Cardiac PICU スタンダード
小児循環器集中治療の決定版!
内容紹介
現在、小児における循環器疾患の周術期・急性期管理は施設ごとで個別対応されているのが実状であり、この点において既に刊行されている書籍ではローカルマニュアルとしての域を出ていませんでした。
また、呼吸管理も循環管理と同様非常に重要となりますが、この両者を同等に取り扱った書籍はこれまでありませんでした。
こうした点を踏まえて、本書では日本小児循環器集中治療研究会に所属する執筆陣(および施設)の経験・知見を結集して、施設間をまたぐ小児CICUのスタンダードなテキストを目指して制作されました。
ぜひ本書を施設間の壁を越えた共通のリファレンスとして、そして小児循環器疾患における周術期・急性期管理の総合的な学習用テキストとしてお役立てください。
序文
推薦のことば
2020年末、大﨑真樹先生より「完成の折には、この領域の本邦のパイオニアである竹内護先生に頭言をお願いしたい」との身に余る光栄なメールを頂いた。それから約2年を経て、実に素晴らしい小児循環器の教科書が完成した。
私がメルボルンRoyal Children’s Hospital のICU に、overseas fellowとして留学したのが1993年の1月である。1週間のオリエンテーションが終わった直後に、directorのFrank Shann先生に3カ月英会話学校に行くように指導された。それでも臨床に復帰すると、英語こそ十分には話せなかったが、麻酔・集中治療の技術を頼りに研修できた。当時は小児心臓手術が年間600症例以上あり大変勉強になったが、個人的に一番興味を持ったのは頭部外傷の管理であった。
その頃、日本では頭蓋内圧(ICP)モニターは標準的ではなく、鎮静+ステロイドや浸透圧利尿薬の定時投与といった古典的な管理が主体だったが、メルボルンではICPモニターを観ながら、上昇時には医師がいなくても看護師がジャクソンリースを用い過換気で対処していたのに驚いた。日本にもこうしたPICUを作りたいと思って帰ってきた。私自身、岡山大学麻酔科やとちぎ子ども医療センターPICUでほぼ実現できたのは幸運であったが、これは多くの医師、看護師など多職種の方々のご協力によるものである。
1990年代までは本邦の小児循環器治療の成績は世界の後塵を拝していた。周術期管理も世界の一流からは遅れていたが、主に手術手技の未熟さによるものだった。しかし90年代後半からRV-PAshuntのNorwood手術など日本発の手術手技も登場し、本邦のこの分野の成績は世界のトップクラスと並んだ。これには少数の小児心臓外科医、小児循環器医、集中治療医などの超人的、献身的な貢献が大きな役割を果たしたと思われる。2024年からは働き方改革が本格的に導入されるが、小児循環器医療のより一層の成績向上のためには難しい問題といえる。本分野は高レベルのスペシャリストが必要で、患者さんのためにはこの改革を全面的には導入しないでほしいとも考える。
特殊な呼吸管理が循環動態を劇的に変えるのは、成人や他の小児集中治療にはない醍醐味である。奇しくも昨年末にPICU主題のドラマがテレビ放映された。先天性心疾患を中心とする小児循環器医療は、集中治療の極致ともいえる素晴らしくやりがいのある分野であり、最上級の集中治療医として今後この分野を目指す若手医師が多く誕生することを願っている。本書がこうした医師の大きな力になることを確信している。
2023年3月1日
自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座教授
竹内護
編集のことば
小児循環器領域の教科書は多数出版されていますが、本書『Cardiac PICUスタンダード』のように急性期管理に特化したテキストはこれまで日本にありませんでした。周術期・急性期管理は各施設ごとに実際のやり方が大きく異なっており、学会などで「各施設のやり方」といったテーマで議論がされてきましたが、自分の施設に帰ってみるとやはり違いが大きく、臨床を変えるまでには至っていなかったように思います。標準化が必ずしも是ではありませんが、周術期管理の主体がPICUに移行しつつある中で、また今後の若手のためにも管理の大方針や方向性はある程度形になっているほうがよい、とここ数年感じていました。そんなところに本書の企画が持ち上がり、せっかく日本を代表する施設が集まった小児循環器集中治療研究会が中心となって編集するのであれば、ローカルマニュアルの寄せ集めではなく小児心疾患の急性期管理をある程度標準化したテキストにできないか、と考えた次第です。
