抗菌薬のセカンドチョイスとスチュワードシップ

  • 新刊
定価 3,960円(本体 3,600円+税10%)
伊東完
東京医科大学茨城医療センター総合診療科
A5判・207頁
ISBN978-4-7653-2006-1
2024年09月 刊行
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第二選択薬以降の抗菌薬の使い方を知り、抗菌薬スチュワードシップも実践していこう!

内容紹介

「この感染症にはこの抗菌薬」と第一選択薬で対応しても、副作用が出るなどで当てが外れ、実際に現場で混乱するケースは少なくありません。ですので、私たちは第二選択薬以降の抗菌薬の使い方も十分に知っておくべきでしょう。本書では、第二選択薬を使う場面の感染症診療の具体例を挙げ、対話形式でわかりやすく解説しました。

あわせて、日本で最近重要視され始めた「スチュワードシップ」についても触れています。使わなくてもよい抗菌薬が実臨床では多く使われ、それが薬剤耐性菌の出現に影響しています。無駄な医療が患者さんにとって精神的・肉体的な不利益とならないよう、医療資源を適正に使用することで、次世代に医療が持続可能な環境を残す組織的な営みを、一緒に育んでいきませんか?

序文

青木眞先生の『レジデントのための感染症診療マニュアル』(医学書院)が刊行されてからというもの、日本では感染症診療を扱う医学書が数多く出版されている。既に需要が満たされているはずなのにもかかわらず、令和の世になっても同じような医学書が次々と出版されているのが不思議でならない。ただ、その理由は割合容易に想像がつくもので、感染症診療を扱う医学書の難易度に大きな偏りがあるせいではないかと思われる。例えば、抗菌薬を扱う入門書は、入門書を謳う割に各論的で、抗菌薬のつながりが見えにくいので、意外と初学者にとっては難易度が高い。最近では入門書よりもさらに難易度を落とした超入門書も見かけるが、これは診療に必要な情報を削り過ぎていて、もはや実用に耐えるものではない。例えば、カルバペネムが最強(?)と書かれている医学書を読んでも、果たしてその情報がどの程度役に立つものか。

そこで少し考えてみた。ゼロから学ぶのではなく、イチから学べる感染症診療の入門書が日本には足りていないのではないか。例えば、「尿路感染症の多くが大腸菌によって引き起こされる」とか、「蜂窩織炎に対して通常は第一世代セフェムを使用する」といった知識は最低限持っているくらいの読者を対象としてみるのはどうか。要するに、医療現場でよく遭遇する感染症に対する治療経験は持っていて、既にある程度は慣れてもいるけれど、根拠となる知識が曖昧だという読者である。そして、このレベルの読者が必ずといってよいほど引っ掛かっている落とし穴だけを重点的に拾い集めて解説した少し意地の悪い医学書を作ってみると、不確実性の高い医療現場においても役に立つのではないか。そういった趣の攻略本のつもりで、本書を執筆した。逆に、感染症診療をまったくやったことのない読者は想定していないし、逆に臓器別感染症の起因菌や抗菌薬のスペクトラムを完璧に覚えているような読者も本書では想定していない。前者にとっては難解で、後者にとっては常識といえる内容だ。

さて、初期研修医以上、感染症レジデント以下のレベルの医師が悩むポイントといえば、やはり抗菌薬の第二選択薬以降のところではないだろうか。例えば、抗菌薬を使っていて薬疹が出現した時、自信をもって他の抗菌薬に切り替えられる医師はどのくらいいるだろうか。薬剤供給不足問題で普段使っている周術期抗菌薬が使えない時、適切な代替薬を選べる医師はどのくらいいるだろうか。本書では、第二選択薬以降の抗菌薬の使い方を意識的に記述することにした。類書にあまり記載されていない邪道だが、トラブルシューティングとしては必要な知識である。現場ではきっと役に立つだろう。もっとも、第二選択薬以降は、あくまで必要に迫られて使うものなので、恰好つけて第一選択薬よりも優先的に使うことのないようお願いしたい。

