除菌後胃がんを見逃さない! H.pylori既感染者の胃内視鏡診断アトラス

    定価 7,480円(本体 6,800円+税10%)
    監修春間賢
    淳風会医療診療セクター副セクター長/川崎医科大学特任教授
    編著井上和彦
    淳風会健康管理センターセンター長
    B5判・280頁
    ISBN978-4-7653-1866-2
    2021年04月 刊行
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    目で見て覚える既感染者の胃粘膜・胃がん状態!

    内容紹介

    H.pylori除菌後の胃がんを見落とさないための目と頭を養う内視鏡診断アトラスです。

    H.pylori除菌治療の保険適用拡大(2013年)に伴い、既感染患者の胃粘膜・除菌後胃がんの所見に出会う機会が増えています。ただ、スクリーニングを行う施設でそれらを十分にフォローできていないことも現状です。スクリーニングで胃がんリスクが高いH.pylori現感染例の内視鏡観察は引き続き重要ですが、増加しているH.pylori除菌後例に対応する術を持っておく必要があるでしょう。

    本書では、既感染患者の胃粘膜を内視鏡で的確にスクリーニングするために、判断に迷う症例や見逃しがちな症例を写真を中心に紹介しています。「このような所見なら注意が必要なのか!」と新たな発見があったり、改めて学んだりすることのできる参考書です。

    序文

    監修のことば

    今まさに必要とされているテキストである。

    ひと昔前であれば、胃がんを発見するには、胃がんの高リスク群である萎縮性胃炎や腸上皮化生、さらにH.pylori感染が指標となった。しかしながら、最近経験される胃がん、特に早期胃がんでは、H.pylori除菌後の胃、あるいは、H.pylori未感染の胃に発生する胃がんが大半を占めるようになってきている。したがって、H.pylori除菌前後の胃粘膜をよくよく理解し、さらに、その粘膜変化の中から除菌後胃がんを見つけていかなければならない。

    著者の面々を見ても、編集者である井上先生の豊富な人脈により、それぞれの項目の第一人者により執筆されている。テキストのタイトルの中に「除菌後胃がんを見逃さない!」とあるが、H.pylori未感染胃に発生する胃がんについても詳しく取り上げられており、この一冊で、まさに、新しい胃がんの診断学を学ぶことができる。

    淳風会医療診療セクター副セクター長/川崎医科大学特任教授
    春間賢


    はじめに

    胃がん発生にH.pylori感染が重要な役割を果たしていることに異論はないであろう。1983年に発見されたH.pyloriは、その後の多数の研究で消化性潰瘍のみならず、胃がん発生との強い関連が示された。1991年に報告された複数の疫学的研究などをもとに1994年には世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)は「H.pyloriは胃がんの“definite carcinogen”」とコメントした。その後、Uemuraらは2001年に病院受診患者を対象としたコホート研究で、H.pylori未感染者からの胃がん発生はなかったが、現感染者からは0.5%/年の割合で胃がんが発生したことを報告した。また、Matsuoらは3,161例の胃がん症例を対象として、H.pylori感染状態を既感染も含めて厳密に検討した結果、H.pylori未感染胃がんは21例(0.66%:95%信頼区間〈CI〉:0.41-1.01)にすぎなかったことを報告した。

    人におけるH.pylori除菌による胃がん発生予防効果に関しては、Uemauraらの早期胃がん内視鏡治療患者を対象とした、除菌による二次がん発生予防の報告が最初と思われる。その後、わが国で多施設共同無作為化比較試験を行い、早期胃がん内視鏡治療後患者においては、ハザード比0.339(95%CI:0.167-0.729)で二次がん発生率が低下することを示した。そして、2014年IARCはH.pylori除菌による胃がん予防策を推奨した。また、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(厚生労働省健康局長通知:平成28年2月4日一部改正)」では、「胃がんに関する正しい知識並びに胃がんと食生活、喫煙、ヘリコバクターピロリの感染などとの関係の理解等について」健康教育を行うように、また、「除菌等の一次予防と二次予防(検診)を緊密な連携を確保し」実施するように示されている。

