薬剤師の知っておきたい型 達人の処方鑑査術 ~あなたにしかできない疑義照会をしよう~
感覚で行う処方鑑査におさらば! 論理的かつ効率的な処方鑑査の方法や疑義照会のポイントを現役薬剤師が伝授!
内容紹介
今、薬剤師の取り巻く環境の変化は激しく、業務の中心が、対物から対人へ変わってきています。その対人業務の中で、処方鑑査・疑義照会は重要な業務の一つとなっています。しかし、処方鑑査・疑義照会は、きちんと教えてもらう機会がありません。「添付文書と違う時はどうしたらいい?」「腎機能が分からなくても処方鑑査はできる?」など、迷う場面も多くあることでしょう。
また、現場ではレセコンなど機械化が進んでいますが、処方鑑査・疑義照会は機械では対応できないこともあり、薬剤師がしっかり対応しなければならない仕事の一つです。
本書は、現役薬剤師による、薬局薬剤師向けに処方鑑査・疑義照会について解説した書籍です。著者の実体験をもとに、論理的かつ効率的な処方鑑査の方法や疑義照会のポイントを紹介しました。
第1章「処方鑑査の本質『疑義照会』」では、処方鑑査・疑義照会の基本を伝えます。
第2章「処方鑑査を素早く間違いなくする方法」では、“4分類法”による論理的な処方鑑査が学べます。
第3章「よくある処方ミスの『型』分析」では、薬剤師の知っておきたいよくある処方ミスの型(パターン)を解説します。
そして、第4章「実践的な処方鑑査トレーニング」では、実践的なトレーニング問題を30問、用意しました。新人からベテラン薬剤師まで学べる処方鑑査の問題になります。
本書を通して、薬剤師として知っておくべき・押さえておくべき処方鑑査・疑義照会の方法やポイントが身につきます。また、処方鑑査に役立つツールもダウンロードでき、自習に役立つ一冊です。
序文
達人の処方鑑査術とは……
地方の住宅街に佇む薬局に「処方鑑査の達人」と呼ばれる薬剤師がいた。あの日、私はどのように処方鑑査をしたら良いのか分からず悩んでいた。処方鑑査ができているのか不安で、併用禁忌を見過ごすのが怖かった。添付文書の内容を必死で覚えようとしたが、膨大な薬の知識をすべて覚えるのは不可能であり、添付文書だけの知識では処方鑑査ができない事例もあった。気が付けば、「おそらく大丈夫だろう」と思いながら、処方鑑査をこなす毎日が過ぎていた。やがて調剤する頻度が低い薬の知識は忘れていき、下手に自信を持った薬は分かっているつもりで添付文書を見ないで調剤するようになっていた。心のどこかで「間違えはないだろう」という変な自信があったのだろう。ある日……、私は、調剤過誤を犯した。
「失敗は成功のもと」ということわざは本当らしい。以下に、私の経験を踏まえて、この最悪な過去から「達人の処方鑑査術」ができるまでを紹介する。調剤過誤を犯した後、私は、これまでの感覚的な処方鑑査をすべてやめて、処方鑑査を見直していった。まず、薬学知識を整理するため、薬を注意点の多さにより、①処方鑑査時に何も気にしなくて良い薬、②薬ごとに決めたシンプルな注意点を確認する薬、③注意点が多いので添付文書を見る薬、④腎機能障害時に用量調節が必要な薬の4つに分類してみた。これで、②は処方される度に、注意点を確認するため、その反復学習により注意点を忘れなくなる。③は薬品名と危険な薬とだけ覚えておけば、処方された時に添付文書を確認すれば良い。また、私は覚えるのが嫌いなので、覚えきれない知識はすぐに確認できるようにまとめておいた。調剤する頻度が低い薬効分類の知識は、いずれ忘れていくので、自分が困った時に的確に情報をとれる体制にしておけば良い。自分でまとめた方が扱いやすいと思うが、先人の薬剤師たちがインターネット上に公開している知識を拝借した方が時間短縮にもなる。「盗賊の極意」とでも名付けようか。処方鑑査の質・スピードを向上させるツールは必ず持っておくべきである。しかし、この分類とツールの活用で、論理的かつ効率的に処方鑑査をできるようになったと思われたが、残念ながら私の理想とする処方鑑査はできなかった。