とはいえ現状は施設ごとの差異が非常に大きく、簡単に標準化できるはずもありません。そこで本書では大方針を2つ立てました。
まず「総論」「各論」では、病態生理に基づいた解説・アプローチを提示しました。疾患の病態やそれに対する理論的な対応は同じですので、執筆の先生方には基本的な考え方・対応を生理学的に考察・執筆してもらいました。各論では1)術前の基本的な血行動態・術前管理、2)手術前後の血行動態の変化、3)その変化を踏まえた術後管理の3項目に分け、この基本をもとに必要なところでは各施設の経験や背景に基づいたやり方も追加しています。
次に「各施設のpractice」「合併症」では小児循環器集中治療研究会の幹事施設を中心にアンケート調査を行い、「〜であるはず、〜であるべき論」と「実際の各施設のやり方」を併記しました。理論的にアプローチできない状況や賛否拮抗している事項は多くあり、それぞれの医師や施設の経験に基づいて治療が行われています。多くの読者が気になる情報かと思いますが、どれか一つが正しいといえるものではありませんので、理論的にはこうあるはずだが実際にはこのようなことも行われている、という形で執筆してもらいました。自分達の治療を客観的に捉え、多様性を認識してもらう契機になれば幸いです。
企画・アンケートから出版まで2年以上にも及んでしまいましたが、「筋道だって治療方針を考えられる」「行き詰まった時に参照できる」循環器集中治療の最高のテキストに仕上がったと自負しております。ベッドサイドやカンファレンスなどで大いに活用していただければと思います。最後に、本書にご協力頂いた先生方に、また数多くのことを教えてくれた心疾患のこども達に感謝いたします。
2023年3月1日
日本小児循環器集中治療研究会
代表幹事 大﨑真樹
目次
推薦のことば
編著者一覧
編集のことば
PART Ⅰ 総論
CHAP.01 急性期循環管理:LOSを中心に
CHAP.02 急性期呼吸管理
≫ 【Topic】非挿管呼吸補助(NPPVとHFNC)
CHAP.03 術中麻酔管理
CHAP.04 心臓カテーテル検査の麻酔
CHAP.05 脈の諸問題(1)周術期不整脈
≫ 【Topic】オーバードライブペーシング
CHAP.06 脈の諸問題(2)ペースメーカー in CICU
≫ CHAP.06【Topic】Temporary CRT in CICU
CHAP.07 モニタリング(1)循環系
CHAP.08 モニタリング(2)呼吸系
CHAP.09 心エコー in CICU
CHAP.10 体制整備の現状と課題
PART Ⅱ 各論
CHAP.01 心室中隔欠損症(VSD)
CHAP.02 房室中隔欠損症(AVSD)
≫ CHAP.02【Topic】PHクライシスと一酸化窒素吸入療法(iNO)
CHAP.03 肺動脈絞扼術(mPAB)、両側肺動脈絞扼術(bPAB)
CHAP.04 術前動脈管開存症(PDA)
CHAP.05 総肺静脈還流異常(TAPVC)
CHAP.06 完全大血管転位(dTGA)
CHAP.07 新生児Ebstein奇形・三尖弁異形成
CHAP.08 ファロー四徴症(TOF)
CHAP.09 肺動脈弁欠損症候群(APVS)、肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損(PAVSD)、肺動脈閉鎖兼心室中隔欠損/主要体肺側副血行路(PAVSD/MAPCA)
≫ 【Topic】気道・肺病変合併
CHAP.10 純型肺動脈閉鎖(PA/IVS)
CHAP.11 大動脈縮窄(CoA)、大動脈離断(IAA)
≫ 【Topic】乳児期動脈管性ショック(ductal shock)と動脈管開存症(PDA)管理