    日本では、2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍に対してH.pylori保険診療が認められ、2010年に早期胃がん内視鏡治療後胃・胃MALT(mucosa associated lymphoid tissue)リンパ腫・特発性血小板減少性紫斑病(現・免疫性血小板減少症)に適用拡大された。そして、2013年に保険適用が慢性胃炎に拡大されてからは、多くの人が胃がん発生予防を期待して除菌治療を受けている。

    しかしながら、Kamadaらは後ろ向き研究で除菌後の胃がん発見率は0.2%/年であったと報告し、Uemuraらの報告の感染持続者の0.5%/年に比べ半減しているものの、除菌後に発見される胃がんも少なくない。また、Fordらはメタアナリシスで、胃がんや消化性潰瘍のないH.pylori胃炎のみに対する胃がん発生予防効果は、有意差は認められたものの、リスク比は0.66(95%CI:0.46-0.95)と限定的であったと報告している。すなわち、除菌により医療終了でないことは明らかであり、除菌後のサーベイランスの重要性を啓発しなければならない。

    一般財団法人淳風会の3施設では日本消化器内視鏡学会のJapan Endoscopy Database(JED)登録に参加している。その中では胃粘膜萎縮の程度(木村・竹本分類)とともにH.pylori感染状態の記載は必須となっている。2019年10月~2020年3月の6か月間に人間ドック・健診・検診で内視鏡スクリーニングを行った12,392例のH.pylori感染状態を図に示す。何らかのH.pylori検査の陰性結果があり、内視鏡所見も未感染を示唆する受診者が31%あった。また、H.pylori検査未検が29%を占めていたが、当施設では内視鏡でH.pylori感染を疑う受診者については以前から積極的にH.pylori感染診断を行っており、この未検のほとんどが未感染と思われる。また、H.pylori除菌成功後の受診者が31%を占めていた。一方、H.pylori現感染者は5%と非常に低い割合となっている。この背景のもと、発見する胃がんのH.pylori感染状態をみても現感染例が減り、除菌後例が次第に多くなっている。胃がんスクリーニングのあり方の転換期を迎えていると思われる。

    今後も、スクリーニングにおいて胃がんリスクが高いH.pylori現感染例の内視鏡観察はもちろん重要であるが、増加しているH.pylori除菌後例への対応もさらに大切であり、本書を上梓することとなった。その編集においては胃粘膜状態や胃がんについて卓越した学識を有し、除菌後胃がんを多数経験している先生方に執筆をお願いした。明日からの検診や健診、人間ドックのスクリーニング、また、診療の最前線で活用いただけるものと期待している。

    2021年3月
    淳風会健康管理センターセンター長
    井上和彦

    目次

    編集者・執筆者一覧
    監修のことば
    はじめに

    I章 H.pylori感染と胃粘膜状態の変遷

    1 スクリーニング検査でみられる胃粘膜状態
    ≫ A 「胃炎の京都分類」からみた人間ドック受診者の胃粘膜状態に関する検討
    ≫ B 人間ドック受診者の胃粘膜状態(総合病院健診センターでの検討)
    ≫ C 対策型内視鏡検診における胃粘膜状態
    - Note1 胃がんリスク層別化検査:ABC(D)分類の各群の占める割合の時代的変遷

    2 スクリーニング検査で発見された胃がんの胃粘膜状態
    ≫ A 人間ドックにおけるH.pylori感染状態と発生胃がん
    ≫ B 人間ドック・健診・検診で発見された胃がんの胃粘膜状態

    Ⅱ章 除菌後にみられる胃粘膜と胃がん発生リスク

    1 除菌後の内視鏡所見と組織学的変化
    ≫ A びまん性発赤の改善について
    ≫ B 体部小彎の萎縮粘膜について
    ≫ C 地図状発赤・斑状発赤の所見について
    ≫ D 除菌後にみられる胃底腺ポリープ様隆起
    ≫ E 組織学的胃炎の改善状況
    - Note2 除菌後の胃X線像の特徴―これを見れば、除菌後胃粘膜だ!
    - Note3 除菌後の血清マーカー(ペプシノゲン、ガストリン、H.pylori抗体)

    2 除菌後の胃がん発生リスク
    ≫ A 除菌による早期胃がん内視鏡治療後の二次がん発生低下
    ≫ B 胃がんの既往歴のないH.pylori感染者(消化性潰瘍の既往を含む)に対する除菌による胃がん発生の抑制効果

    Ⅲ章 除菌後胃がんの特徴と内視鏡観察のコツ

    1 除菌後胃がん発生のリスク
    ≫ A 除菌前の胃粘膜状態で除菌後胃がん発生リスクが予測できるか?
    ≫ B 除菌後の胃粘膜状態で胃がん発生リスクが予想できるか?