薬剤師なら誰もが生涯をかけて悩まされる問題だと思う。添付文書と違うのに、なぜかそれが普通であるかのように処方される事例があるからだ。あなたの薬局でもあると思うが、なぜ添付文書と違うのに調剤しても良いのか? 疑義照会をするべきなのか? 迷う事例は必ずある。私は、疑義照会をしても処方が変更にならなかった事例をすべてノートに書いて、なぜそのままで良かったのか様々な手段を使って考察した。その結果、添付文書と相違があった事例には、医師の意図があると分かった。薬剤師の経験が浅い間は、その意図が分からないので、疑義照会をすれば良いが、処方が変更にならなかった時は、なぜ変更にならなかったのか必ず調べてほしい。先輩薬剤師に聞いてみる、インターネットで検索してみる、MRを通じて医師に確認しても良い。処方が変わらなかった時の疑義照会を大切にしてほしい。私の見解として、「添付文書と相違がある=疑義照会をする」ではない。医師が意図的に添付文書から外して処方した場合、薬剤師がその暗黙の意図を理解した上で、薬学的に問題がないと判断すれば、疑義照会をしないで調剤しても良いと考えている。医師が患者のために敢えて添付文書から外した処方を、添付文書と違うという理由だけで、何も考えずに疑義照会をするのは、薬のプロフェッショナルの流儀ではない。この3種の神器「分類による論理的な処方鑑査」「盗賊の極意による効率的な処方鑑査」「添付文書と相違した事例で疑義照会をするべきかの判断」、これが私の理想とする処方鑑査だ。そう思った矢先に、ここでさらなる課題に差し掛かる。
添付文書と相違がないのに、処方が間違っている事例があったのだ。「添付文書と相違がない=疑義照会をしない」でもなかった。薬剤師でもレセコンへの入力ミスで、調剤を間違えることがあるように、医師も同様に処方入力を間違えて、処方を間違えることがある。入力ミスによる間違いが添付文書から外れた時は、薬剤師は間違いに気付けると思うが、添付文書から外れていなければ、間違いに気付くのは難しくなる。この間違いに気付くには、普段よりその医師が処方するパターンを分析して、病態に応じてどのような処方がされているか把握する必要がある。私は、添付文書と相違していないのに間違いに気付き行う疑義照会を「あなたにしかできない疑義照会」と名付けた。人間が犯すミスを正せるのは人間でしかないのだ。薬剤師がAIに置き換わる時代は来ない。医師が間違えた処方を正せるのは薬剤師しかいないからだ。人間が診察をしていれば、薬剤師は人間にしか分からないミスを必ず見つける。こうして、達人の処方鑑査術は完成した。すべての患者に感謝の気持ちを申し上げる。感謝の処方鑑査100万回、これまでの何千、何万という処方鑑査が私を達人の領域へ導いてくれた。ここに完成する達人の処方鑑査術!
あなたが今、不安の渦中にいるのであれば、心配しないでほしい。私があなたを光が見える出口へ案内しよう。この書籍により、論理的かつ効率的な処方鑑査と薬剤師の知っておきたいよくある処方ミスの型(パターン)を学び、模擬処方せんを用いた実践的な処方鑑査トレーニングをすれば、あなたにも達人の処方鑑査ができるようになると私は確信している。問題は、難易度別に初級10問、中級10問、上級10問の計30問で構成されている。あなたが新人薬剤師でも、調剤歴3~10年の中堅薬剤師でも、調剤歴10年以上のベテラン薬剤師でも本書を楽しめるように問題を構成した。現在、調剤薬局で働いているすべての薬剤師に捧げたい。これが私の薬剤師人生の集大成だ。本書があなたにとって最高のバイブルになると信じている。
2022年8月
濱本幸広
目次
達人の処方鑑査術とは……
第1章 処方鑑査の本質「疑義照会」
1.疑義照会をするかしないかの判断
2.あなたにしかできない疑義照会
3.疑義照会をするかどうか迷う事例
4.処方を変えるための疑義照会
第2章 処方鑑査を素早く間違いなくする方法
STEP1 薬を4つに分類する
ノーマル:用法用量・薬効重複だけ処方鑑査をすれば良い薬
レアリスク:疾患禁忌・併用禁忌などの注意すべき点は限られている薬
デンジャー:疾患禁忌・併用禁忌などが多く、必ず添付文書を確認する薬
