妊娠・授乳中のみかた 診療と処方薬の考え方

    定価 4,840円(本体 4,400円+税10%)
    編著水谷佳敬
    ファミール産院グループ理事
    B5判・296頁
    ISBN978-4-7653-1924-9
    2022年11月 刊行
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    診療に苦手意識をもつあなたへ。妊娠・授乳中のいろんなみかた(診方・看方・味方)!

    内容紹介

    妊娠期間・授乳期間の感染症、糖尿病・妊娠糖尿病、甲状腺疾患、放射線検査、てんかん、精神疾患、喘息、頭痛、ワクチン、高血圧・脂質異常、乳腺炎、その他、など様々な臨床事例を掲載。

    本書の大きな特徴は、「クイズ形式」「指導医と研修医の対話形式」「各臨床事例に関連したコラム紹介」です。単なる「妊娠、授乳に関しての薬の本」に留まらず、妊娠の際に鑑別診断がどのように変わるか、診断のための検査特性がどのように変わるか、実臨床を大切にされている先生の感覚がしっかり盛り込まれており、読み進めればどんどん妊産婦の診療に対する苦手意識を払拭できます。

    診療のプロセスや妊娠中の生理特性・授乳中に配慮すべき点など、妊産婦の特徴や安全で有用な薬と処方をしっかりとらえ、自信をもって診療にあたれるようになります。

    序文

    推薦文

    外来に、妊婦、婚活中の女性、授乳婦がやってくる。よく分からないからと調べようとすることもせず、「念の為に」とか「リスクがゼロではないので」という大義名分のもと、処方をしない、または処方を優先し、授乳中断を求める。または、産婦人科に行ってくださいとスルーパス。というのは「リスクゼロ」の観点からは正しいプラクティスかもしれない。

    でもそれならば、妊娠中、または妊娠の可能性があるか、授乳しているかどうかを事務的に尋ね、yesなら、薬は出せませんが診察を希望しますか? もしくは産婦人科に行ってください。とやれば良い。これは無人AIでも事務員でもできる。

    リスクを取らない医師に、医師としての報酬を受け取る資格はない。

    一方、受診をする時点で向こうは困っている。しかし医学的な知識は不十分で、情報の非対称性の不利な側にいる。そこで、前述のように言われたら、従うしかないではないか。緊急性の暴力というやつである。

    もちろん、ちゃんと対応できる自信がない、間違ったことをしてしまうかもしれない、という観点から、自分が対応しない、というのはある意味誠実な対応なのだろう。しかし、脳外科の手術のような、何年も修練をしないとできないことをしろというのではない。ちょっと時間をとって、調べれば済む、人に聞けば済む、または、休日の数時間をとって勉強すれば済む話である。

    アメリカのユダヤ人作家、ホロコースト生還者で、ノーベル平和賞の受賞者でもある、エリ・ヴィーゼル Elie Wieselの言葉に、『愛の対義語は憎しみではなく無関心だ。』がある。目の前の女性が困っている。一般人でさえなんとかしてあげたいと思うのに、それが可能なインテリジェンスも技術も資格もある医療従事者が上記のような対応をするのは、愛の対極の行為だと言われて、反論できるだろうか。

    ノルウェーの研究では妊娠判明前の3か月間から出産3か月後までに83%の女性が薬剤処方をされており、妊娠中に限定しても57%が処方をされている1)

    日本での研究は少なく、規模も小さいが、妊婦の81%が何らかの薬物処方経験あり、出産経験者の67%が妊娠中の服薬経験あり、33%が妊娠に気づかず薬を使用した経験があるなどの報告2)や、初産婦の54%が妊娠に気づかず薬を服用したことがあるという報告が存在する3)

    愛や無関心の話は置いておくにしても、それだけ多くの女性の対応を避けるというのは経営的、顧客満足的にどうかと思うし、本人が妊娠を気づいていない状態での妊娠の可能性はないという自己申告がいかに不正確かを踏まえてゼロリスクを取るならば、結局生殖可能年齢の女性の全てに処方しないか診療をしないということになってしまう。

    長々と書いたが、chapter1「妊娠中の処方の基本原則」の最後に囲みで書かれている、「最も大きな弊害は、処方のリスクよりも『妊婦の診療を拒否すること』かもしれない」に本書の全てが集約されていると言えるだろう。

    本書は「非産婦人科的」(プライマリ・ケアで扱う)主訴や診断の大半に妊娠している(可能性も含め)、または授乳している状態で、最大限の支援をするにはどうすればよいか、がほぼ全て解決可能な書籍である。

    特徴として、
    ・クイズ形式
    ・研修医との対話形式
    ・所々に散りばめられたコラム(特に授乳期間のものが有用)
    という工夫がされており、