もうひとつの本書の目標として、スチュワードシップの考え方を日本の医療現場に輸入しようという試みが挙げられる。詳細は第3部に譲るが、日本の医療はとにかく無駄が多く、いい加減これを是正しないと日本の医療の未来もないのではという危機感がある。無駄な医療を削って、必要な医療にリソース(我ら医療スタッフの労力を含む)を集中することで、よりよい診療ができるという信念があるのである。抗菌薬スチュワードシップについては、既に各病院の感染対策チームの中で共有されている概念かとは思うが、本書ではこれまでほとんど日本で語られてこなかった診断スチュワードシップの考え方にも言及した。本書が無駄の削ぎ落とされたリーンな感染症診療への道標になれば幸いである。

2024年8月
伊東完

目次

序文

第1部 感染症診療の基本道具
はじめに
基本道具1 ペニシリン系のスペクトラム
基本道具2 セフェム系のスペクトラム
基本道具3 黄色ブドウ球菌菌血症
基本道具4 腹腔内感染症
基本道具5 発熱性好中球減少症

第2部 第二選択薬を使う場面の感染症診療
はじめに
症例1 30歳男性の「溶連菌咽頭炎」
症例2 70歳女性の「蜂窩織炎」
症例3 40歳男性の「蜂窩織炎」
症例4 60歳女性の「急性腎盂腎炎」
症例5 80歳男性の「急性腎盂腎炎」
症例6 30歳女性の「急性膀胱炎」
症例7 80歳男性の「市中肺炎」
症例8 85歳女性の「誤嚥性肺炎」
症例9 84歳男性の「誤嚥性肺炎」
症例10 30歳男性の「急性胃腸炎」

第3部 スチュワードシップを意識した感染症診療
はじめに
取り組み1 抗菌薬の不適正使用を回避する
取り組み2 抗菌薬選択を最適化する
取り組み3 抗菌薬の投与期間を最適化する
取り組み4 診断プロセスを最適化する

Lesson
ペニシリン系VSセフェム系
腹水検体で発育するE.faeciumを叩くべきか
溶連菌咽頭炎で抗菌薬を使用する意義
壊死性筋膜炎と画像検査
セファゾリン供給不足問題
蜂窩織炎の非薬物療法と「RICE」
クリンダマイシンによる毒素産生抑制効果
腎周囲脂肪織濃度の臨床的意義
腎盂腎炎の発熱期間
セフトリアキソンとスペクトラムの類似する抗菌薬
JANIS
尿路感染症の性差
抗菌薬の前立腺移行性
第3世代経口セフェム
膀胱炎に対する抗菌薬投与期間
性感染症の問診
梅毒の検査
肺炎球菌のカルバペネム耐性
インフルエンザ桿菌から見た薬剤耐性
肺炎随伴性胸水や膿胸に対する抗菌薬選択
薬剤による誤嚥性肺炎の予防
腹腔内感染症における嫌気性菌カバー
MERINO試験
自発痛と圧痛を区別せよ
虫垂炎に対する手術治療vs保存的治療
不必要な抗菌薬が使われる温床
結局、何が抗菌薬スチュワードシップに該当するのか?
静菌的抗菌薬
抗菌薬スチュワードシップとお金の話
診断スチュワードシップとは何か

Column
アンピシリン&アモキシシリンの代替薬
セファゾリン&セファレキシンの代替薬
クリンダマイシン活用術
セフトリアキソンの代替薬
抗菌薬の臓器移行性
静注抗菌薬から経口抗菌薬へのスイッチ
アジスロマイシンの代替薬
アンピシリン・スルバクタムの代替薬
ピペラシリン・タゾバクタムの代替薬
アモキシシリン・クラブラン酸の代替薬

付録
あとがき
索引
プロフィール

執筆者一覧

■著
伊東完 東京医科大学茨城医療センター総合診療科

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