外科レジデント&周術期管理に関わる医療者のための 外科周術期 掟と理論 総論編
周術期管理 深読み教室 いざ開講!
内容紹介
外科手術治療の中でも、とくに患者数が多い消化器外科手術に焦点を当て、その外科周術期管理を、研修医、看護師はもちろん、外科専攻医から消化器外科専門医取得レベルまでの医師向けに、深く掘り下げた書籍の総論編が登場。
本書は、基礎だけでなくTipsも紹介し、術前・術中・術後すべてをこの1冊でカバーできるように構成しています。また、誰も教えてくれなかった創傷治療のメカニズムや腫瘍ドレナージ法も解説しました。
チームでスムーズに周術期管理にあたれるように、基本的な周術期管理とともに、その管理について理解が深まるよう掘り下げてお伝えします。
それでは、本文に登場する駆け出しの外科専攻医「ドラゴン」「さくらいくん」「いちまる」と、オーベン先生の「オラオラ先生」とともに、一緒に周術期管理について学んでいきましょう。
序文
本書は、外科手術治療の中でも、とくに患者数が多い消化器外科手術に焦点を当て、その周術期管理について基本を“できるだけ分かりやすく”かつ専門医の視点で“深読み”できるよう解説を試みたものです。ですから簡単な入門書ではなく、外科専攻医から消化器外科専門医取得レベルまでの医師が、傍らにおいて学ぶ参考書という位置づけで、編集をさせていただきました。本書のコンセプトとして実際の手術操作と周術期管理、とくに合併症の発生と治療を一連の流れとして、対応させて理解する思考過程の構築を重視しています。
また、周術期管理は外科医だけの力で成り立つものではありません。ここ10年の間にチーム医療の必要性は誰もが認めるところとなり、麻酔科医、内科医、外来・病棟・手術室のナースはもちろん、理学療法士、薬剤師、臨床工学技士、歯科衛生士などを含む多職種の関わりがより濃厚となっています。本書では消化器外科治療に関わってくださるすべての医療従事者の方々に「外科医は何を考えて周術期管理を行っているのか」という共通言語(リテラシー)を育んでいただきたいということも念頭に、作成いたしました。とくに毎日のように若手外科医と、周術期管理についてコミュニケーションを取る必要のあるメディカルスタッフの方々にも読んでいただけるよう工夫を凝らして編集しました。若手外科医は日々何を考えて病棟業務を行っているでしょうか。「発熱」や「ドレーン混濁」といった病棟コールに対して、どのような思考回路で行動をするのでしょうか。多職種のスタッフの方々が本書より、外科医の視点に立って周術期管理の流れを俯瞰していただけましたら、きっとそこから新たな共通認識が生まれ、一段と質の高い外科診療の提供につなげることができるでしょう。
患者の高齢化に伴い、術前に複数の併存症管理が必要になるケースも増えています。漫然としたクリニカルパス運用は、むしろリスクを高める時代になっていくでしょう。このような時代に、多職種の医療従事者が、一定のリテラシーを持って周術期管理にあたることは、患者さんの安心感にもつながる重要な要素です。
本書では消化器外科全般の手術について、できる限り具体的なデータをもとに、標準的な解説を試みました。希望を持って手術を受けられる患者さんが、健やかに回復することを心から願う医療従事者の皆様に、お手に取って読んでいただけましたら、これに勝る喜びはありません。
令和4年1月
本多通孝
目次
序章
1 朝は忙しい。報告する患者の優先順位を明確にせよ
2 自分の目で見たことを報告せよ
3 術野を思い出し、術後経過とリンクさせて病態を説明せよ
4 術者の立場に立って、対応を提案せよ
本書の使い方
章の構成
登場人物の紹介
3つの使い方
- 1 定期的に時間を確保して勉強できる場合
- 2 忙しい平日のスキマ時間に勉強する場合
- 3 今すぐに役立つ知識から学びたい場合
外科病棟“あるある”から学ぼう
第1章 チャンスをつかむ! 術前管理の要点
第1講 新しい病院に赴任した専攻医がすぐにすべきこと
1 外科医はスピード&コミュニケーションである
2 クリニカルパスを通じてローカルルールを理解せよ
3 専攻医は緊急手術を嗅ぎつけよ
第2講 待機手術の担当医を任されたら
1 患者が入院したらすぐに会いに行くべし
2 問診は具体的に・しつこく聴取すべし
3 症状と画像所見の対比から病態を考えよ
第3講 耐術能をどう評価するか
1 耐術能を評価する目的を理解せよ
2 耐術能評価の指標を覚えよ
3 高齢者の耐術能評価を熟知せよ
第4講 知っておくべき術後合併症のリスク
1 術後合併症の種類を知るべし
2 俯瞰的にリスクを推し量るべし
3 リスクカリキュレーターの利点と限界を知るべし
第5講 術前の栄養管理にこだわる
1 消化器外科医たるもの、栄養評価を怠るな
2 栄養療法を熟知せよ
3 栄養剤の種類・特徴を知るべし
第6講 理学療法・口腔ケア・血栓予防の新常識
1 術前から術後リハビリの重要性をしっかり伝えておくべし
2 術前の口腔ケア・嚥下評価の意義を知るべし
3 静脈血栓塞栓症の予防策を怠るな
第7講 術前の内服薬をどうするか
1 抗血栓薬を中止してはいけない病態を知るべし
2 ステロイドカバーの意味を理解せよ
3 向精神薬は安易に中止してはいけないが術後腸管麻痺のリスクになる
第8講 専攻医の実力を簡単に知る2つの方法
1 スケッチの重要性を知り、描く習慣を身につけよ
2 プレゼンテーションは読み原稿を作って練習せよ
3 他科コンサルトの方法論に正解はない。誠実に対応すべし
第2章 キラリと光る! 手術当日の一手
第1講 手術に集中するための環境作りができているか?