    2 除菌後胃がんと現感染胃がんの比較
    ≫ A 除菌後に発見される胃がんの特徴
    ≫ B 除菌後に発見される胃がんの特徴(分化型がんを中心に)
    ≫ C 除菌後に発見される胃がんの特徴(未分化型がんも含めて)
    ≫ D 除菌後に発見される進行がん

    3 除菌後胃がんを見逃さないためのコツ
    ≫ A 検診・総合健診におけるスクリーニング検査
    ≫ B 経鼻内視鏡によるスクリーニング検査
    ≫ C LCI(linked color imaging)、BLI(blue laser imaging)を用いた観察
    ≫ D NBI(narrow-band imaging)観察・拡大内視鏡による観察

    Ⅳ章 未感染胃がん、その他の内視鏡所見

    1 未感染胃がんの特徴と内視鏡所見
    ≫ A 褪色調を呈する印環細胞がん
    ≫ B 胃底腺型胃癌
    ≫ C 食道胃接合部がん(Barrett腺がんを除く)
    ≫ D ラズベリー様腺窩上皮型胃がん

    2 H.pylori以外の原因による胃炎と腫瘍性病変
    ≫ A NHPH(Non-Helicobacter pylori Helicobacters)感染による胃炎と腫瘍性病変
    ≫ B 自己免疫性胃炎(A型胃炎)と腫瘍性病変

    索引

    執筆者一覧

    ■監修者
    春間賢   淳風会医療診療セクター副セクター長/川崎医科大学特任教授

    ■編集者
    井上和彦  淳風会健康管理センターセンター長

    ■執筆者
    青木利佳  徳島県総合健診センター診療部医長
    伊藤高広  奈良県立医科大学放射線・核医学科講師
    伊藤公訓  広島大学病院総合内科・総合診療科教授
    井上和彦  淳風会健康管理センターセンター長
    上山浩也  順天堂大学医学部消化器内科准教授
    小野尚子  北海道大学病院消化器内科講師
    貝瀬満   日本医科大学消化器内科学教授/日本医科大学付属病院内視鏡センター長
    加藤元嗣  国立病院機構函館病院院長
    鎌田智有  川崎医科大学健康管理学教授
    河合隆   東京医科大学消化器内視鏡学主任教授
    川村昌司  仙台市立病院消化器内科医長
    小泉英里子 日本医科大学消化器内科学
    小刀崇弘  広島大学病院内視鏡診療科助教
    兒玉雅明  大分大学福祉健康科学部教授/医学部内視鏡診療部診療教授
    小林正明  新潟県立がんセンター新潟病院副院長/がん予防総合センター長
    小林正夫  京都第二赤十字病院健診部
    柴垣広太郎 島根大学医学部附属病院光学医療診療部准教授
    武進    日本鋼管福山病院消化器内科
    田中信治  広島大学病院内視鏡診療科教授
    寺尾秀一  加古川中央市民病院内科主任科部長
    中島滋美  滋賀医科大学地域医療教育研究拠点准教授/JCHO滋賀病院総合診療科部長
    永田信二  広島市立安佐市民病院消化器内科主任部長
    永原章仁  順天堂大学医学部消化器内科教授
    平川克哉  福岡赤十字病院副院長/消化器内科部長
    間部克裕  淳風会健康管理センター倉敷センター長
    丸山保彦  藤枝市立総合病院副院長/内視鏡センター長
    向井伸一  広島市立安佐市民病院消化器内科部長
    村上和成  大分大学医学部消化器内科教授
    矢田智之  国立国際医療研究センター国府台病院消化器内科診療科長
    吉村大輔  国立病院機構九州医療センター消化器内科医長
    吉村理江  博愛会人間ドックセンターウェルネス/ウィメンズウェルネス天神所長

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