かかりつけ医のための腎臓病診療ブラッシュアップ
ちょっと待った!その患者さん腎機能低下しています!
内容紹介
日常診療で見落としがちな、患者さんの腎機能の低下を意識せずに行った処方や処置により、腎機能を悪化させてしまったり、急性腎障害(AKI)を発症させてしまうようなケースがあり、専門医にそうした患者がコンサルトされてくる事例がよくみられます。
併せて、高齢者では、潜在的な慢性腎臓病(CKD)がほとんどのため薬剤性障害など起こさないよう注意が必要とされますが、筋肉量が低下しておりeGFR(推定糸球体濾過量)などの検査値に現れる実際の数値も異なり見落とされがちです。
こうした腎機能低下・CKD患者の保存的治療の観点から悪化因子を排除し、腎不全に陥ることを水際で防ぐことができるのは、かかりつけ医・非専門医の役割であると考え、本書では「腎臓の正しい診かた・考え方・専門医に紹介する際のタイミング」など、症例ベースによる解説で適切にナビゲートしています。
序文
2002年に米国腎臓財団が慢性腎臓病の概念を提唱してから、約20年が経ちます。慢性腎臓病は脳卒中や心筋梗塞の危険因子である一方、予防と治療が可能であることから、早期診断、早期治療が重要です。そのため、慢性腎臓病の普及・啓発が活発に行われ、最近ではテレビCMでも紹介されています。
人口の高齢化及び生活習慣病の増加に伴い、慢性腎臓病は年々増加しています。加齢に伴い腎機能は低下しますので、高齢者は潜在的な慢性腎臓病患者といっても良いでしょう。75歳以上の後期高齢者の数は、2025年には2180万人に達すると予想されています。高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症を合併している高齢者のCKDも増加しています。薬を処方したり、手術をしたり、様々な医療行為が腎臓に影響しますので、これまで以上に腎機能を考盧しつつ、薬剤の調節を慎重に行わなければなりません。腎臓専門医でなくとも、腎臓のことを気にする機会が明らかに増えています。
日本では約1330万人の方が慢性腎臓病に該当します。これは成人の8人に1人に相当し、新たな国民病と認識されています。しかし、腎臓内科を専門とする医師の数は限られています。すべての腎臓病診療を腎臓専門医が担うことは困難なため、かかりつけ医の先生と腎臓専門医との病診連携や情報共有が必要不可欠になっています。
近年、新規薬剤がたくさん登場し、腎疾患の診療内容は大きく変化しました。糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬が腎臓病や心不全に対しても有効であることが複数の大規模臨床試験で示されています。また、腎性貧血に対する新たな治療薬としてHIF-PH阻害薬が登場しました。そのほかにも、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、高尿酸血症治療薬、高カリウム血症治療薬など、治療薬の選択肢が増えました。
本書では、腎臓病診療に関する新しい情報を紹介しつつ、腎臓専門医の考え方(あくまでも私見ですが)をもとに、以下の点について解説させて頂きました。
「腎臓病診療の現状と対策」
「腎炎に対する治療」
「保存期腎不全に対する治療」
「腎機能を悪化させないポイント」
「腎臓病患者に薬剤を投与する際の注意点」
「腎臓病患者に対して減量・休薬が必要な薬剤」
「高齢者CKD診療の注意点」
本書がかかりつけ医の先生の日常診療に少しでもお役に立てば嬉しい限りです。
2023年1月
埼玉医科大学総合医療センター
腎・高血圧内科
前嶋明人
目次
まえがき
カラー口絵
1 腎疾患の基礎知識を整理しよう
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)とは?
腎不全パンデミック
腎疾患診療と難病対策
腎不全がどのように進展するかを理解する
腎機能悪化スピードが疾患によって異なる
腎臓専門医とかかりつけ医による病診連携の重要性
医師と薬剤師の連携の重要性
2 腎炎(腎疾患)鑑別診断のコツ
腎炎の診断手順
腎疾患の診断が難しい理由
問診で得られる情報とその重要性
尿所見から得られる情報とその重要性
外来で行う尿蛋白量の評価法
3 腎炎診療ブラッシュアップ
原発性腎疾患
続発性腎疾患
- 続発性腎疾患①:高血圧関連腎障害
- 続発性腎疾患②:糖尿病性腎症
- 続発性腎疾患③:膠原病に伴う腎疾患
- 続発性腎疾患④:血液疾患に伴う腎疾患
4 CKD診療ブラッシュアップ
腎臓の不具合は全身に影響する
慢性腎不全とはどのような病態?
尿毒症症状は腎機能がかなり低下しないと出現しない
腎不全治療の基本的な考え方
腎疾患に対する治療のゴールは様々です
慢性腎不全の治療目標「現状維持を目指そう」
腎臓の仕事量を減らすことが重要
慢性腎不全の食事療法
腎性貧血の発症機序
腎性貧血の治療
5 薬剤による腎機能の低下を防ごう
腎機能を悪化させる因子を把握する
薬剤による腎障害をなくす
薬剤による腎障害をなくす
腎障害を来しやすい薬剤とその発症様式
薬剤による電解質異常
薬剤性腎障害を疑ったら何をすべきか?
薬剤性腎障害を予防するために必要なこと
腎臓病患者に薬剤投与するときに考えること
腎機能の正確な評価
腎機能が低下した患者さんを見逃さない(特に高齢者で重要)
「サルコペニア」と「フレイル」
薬剤の排泄経路
尿中未変化体排泄率
蛋白結合率
薬物代謝酵素
腎機能に応じた薬剤投与量の決定
6 腎機能低下例に対して減量・休薬が必要な薬剤一覧
総論
NSAIDs
抗生物質
経口血糖降下薬
RAS阻害薬
高尿酸血症治療薬
H2受容体拮抗薬
便秘薬
骨粗鬆症の薬
造影剤
抗ウイルス薬
抗ヒスタミン薬
7 高齢者CKD診療の極意
人口の高齢化
高齢者CKDの特徴
高齢者に多い腎疾患とは?
高齢者に認めやすい電解質異常
高齢者で認めるナトリウム異常
高齢者で認めるカリウム異常
高齢者で認める高カルシウム血症
高齢者の血糖コントロール
高齢CKD患者に対する処方で特に注意すべき薬剤
高齢者の腎機能評価は慎重に
高齢者は急性腎障害を併発しやすいので要注意!
高齢者が急性腎障害を起こしやすい理由
薬剤性腎障害は高齢者に発症しやすい
高齢者CKDの治療目標は「現状維持」かつ「悪化させないこと」
お薬手帳を活用しましょう