係を紡いでいこうとする実践者の姿や、そうした実践を通じてもなお(あるいは、そうした実践を通じてこそ)浮上してくる「私」と「あなた」が共に生きることの困難さなどを感じていただけたらと思います。あらゆる対人実践に言えることでしょうが、「こうしたら必ずうまくいく」という唯一のやり方があるわけではありません。むしろ、その困難さをまずは「私」と「あなた」で共に味わいつつ、何とか生活を紡いでいく、その中で「私」と「あなた」の協働が何らかの形で実を結ぶ結果として一筋の光が見えてくるというのが、事態が好転するときの基本的な筋道でしょう。本書には、そうした過程を実現していくためのヒントがたくさん詰まっていると考えています。

    2020年7月
    大倉得史

    目次

    編者・執筆者一覧
    はじめに

    第1章 発達障碍のある人と共に「育ち合う」関係へ―関係発達障碍論―
    1.本書の特徴と意義
    2.心(主体性)の育ちを捉えるための枠組み―関係発達論
    3.相互主体性―養護的働きと教育的働きのバランス
    4.「育てる者」と「育てられる者」との「育ち合い」
    5.関係発達論から見る発達障碍
    6.発達障碍という状況を構成する三側面
    7.「支援者-被支援者」関係から「育ち合う」関係へ

    第2章 発達障碍支援のあり方を問い直す
    1.はじめに―私たちの根幹にある発達観・障碍観が問われている
    2.三歳児健診での対照的な二人の子ども
    3.これまでの発達障碍支援の批判的検討
    4.「あなた」と「私」の関係性から考える発達障碍支援
    5.まとめ―お互いにとって「身近な他者」になること

    第3章 発達相談におけるアセスメントと支援
    1.はじめに
    2.発達相談とは
    3.発達相談の一場面から
    4.発達相談におけるアセスメント
    5.保護者にとっての発達相談の体験
    6.改めてもう一度、発達相談とは

    第4章 木洩れ日―「私」と「私たち」が紡ぐ暮らし
    1.はじめに―私の原風景
    2.「なんだか嬉しくなっちゃった」―碧くんと友だちとお母さんと私たち
    3.「ひらみつおばけ」―他機関との連携
    4.おわりに―「大丈夫」

    第5章 療育の場における支援
    1.療育とは何か
    2.療育の概要
    3.療育の実際
    4.まとめ

    第6章 小・中学校における支援
    1.小学校・中学校の通常の学級にて
    2.特別支援学級では何をどのように学ぶのか
    3.徹底的な個へのまなざし~支援の前に「人付き合いを」~
    4.やりたくてやっているわけではないということ
    5.ここまで考えてきたこと

    第7章 特別支援学校における支援
    1.特別支援学校で学ぶということ
    2.特別支援学校での教育の実際
    3.まとめ

    第8章 高等教育段階での支援
    1.はじめに
    2.大学に進学する前に考えておきたいこと
    3.大学における支援
    4.おわりに

    第9章 成人期以降の支援
    1.はじめに
    2.「障害」って何だろう
    3.発達障害がある成人の困難
    4.むすびにかえて

    第10章 身体とつなぐ 仲間とつなぐ― 自閉スペクトラム当事者の視点から
    1.はじめに
    2.本書の重要な点を再確認する
    3.誤解されやすい点を整理する
    4.新しいことを本書に追加する
    5.おわりに

    索引
    編者プロフィール

    執筆者一覧

    ■編集
    大倉得史  京都大学人間・環境学研究科
    勝浦眞仁  桜花学園大学保育学部

    ■執筆者一覧(五十音順)
    青山新吾    ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科
    綾屋紗月    東京大学先端科学技術研究センター
    市川奈緒子   白梅学園大学子ども学部子ども学科
    大倉得史    京都大学人間・環境学研究科
    小柳津和博   桜花学園大学保育学部保育学科
    勝浦眞仁    桜花学園大学保育学部保育学科
    和仁正子    社会福祉法人蓮華会ひきえ子ども園
    岸本栄嗣    京都芸術大学芸術学部芸術教養センター
    毛利眞紀    創価大学教育学部教育学科
    山本智子    近畿大学教職教育部

    トピックス