CHAP.12 左心低形成症候群(Norwood+RV-PAシャント)
CHAP.13 左心低形成症候群(Norwood+modified BTシャント)
≫ 【Topic】低酸素濃度ガス吸入療法(窒素ガス療法)
≫ 【Topic】Preferential Streaming
CHAP.14 内臓錯位症候群(heterotaxy syndrome)
CHAP.15 Glenn手術・Fontan手術
CHAP.16 急性心筋炎・心筋症
≫ 【Topic】体外式膜型人工肺(ECMO)
≫ 【Topic】体外循環式心肺蘇生法(ECPR)
CHAP.17 心臓移植周術期管理
≫ CHAP.17【Topic】補助人工心臓(VAD/EXCOR)
PART Ⅲ 各施設のpractice
CHAP.01 水分管理・利尿薬
CHAP.02 循環作動薬
CHAP.03 開胸管理(OCM)と二期的胸骨閉鎖(DSC)
CHAP.04 周術期抗菌薬、ドレーン、中心静脈カテーテル管理
CHAP.05 輸血
CHAP.06 カルシウムとマグネシウム
CHAP.07 抗凝固・抗血小板療法
CHAP.08 開心術後急性期ステロイド療法
CHAP.09 心臓手術後の急性腎障害(CS-AKI)と腎代替療法(RRT)
CHAP.10 栄養管理
CHAP.11 気管チューブ管理
PART Ⅳ 合併症
CHAP.01 難治性胸水・乳び胸
CHAP.02 難治性縦隔炎
CHAP.03 壊死性腸炎(NEC)と消化管トラブル
CHAP.04 反回神経麻痺
CHAP.05 横隔神経麻痺
CHAP.06 心タンポナーデ
CHAP.07 脳出血と脳梗塞
≫ 【Topic】小児循環器集中治療(pediatric cardiac intensive care)における終末期医療について
巻末付録
No.01 薬剤早見表
No.02 特殊デバイス一覧
カラー写真一覧
索引
執筆者一覧
■編集
日本小児循環器集中治療研究会
■編者
大﨑真樹 日本小児循環器集中治療研究会代表幹事
(東京都立小児総合医療センター/中京こどもハートセンター集中治療科)
■著者
伊東幸恵 大阪府立母子医療センター集中治療科
岩崎達雄 岡山大学病院小児麻酔科
上田知実 榊原記念病院小児循環器科
生方栄実菜 東京都立小児総合医療センター集中治療科
海老島宏典 国立成育医療研究センター集中治療科
大﨑真樹 東京都立小児総合医療センター/中京こどもハートセンター集中治療科
小田晋一郎 京都府立医科大学大学院医学研究科心臓血管外科
小野頼母 宮城県立こども病院集中治療科
太安孝允 北海道大学病院救急科
金澤伴幸 岡山大学病院小児麻酔科
木村聡 岡山大学病院麻酔科蘇生科/医療情報部
黒嵜健一 国立循環器病研究センター小児循環器内科
桑原優大 榊原記念病院小児心臓血管外科
小泉沢 宮城県立こども病院集中治療科
小谷匡史 福岡市立こども病院集中治療科
小林匠 榊原記念病院小児循環器科
酒井渉 北海道立子ども総合医療・療育センター小児集中治療科
坂口平馬 国立循環器病研究センター小児循環器内科
正谷憲宏 Department of Critical Care Medicine, The Hospital for Sick Children, Toronto, Canada/ 榊原記念病院 集中治療部
祖父江俊樹 大阪府立母子医療センター集中治療科
竹内宗之 大阪府立母子医療センター集中治療科
田邊雄大 静岡県立こども病院循環器集中治療科
中野諭 埼玉県立小児医療センター救急診療科
名和智裕 北海道立子ども総合医療・療育センター小児循環器内科
長谷川智巳 兵庫県立こども病院小児集中治療科
林健一郎 東京大学医学部附属病院小児科
廣田篤史 国立循環器病研究センター小児循環器内科
前澤身江子 東京大学医学部附属病院小児科
松井彦郎 東京大学医学部附属病院小児科
元野憲作 静岡県立こども病院循環器集中治療科
山田浩平 大阪府立母子医療センター集中治療科
和田直樹 榊原記念病院小児心臓血管外科
トピックス
■日本小児循環器集中治療研究会のご案内
本書を編集いただいた、日本小児循環器集中治療研究会のウェブサイトは下記になります。ぜひご覧ください。