    「妊娠、授乳に関しての薬の本」という印象を持ってしまうかもしれないが、妊娠の際に鑑別診断がどのように変わるか、診断のための検査特性がどのように変わるか、(妊娠中は腎盂が生理的に拡張するので超音波検査などの解釈に注意が必要、など)など診断の際に気をつけるべきことが余すところなく書かれており、利用方法として、
    ・基本を学ぶために、通読する・各章の最初のクイズを解き間違った章だけ読む
    ・診療の都度、該当する章だけその時に読む(妊婦の発熱、咳がきたら肺炎の章など)
    など自由度も高い(が、意外と「へー!」トリビアも多いので、読む順序はバラバラでも良いが、全てに目を通すことをお勧めする)。

    家庭医療専門医、産婦人科専門医のダブルボードの強みを活かし、両方の視点から編集、執筆を行った、筆頭編著者の水谷医師は言うまでもなく、5名の著者はほぼ全員が私のところで研修をしており、本領域の診療レベルについては太鼓判を押せる。また5名とも女性であり、母であることから、医師の視点だけでなく当事者視点からの「寄り添い」に配慮した記載が多く見られることも本書の強みである。

    対象を限定しないプライマリ・ケアに従事する開業医、家庭医、総合診療医、一般内科医はもちろん、産婦人科があり、コンサルトを受ける頻度が多い総合病院の内科、総合診療科、救急外来に出る初期研修医、彼らを指導する指導医のアンチョコとして、また、ちょっと背伸びをしたい学生、前述のような職場でまず当事者から相談を受ける看護師や助産師など、本書から利益の得られる対象者は多い。

    ただでさえ少子化の進む日本において、本書が、妊娠準備中、妊娠中、授乳中の投薬についての間違ったプラクティスの改善により妊娠出産への不安が減り、安心して産み育てられる社会への応援となることを確信している。

    2022年10月
    鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山 院長
    岡田唯男

    参考文献
    1)Engeland A, et al. Prescription drug use among fathers and mothers before and during pregnancy. A population-based cohort study of 106,000 pregnancies in Norway 2004-2006. Br J Clin Pharmacol. 2008; 65(5): 653-660.
    2)坂本久美子,他.「妊娠と薬」に関する意識調査―薬剤師,薬学生,研究者の場合―.医療薬学.2006;32(9):956-963.
    3)山内あい子,中田栄子,中馬 寛.双方向・成長型薬物催奇形性情報コミュニティの構築.Journal of computer chemistry, Japan.2003;2(3):71-78.


    序文

    本書は妊娠・授乳中の方が受診先に困らないように、医療従事者の皆様に、少しでも支援していただきたいという想いから執筆しました。妊娠・授乳中に安全に使用できる薬剤を調べるにあたっては、国内外で良書がいくつもでており、本書でも大いに参考にさせていただいています。しかし、いまだに妊娠・授乳中であることを理由に受診ができなかったり、処方が受けられなかったりするケースを多く見聞きします。良い書籍があるのに、臨床現場になかなか浸透していない実態を見るうちに、「辞書的な書籍だけでは臨床現場で応用しにくいのではないか」と考えるようになりました。そこで、本書では臨床事例を通して、妊娠・授乳中の生理的変化や関連知識について触れつつ、知っていただきたいトピックスをコラムにまとめました。疾患別の専門性は成書に譲るとして、この中間的な位置付けの書籍はこれまでなかったのではないかと思います。

    子育て世代は仕事や家事・育児に追われ、自身の体調管理すらままならない状況です。子育て世代を支援するための政策もいくつかとられていますが、十分ではないと感じています。私自身も育児経験を通して子育て世代のサポートの必要性は痛烈に感じてきました。家庭医療専門医・産婦人科専門医という異色のキャリアを経てきた自分にできることを考えた時に、医療面に関して、その機会と質について少しでも社会貢献したいという気持ちから、本書の執筆に取り組んでまいりました。子育て世代が元気に暮らせる社会は、その配偶者や家族、これから家庭を持つ若者、それだけでなく巡り巡ってすべての人にとって良い社会ではないかと考えます。

    謝辞

    本書の執筆にあたって、粘り強くご支援いただいた金芳堂の西堀様、同社の皆様および関連業者の皆様に深く感謝いたします。また、原稿の執筆にあたっては、心が折れそうになっている中、授乳編において力を貸していただいた共著者の先生方には、母親としての視点も踏まえ、育児にも奔走する中で時間を確保していただき、素晴らしいものに仕上げていただき、大変感謝しています。そして、本書の執筆期間中も出産・育児を通して家庭を支えてきてくれた妻には頭があがりません。女性がキャリアを維持しつつ妊娠・出産・育児に直面することがいかに大変かを共に経験しました。3人の子供たちも日々の活力として私を支えてくれています。「育児世代のケアを通して、世の中を少しでも良くしたい」という考えに共感していただけるすべての皆さまに本書を捧げたいと思います。

    2022年10月
    ファミール産院グループ 理事
    水谷佳敬

    目次

    chapter1 妊娠期間

    妊娠中の処方の基本原則

    感染症
    CASE 01 上気道炎
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の風邪って?
    +α「風邪」診療