1 手術中に自分のPHSが鳴る原因を分析せよ
2 日中の処置・急変対応をどうするか考えよ
3 手洗いしない手術こそ大切にせよ
第2講 手術開始までの準備を完璧にマスターせよ
1 麻酔導入中、何をすべきか考えよ
2 道具の準備ができない者は手術もできない
3 体位固定と器械配置には理論がある
第3講 ちゃんと見てる? 開腹と閉腹のお作法
1 開腹操作からすでに術後管理は始まっている
2 術後管理で迷ったら、まず術野を思い出すべし
3 最後まで気を抜かず、閉腹の所見を見逃すなかれ
第4講 ドレーンの挿入と固定
1 ドレーンを入れる目的を理解せよ
2 ドレーンの種類を理解せよ
3 ドレーンは“固定”を怠るな
第5講 病理検体のさばき方
1 病院の治療成績を上げたければ、一生懸命リンパ節を掘れ!
2 癌取扱い規約の通りにデザインして張り貼りつけよ
3 病理医が診るべきポイントが分かるように記載せよ
第6講 病棟帰室時の指示
1 抜管後の患者をよく観察せよ
2 尿量に応じて細胞外液の負荷を増減せよ
3 当日は帰る前に必ず術後患者を診察せよ
第3章 待ったなし! 術後管理の定石
第1講 術後管理の基本
1 術後の身体診察を極めよう
2 食事開始の判断力を磨け
3 早期離床を妨げる原因を考えよ
第2講 術後に熱が出た!
1 術後発熱のメカニズムを熟知せよ
2 抗菌薬投与前に培養を採取せよ
3 手術部位以外の感染を見逃すな
第3講 術後の疼痛が強い!
1 痛みの部位・種類を観察せよ
2 疼痛のメカニズムをよく考えよ
3 離床は合併症予防の第一歩・うまく疼痛をコントロールせよ
第4講 術後に尿量が少ない!
1 腎後性を否定してから、腎前性を疑え
2 脱水の身体所見を見逃すな
3 漫然と外液負荷を続けるな
第5講 ドレーンの脇漏れが多い!
1 毎日のドレーン観察を怠るな
2 脇漏れ排液が多くなる原因を追究せよ
第6講 血糖値が高い!
1 糖尿病は全身疾患と捉えよ
2 糖尿病合併症・動脈硬化性併存症の評価を怠るな
3 血糖管理と栄養管理を同時に考えよ
第7講 頻脈です!
1 致死的不整脈にすぐ対応せよ
2 不規則性の上室性不整脈は、塞栓リスクの評価とリズムコントロールを考えよ
3 頻脈の原因を検索しつつ、これまでの術後管理を見直せ
第8講 せん妄になっています!
1 術前にせん妄リスクを評価しておけ
2 必要に応じて薬物治療を
3 せん妄は合併症の前触れかもしれない
第9講 逸脱酵素が異常高値です!
1 逸脱酵素を制するものは術後管理を制する
第10講 突然の呼吸苦!
1 手術操作が頸部・胸部におよんでいるか確認せよ
2 肺血栓塞栓症や心筋梗塞など、致命的な病態を念頭において検査を進めよ
3 輸液過剰による心不全は、突然発症したように見える
第4章 誰も教えてくれない周術期管理に役立つ創傷治癒の理論
第1講 創傷治癒過程を知ろう
1 創傷治癒のメカニズムを熟知せよ
2 開放創は毎日観察し、治癒過程を体得せよ
3 創傷治癒を促進する因子、阻害する因子を考えよ
第2講 消化管の創傷治癒と吻合法の理論
1 粘膜欠損部は穿孔のリスクがある
2 消化管の治癒過程のキーマンは粘膜下層
3 基本的な手縫い吻合法を熟知せよ
第3講 膿瘍ドレナージの理論
1 膿瘍ができやすい場所を知っておくべし
2 限局化するまで待てるのか判断せよ
3 難治性瘻孔は感染源をコントロールせよ
索引
著者プロフィール
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