剖検マクロ・ミクロ病理アトラス 天理よろづ相談所病院CPCより

    定価 8,800円(本体 8,000円+税10%)
    藤田久美
    天理よろづ相談所病院病理診断部・現大阪府済生会吹田病院病理診断科科長
    八田和大
    天理よろづ相談所病院総合診療教育部部長
    A4判・108頁
    ISBN978-4-7653-1900-3
    2022年03月 刊行
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    マクロ・ミクロを対比した病理アトラスの決定版!

    内容紹介

    剖検は近年減少の一途にあるが、肉眼と組織を対比できる剖検症例の所見の貴重さはますます増している。関西で最も多くの剖検症例を誇る天理よろづ相談所病院にてCPCを開催した症例から、多くの領域の疾患・病態を網羅しつつ、意外な結論に至った症例など診断過程が興味深い症例を50例厳選した。内科医や放射線科医などの臨床医に向けて、病理医が病気を肉眼・組織でどのように見て、どのような所見を根拠に診断に至るのか、その軸を示す。病理医のみならず、病理診断に関わる臨床医・臨床検査技師も必読。

    序文

    緒言

    奈良県の天理よろづ相談所病院病理診断部において、17年間にわたって病理医として剖検診断業務に従事させていただきました。その間臨床医の先生方とともに、多数の剖検症例についてCPC(clinicopathologicalconference)を行ってきました。本書は、CPCで取り上げた多くの貴重な症例の中から50例を選び、その肉眼(マクロ)所見と組織(ミクロ)所見を呈示するアトラス(写真集)です。医学系のアトラスというと臓器ごとに体系的に写真が配置された著書が多いと思いますが、本書では、症例ごとにマクロとミクロの写真を呈示する形としました。症例検討会に参加しているようなイメージで、より楽しく臨場感をもってみていただけると思います。50例のほかにも、学ぶべきところの多い症例でありながら、残念ながら紙面や著者の能力の限界により掲載させていただくことができなかった症例も多数あります。できるだけ幅広い領域の疾患や病態がバランスよく網羅されるように症例を選び、各症例の主な病態を表す病理画像を掲載するとともに、副所見でも典型的なものがあれば適宜掲載するように配慮しました。

    本書の主な目的は、剖検で得られた検体の肉眼・組織の形態像の呈示であり、人体組織学・病理学への基礎知識を有する方を対象としています。マクロ所見とミクロ所見の連関に理解を深めていただけるような画像を可能な限り配したつもりです。マクロ・ミクロの病理形態像から病態に迫ることができていれば、目的は達成です。臨床的事項については各症例の冒頭に短い要点のみを挙げています。放射線画像と病理画像の連関も昨今さかんに取り組まれているテーマですが、本書ではあえて放射線画像は掲載していません。病理診断学の基本的な知識や病態理論などについてはすでに多くの優れた著書が出版されていますので、病理像の説明も最小限の記述にとどめ、できるだけ多くの病理画像を掲載するようにしました。

    全国的、世界的にも剖検の件数は減少傾向にあります。昨今のこうした医療の現状では、病理剖検診断を志す方々や、剖検から病態を学ぼうとする医学生・臨床研修医にとっては、実際の剖検症例の肉眼像および組織像に直接接し学ぶ機会は限られたものになりつつあります。今後も剖検から学ぶ機会は減少の一途を辿ると予測されるなかで、今日までに剖検から集積することのできた知見や資料は、たいへん貴重なものと考えます。剖検のマクロ・ミクロの経験を補う参考資料として本書を役立てていただければ幸いです。

    剖検は患者様のご遺族に理解いただけなければ成り立ちませんし、その前提となるのは、患者様やそのご家族と主治医をはじめとする医療従事者との良好な関係であろうと思います。天理よろづ相談所病院では多くのご遺族のご厚志により、全国的にみても豊富な剖検症例に携わらせていただくことができたと思います。ご献体くださいました患者様、また大切なご家族を亡くされたばかりの辛い時期に、主治医の説明に耳を傾けてくださり剖検にご同意いただいたご遺族様に、心から感謝申し上げます。また、患者様の救命に尽力された疲労の極致にあっても、熱意をもって患者様およびご家族様に対応された臨床医の皆様方に敬意を表します。

    これまで私自身も、医学的に興味深い剖検症例については積極的に学会などでの症例報告を行ってきましたし、臨床医によってすでに学会発表や論文の形で報告されている症例も含まれています。巻末にこれらを一覧として掲載させていただきました。漏れのないよう可能な限り検索し掲載しましたが、関係者の皆様にはご理解賜れれば幸甚です。

    最後になりましたが、剖検の実施や標本作製過程において、毎回時間と手間のかかる作業に多大なるお力を貸してくださいました天理よろづ相談所病院臨床検査部の技師をはじめとする関係職員の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。また、剖検病理診断全般に関して長年にわたり濃密なご指導をいただき、今回の出版に際してもご助言とご理解をいただきました天理よろづ相談所病院病理診断部元部長の小橋陽一郎先生に、心からの尊敬とともに深く感謝いたします。本書の出版を快くお引き受けいただき、編集にあたり多くのご助言、ご尽力をいただきました株式会社金芳堂の浅井健一郎様、黒澤健様に厚く御礼申し上げます。