    CASE 02 胃腸炎
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の風邪って?
    +α「胃腸炎」診療

    CASE 03 肺炎
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の抗菌薬使用は大丈夫?
    +α「肺炎」診療

    CASE 04 尿路感染
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の尿路感染って?
    +α「尿路感染症」診療

    CASE 05 インフルエンザ
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2: そもそも妊娠中のインフルエンザの診療って?
    +α「インフルエンザ」診療

    CASE 06 帯状疱疹
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の帯状疱疹って?
    +α「帯状疱疹」診療

    糖尿病・妊娠糖尿病
    CASE 07 糖尿病
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の糖尿病って?
    +α「糖尿病」診療

    甲状腺疾患
    CASE 08 バセドウ病
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中のバセドウ病って?
    +α「甲状腺機能亢進症」診療

    CASE 09 橋本病
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の橋本病って?
    +α「橋本病」診療

    放射線検査
    CASE 10 放射線・MRI・造影剤
    SECTION 1:検査選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の放射線検査って?

    てんかん
    CASE 11 てんかん
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠前のてんかんって?
    +α「妊婦の痙攣発作」診療

    精神疾患
    CASE 12 睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の精神疾患って?
    +α「周産期うつ病」診療

    喘息
    CASE 13 気管支喘息
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも妊娠中の気管支喘息って?
    +α「気管支喘息」診療

    頭痛
    CASE 14 頭痛
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2: そもそも妊娠中の頭痛って?
    +α「頭痛」診療

    ワクチン
    CASE 15 ワクチン
    SECTION:ワクチン接種

    その他
    CASE 16 コモンプロブレム
    SECTION 1:便秘症
    SECTION 2:痔核
    SECTION 3:胃食道逆流症
    SECTION 4:浮腫
    SECTION 5:花粉症
    SECTION 6:陰部掻痒
    SECTION 7:腰痛
    SECTION 8:つわり(悪阻)
    SECTION 9:創傷処置
    SECTION 10:外用薬

    chapter2 授乳期間

    授乳中の処方の基本原則

    感染症
    CASE 17 インフルエンザ
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも授乳中の感染症の親子のマネジメントって?

    喘息
    CASE 18 気管支喘息
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも授乳中の母乳育児のメリットって?

    てんかん
    CASE 19 てんかん
    SECTION:抗てんかん薬服用中のアドバイス
    SECTION 2:そもそもてんかんを抱えながらの育児って?

    精神疾患
    CASE 20 周産期うつ病
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも授乳はストレス因子か?

    糖尿病
    CASE 21 糖尿病・妊娠糖尿病
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも授乳中の糖尿病診療って?

    高血圧・脂質異常
    CASE 22 高血圧・妊娠高血圧症候群
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも産後の高血圧とは?

    放射線検査
    CASE 23 造影剤
    SECTION 1:授乳中の放射線検査
    SECTION 2:そもそも授乳中の検査の影響は?

    頭痛
    CASE 24 頭痛
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも授乳中の頭痛治療とは?

    乳腺炎
    CASE 25 乳腺炎・細菌感染症
    SECTION 1:薬剤選択
    SECTION 2:そもそも授乳中の抗菌薬使用は大丈夫?

    コラム
    赤ちゃんに影響はありませんか?
    その「張り」大丈夫? 妊婦の腹痛と鑑別診断
    妊娠中の放射線検査の安全性
    妊婦の無症候性細菌尿(ASB)
    妊娠中のインフルエンザワクチンの有効性
    妊婦の単純ヘルペス・性器ヘルペス
    妊娠中の糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、劇症1型糖尿病発症に注意!
    妊娠中のヨウ素過剰摂取に注意(Wolff-Chaikoff効果)
    潜在性甲状腺機能低下症(SCH)
    妊婦への放射線検査の説明、実際にどうしている?
    妊娠と葉酸
    人工妊娠中絶
    妊娠中の喫煙
    妊娠に伴う怖い頭痛「妊娠高血圧症候群」「脳静脈洞血栓症」
    妊娠中の百日咳ワクチン
    授乳婦が受診した時 ~お母さんに、どのような声かけをしてますか?~
    母乳育児の継続について
    母乳代用品のマーケティングに関する国際基準
    「孤育て」になっていませんか?
    授乳に期待される母子の糖尿病発症予防効果
    母乳育児成功のための10か条
    「授乳を控えてください」その後の現実
    離乳と卒乳の違い
    授乳の姿勢

    執筆者一覧

    ■編著者
    水谷佳敬  ファミール産院グループ理事

    ■著者
    菅長麗依  亀田ファミリークリニック館山/亀田総合病院附属幕張クリニック
    長嶺由衣子 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
    栗原史帆  亀田ファミリークリニック館山
    久保田希  にじいろドクターズ理事
    村山愛   君津中央病院大佐和分院内科

    トピックス