アジャスト:腎機能低下のため用量調節が必要な薬
4分類法による仕分け例
あなただけの4分類法による仕分けをしよう
STEP2 達人の処方鑑査術のポイント
服薬指導前に確認すること
服薬指導時に確認すること
STEP3 処方鑑査の心構え
第1の心構え 「ながら」で処方鑑査をしないこと
第2の心構え 添付文書を見る習慣をつけること
第3の心構え 苦手分野の知識は、用法用量などを表にまとめること
STEP4 あなただけにしかできない処方鑑査
分析1 医師の処方パターンを見抜く処方分析
分析2 添付文書から用法用量が外れた事例は必ず記録する
分析3 医師へ通じるMR・MSを積極的に活用する
分析4 書籍またはインターネットを積極的に活用する
第3章 よくある処方ミスの「型」分析
1.薬効重複
壱ノ型 病院違いで、薬効重複がある場合
弐ノ型 同一処方医により、薬効重複がある場合
2.用量相違
壱ノ型 小児の体重換算・年齢相違がある場合
弐ノ型 開始用量の相違がある場合
参ノ型 添付文書記載の上限量超過がある場合
肆ノ型 添付文書記載の通常量不足がある場合
3.用法相違
壱ノ型 内服薬における食前・食後の相違がある場合
弐ノ型 内服薬における服用回数の相違がある場合
参ノ型 内服薬における服用時点の相違がある場合
肆ノ型 外用薬における使用回数などの相違がある場合
4.疾患禁忌
壱ノ型 特定の条件を持つ患者で禁忌になる場合
弐ノ型 既往歴や併用薬から推測される疾患で禁忌になる場合
参ノ型 おそらく禁忌ではないかと判断に迷う場合
5.副作用歴
壱ノ型 比較的重い副作用があり、絶対に処方してはいけない場合
弐ノ型 比較的軽い副作用があり、判断に迷う場合
6.検査値関連
壱ノ型 腎機能低下により、処方不可または用量調節が必要な場合
弐ノ型 肝機能低下により、処方不可または用量調節が必要な場合
参ノ型 カリウム値により、処方不可または用量調節が必要な場合
肆ノ型 その他の検査値により、処方変更が必要な場合
7.併用禁忌
8.処方転記ミス
9.名称類似薬ミス
10.処方意図相違
第4章 実践的な処方鑑査トレーニング
問題の取扱説明書
問題の表記について
一般名処方について
問題のレベルについて
解説について
問題の解き方ルール
初級:問題1~10、まとめ
中級:問題1~10、まとめ
上級:問題1~10
チャレンジ問題
現実世界へお帰りなさい
COLUMN
番外編1 達人の薬歴記載術 其の壱
①処方の流れ
番外編1 達人の薬歴記載術 其の弐
②併用薬の有無
③患者の病態
番外編1 達人の薬歴記載術 其の参
④他に記載した方が良い内容
番外編2 達人のインターネット検索術
GoogleまたはYahoo! JAPANによる検索
Bingによる検索
Googleスカラーによる検索
番外編3 達人の服薬指導術 其の壱
①腎障害を推察する
番外編3 達人の服薬指導術 其の弐
②病名を推察する
③病態を推察する
トピックス
本書をご購入いただいた方には、処方鑑査に役立つ便利なツールをダウンロード、ご利用いただくことができます。詳細は本紙面をご確認ください。以下にサンプルとしてご紹介いたします。
■サンプル1 検査値一覧表
■サンプル2 緑内障点鼻薬一覧
※本紙と連動のサイトはこちら
「達人の処方鑑査術」
https://kusuri-shidousen.com/
■2022.11.04
「4分類法」につきまして、薬剤の新規発売や添付文書改訂等を踏まえて、本紙と連動のサイト「達人の処方鑑査術」にて、随時、情報を更新いたします。詳細は、本書P.24のQRコードを読み取ったサイトの「追記情報」をご確認ください。
■2024.02.01
2023年10月の添付文書改訂により、本書掲載内容に一部変更がございますのでお知らせいたします。詳細は下記PDFファイルをご確認ください。
https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1920-1/bk1920-1_3/