    天理よろづ相談所病院病理診断部(現・大阪府済生会吹田病院病理診断科)
    藤田久美

    目次

    Case01 関節リウマチの経過中に呼吸不全が進行した60歳代男性例
    Case02 腹痛を主訴に来院した30歳代男性例
    Case03 不明熱にて発症し入院後に腹腔内出血をきたした70歳代男性例
    Case04 基礎疾患にC型肝炎がありショックにて来院した70歳代男性例
    Case05 連合弁膜症による心不全の加療中に発熱をきたした60歳代男性例
    Case06 頭頸部癌に対する放射線・化学療法後に腹水・肝障害が出現した40歳代男性例
    Case07 関節リウマチの経過中に吐血をきたした70歳代男性例
    Case08 不明熱の精査中に急変した60歳代女性例
    Case09 甲状腺癌術後35年目に発熱、白血球増多をきたした80歳代男性例
    Case10 発熱、腰痛を主訴に来院した30歳代女性例
    Case11 血液疾患加療中に耐糖能異常をきたした80歳代女性例
    Case12 意識障害を主訴に来院した70歳代男性例
    Case13 頸部腫脹、発熱を主訴に来院した70歳代男性例
    Case14 神経性食思不振症の経過中に皮下結節、腎障害を生じた30歳代女性例
    Case15 強皮症の経過中に腹部膨満感・嘔吐を反復した60歳代女性例
    Case16 重症筋無力症にて加療中に下血、嘔吐、呼吸不全をきたした80歳代女性例
    Case17 多発性骨髄腫の50歳代男性例
    Case18 発熱と胸部異常影を主訴に来院した50歳代女性例
    Case19 血液疾患にて観察中に脳梗塞をきたした60歳代男性例
    Case20 視力障害を呈した30歳代女性例
    Case21 便秘と腹部膨満感にて来院した60歳代男性例
    Case22 咳嗽を初発症状として下肢腫瘤、両肺多発結節影を生じた60歳代女性例
    Case23 長期人工透析中に吐血で来院した70歳代男性例
    Case24 呼吸不全で来院した抗リン脂質抗体陽性の70歳代男性例
    Case25 人工血管置換術後に急性腎不全をきたした70歳代男性例
    Case26 左室肥大、肝障害、腎障害を呈した60歳代女性例
    Case27 悪性リンパ腫に対する移植治療後に多臓器不全となった60歳代男性例
    Case28 腰背部痛を主訴に整形外科を受診した80歳代女性例
    Case29 膠原病、間質性肺炎の経過中に吐血をきたした60歳代女性例
    Case30 呼吸困難で来院した20歳代女性例
    Case31 強皮症の経過中に急速な腎機能低下をきたした70歳代女性例
    Case32 不整脈で経過観察中に心肺停止となった60歳代女性例
    Case33 肺癌の加療中に心不全を呈した70歳代男性例
    Case34 咳嗽で来院した70歳代男性例
    Case35 CABG術後に全身倦怠感、末梢冷感を訴えた70歳代男性例
    Case36 亜急性の経過で呼吸困難をきたした60歳代男性例
    Case37 転落事故ののちに呼吸不全を呈した80歳代女性例
    Case38 血管炎治療後の長期療養中に不明熱を呈した60歳代男性例
    Case39 間質性肺炎の経過中に著明な貧血をきたし緊急入院した70歳代女性例
    Case40 肝嚢胞・腎嚢胞の経過中に発熱を繰り返した80歳代女性例
    Case41 大腸癌術後の胸部多発影の経過観察中に心肺停止となった80歳代女性例
    Case42 関節リウマチの経過中に卵巣癌多発転移が指摘された80歳代女性例
    Case43 頭痛、嘔吐で来院した50歳代女性例
    Case44 左肩痛を訴え救急搬送された70歳代男性例
    Case45 MTX関連リンパ増殖性疾患の経過中に診断・治療に難渋した60歳代男性例
    Case46 長期透析の経過中に発熱、意識障害をきたした60歳代男性例
    Case47 肝酵素上昇で来院した70歳代女性例
    Case48 免疫チェックポイント阻害剤が奏効した肺癌の60歳代男性例
    Case49 咳嗽と縦隔腫瘤を呈した70歳代女性例
    Case50 間質性肺炎、顕微鏡的多発血管炎の経過中に精神症状をきたした80歳代女性例

    参考文献
    既発表学会・論文一覧
    索引

    執筆者一覧

    ■著
    藤田久美 天理よろづ相談所病院病理診断部・現大阪府済生会吹田病院病理診断科科長
    八田和大 天理よろづ相談所病院総合診療教育部部長

    トピックス