性的マイノリティのための診療空間のつくりかた
性的マイノリティ診療って、おもしろい!驚き!
内容紹介
この十数年の間に社会情勢の大きな変化により、様々な場面で性的マイノリティに関して取り上げられる機会が増え、多くの関連書籍・出版物などが発行されるようになった一方、医療の現場では十分な配慮がされているとは言えず、医学教育においても性的マイノリティをカリキュラムに含む大学は現在も限られ、どう接し、どう配慮が必要かという具体的な指針を学ぶ機会はほとんどありません。
本書では、長年性的マイノリティ診療に携わる著者らの実体験より得た学びや経験を、指針やスタンダードの提示のみではなく、診察風景を通じて、読者のみなさんが性的マイノリティに接することの楽しさ、面白さ、奥深さを感じながら、実臨床における問診や診察の工夫を共有していただき、効果的なコミュニケーションについて考えるヒントをたくさん提示します。
序文
当院でよくある診察風景です。
男性患者A:先生、1ヵ月前から喉の違和感がなんとなくあるのですが、最近、喉の性感染症もあるって聞いて。
私:最後のエッチはいつ頃ですか?相手は女性、男性、両方?
Aさん:男です、最後は2週間くらい前です。
私:一応、喉のクラミジア、淋菌の検査しておきましょう。最後にHIV検査したのはいつ頃ですか?
Aさん:2年前、いや3年前くらいかも?
私:今、梅毒も流行っているから、一緒に検査しておきませんか?健康保険でできますからね。
Aさん:トホホ、ちょっと怖いけど分かりました・・・。
2015年3月、渋谷区で「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(通称「同性パートナーシップ条例」)が可決されて以来、様々な自治体で同様の取り組みが始まり、「LGBT」という言葉をメディアで目にするようになりました。また、2015年に米国の連邦最高裁がすべての州における同性婚を認めたのも、記憶に新しいところです。
LGBTとは何のことでしょうか? 「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー」のことです。日本語でいうと、女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、生まれたときの性にとらわれない性別のあり方を持つ人となります。最近では、LGBTに”Questioning”(自身のセクシュアリティが、特定の枠に収まらないと思う人、あるいはわからない人)を加えてLGBTQとよぶこともあります。
私が院長を務める「しらかば診療所」はLGBTを含む、異性愛以外のセクシュアリティを持つ人(性的マイノリティ)を主な対象とする診療所として、2007年に東京都内に開院しました。当時、性的マイノリティの存在が注目されることはそれほど多くありませんでした。しかしこの十数年の間に、社会情勢の大きな変化が訪れ、様々な場面で取り上げられる機会が増えるに従い、多くの関連書籍・出版物が発行されるようになりました。一方、医学教育において性的マイノリティをカリキュラムに含む大学は現在も限られ、性的マイノリティへの対応を求められても、実臨床においてどのように接すればよいのか、教わる機会は乏しく指針となる書籍はほとんど見当たりません。皆さんが医療現場における具体的な性的マイノリティへの接し方について、詳しくなくても当然なのです。
本書は、広く医療従事者の方々を対象としています。当院に勤務する、性的マイノリティ当事者・非当事者の医師たちが実際の症例を通して得た経験や学びを、個人情報に配慮したエピソードの形で提供していただきました。本書では、指針やスタンダードの提示のみではなく、症例エピソードを通じて、読者のみなさんが性的マイノリティに接することの楽しさ、面白さ、奥深さを感じながら、実臨床における問診や診察の工夫を共有していただき、効果的なコミュニケーションについて考えるヒントをたくさんご用意したつもりです。
性的マイノリティかもしれない患者さんが来院したときに、どのようにアプローチし、どんな診療やコミュニケーションの工夫をすればよいのか、各医療機関の状況に合った内容で実践していただく上でお役に立てれば幸いです。性的マイノリティに対して行う配慮や工夫は、他の社会的マイノリティにはもちろん、時にはマジョリティにとっても役立つことでしょう。なお本書では、各章の内容によって、性的マイノリティ、LGBTQの両方の用語を用いていますが、両方とも指す内容は同じです。
目次
まえがき
1 性的マイノリティに優しい診療空間とは
医療における性的マイノリティの従来の位置づけ
しらかば診療所の成り立ち
しらかば診療所での診療の工夫
性的マイノリティ特有の健康課題(主に身体面において)
LGBTQはなぜ生きづらいのか
真夜中は別の顔…?
キーパーソンって?
2 感染症の診療
直腸炎とセックス -問診・診察編-
直腸炎とセックス -検査・治療編-
赤痢アメーバ感染症とセックスの問診
何か変なもの食べたかな?感染の様式と性行動
梅毒の性器外病変
梅毒の再感染
梅毒とパンデミック
ゲイとC型肝炎
3 性的マイノリティとワクチン
備えあれば患い無し
この病気、正直にいわなきゃダメですか?
男性におけるHPVワクチン
4 性的マイノリティの診療:非感染症
性的マイノリティのための医療機関の試み
曙橋の小さな精神科診察室 -LGBTQのさまざまな心の風景-
トランスジェンダーへのホルモン療法
お尻は多くを語ってくれる
ゲイと糖尿病
「美意識」のかたちはそれぞれ
繰り返す軟部組織感染症
5 性的マイノリティのライフスタイル
性的マイノリティ当事者に向けたメッセージ
膀胱再建後のアナルセックス
おわりに
Column
3本指の手
もし医師がHIVに感染したら
多様性に慣れる
しらかば診療所での勤務の思い出
いろいろ支えられて
サル痘について
執筆者一覧
■編著
井戸田一朗 しらかば診療所院長
■漫画
歌川たいじ
■著
畑寿太郎 しらかば診療所
林直樹 しらかば診療所
忽那賢志 大阪大学感染制御学講座
早川佳代子 国立国際医療研究センター国際感染症センター
矢嶋敬史郎 東京都立駒込病院感染症科
鈴木哲也 国立国際医療研究センター国際感染症センター
加藤康幸 国際医療福祉大学医学部感染症学
トピックス
■2023-02-20
noteでの連載「編集後記」にて、本書に関する記事を公開いたしました。
「編集後記」とは、新刊・好評書を中心に、金芳堂 編集部が本の概要と見どころ、特長、裏話、制作秘話をご紹介する連載企画です。また、本書の一部をサンプルとして立ち読みいただけるようにアップしております。
著者と編集担当がタッグを組んで作り上げた、渾身の一冊です。この「編集後記」を読んで、少しでも身近に感じていただき、末永くご愛用いただければ嬉しいです。
性的マイノリティのための診療空間のつくりかた|株式会社 金芳堂|note
https://note.com/kinpodo/n/n79aa4362745c