看護師に役立つ レポート・論文の書き方
第6版
-文章力向上に必要な学習方法は他律的な「させられ学習」ではなく、自律的な「する学習」である-
内容紹介
レポートや論文、看護記録、申し送り状、ケーススタディなどを書く機会の多い看護師たちの中には「レポートや論文が書けない」「文章を書くのが苦手」という意識を持ち、書けない悩み、書くことへの苦手意識に悩まされている人たちもいます。
本書はそんな看護師たちの問題を解決すべく著者独自の持論で書き下ろされたものであり、文章を書く基本のルールがわかりやすく解説されています。そのなかで著者は、起承転結の文章構成には否定的で論文には不適切であると指摘し、本書では結論から述べる三分節法を推奨しています。闇雲に文章を書くのではなく、羅針盤や航海図にあたる基本的なルール(法則)を守り、三分節法の文章構成方法を習得することが、文章力向上への道だと説いています。
多くの看護師たちの「書けない悩み」が、「書き方がわかった」「新人看護師への指導のコツがつかめた」「書くことが好きになった」という声につながる一冊です。
序文
本書の目的 ―第6版にあたって
本書は、看護師がレポートや論文を書くために必要な日本語の基本的な書き方と学習方法を習得することを目的としている。今回の改訂では学生の学習行動を加えて、その後の学生の良い変化を書き加えた。目次ⅵにその頁を表記した。21世紀の看護師達に文章力を向上させるために必要な学習方法は他律的な「させられ学習」ではなく、自律的な「する学習」である。
本書は2006年初版以来、「三分節法」による文章構成、「落書き・グループ化・段落の構図」、常体文による文体の統一、レポートの型、論文の型、その他について解説してきた。文章技術は聞いただけでは習得できない。これらを文章作法の新技術として習得するためには、テキストを読んで、キーを打ってではなく、手で書いて練習する必要がある。
筆者は1998年から看護専門学校で「レポート・論文の書き方」の授業を担当して学生の意識を調べてきた。学生達はその学習方法を知らず、自己学習ができていない傾向にある。授業は「50分講義―40分レポート」で進められる。受講前では「嫌い・苦手・書き方がわからない」と回答した学生は、2003年90%、2008年93%、2013年96%、2018年99%だった(調査数は250人程度)。2019年の授業の1回目に求めたレポートの合格率は25%程度だった。「学習のしおり」には事前にテキストを読むよう書いてあるのだが、読んできた学生は1クラス3人ほどだった。レポートの下書きをしてきた学生はいなかった。
2018年の全授業終了後の調査(225人)では、「書き方がわかった」が94.4%、「もっと書けるようになりたい」は99%だった。筆者は2005~2009年に看護師研修会に招かれその終了後に調査(559人)した、受講者達は「書き方がわかった」(78.8%)、「もっと書けるようになりたい」(93.3%)と回答した。この結果は、文章指導には、看護学生と看護師の文章を書く能力が向上する可能性があることと、その指導に希望が持てることを示している。
文部科学省は管轄する大学に「論文の書き方」を必修にしていないが、大学では「論文の書き方」の科目を設定し始めた。ところが、厚生労働省は管轄する看護専門学校に「論文の書き方」を必修にしておらず、専門学校はほとんどこれを実施していない。それが専門学校卒業生の「論文の書き方」の知識の乏しさと技術の未熟さの原因となっている。
「レポートの書き方がわからない」のは教えられていないからである。小学校では自由な作文を書けばいい。中学校では書き方を教えられずにレポートの提出を求められる。高校でも進学のための小論文を指導されるだけである。「書けない」原因は「書き方を教えられていない」「無理やり書かされてきた」という「させられ学習」にある。専門学校を卒業した看護師達は文章を書くことへの苦手意識があるままに働いている実態がある。
小学校以来の苦手意識を持ち、「レポートを出さなければならないのなら辞めます」と言うほどの人にも、書けるようになる三分節法という文章技術がある。文章作法は技術の一つだから、文章理論を理解して、練習するならば習得される。本書には、そのための学習方法が書かれている。学習は自律的なものであることに可能性と希望がある。
各章の末尾に練習課題があります。特に1章の練習課題には、丁寧な説明があります。学習時間を確保して、手で書く練習をしてください。筆者は、読者と文章力の向上を共感したいと願っています。そうしたならば、医療を受ける人々に敬意と尊厳ある看護が提供できるでしょう。
2024年8月
髙谷修
目次
1章 文章の基本(3段・常体文・1文40字・初めに結論)
1.文章は3段落構成で書く
2.文章は、まず結論を第1文に書く
3.論文は常体文で書く
4.1文は40字程度で書く
5.その他の留意点
2章 文章を書く意義
1.書く前の3段階
2.文章を書く意義
3.課題としてレポートを書く意義
4.小論文を書く意義
5.課題レポートの書き方
6.書くことは対話である
3章 読点・漢字・仮名の基準
1.読点の打ち方に基準はない
2.漢字使用の基準
3.「仮名遣い」と「送り仮名」の基準
4章 良い文章の秘訣
1.自分を他者の立場に置いて書く
2.体験を言語に翻訳する
3.その他の良い論文の要素
4.推敲能力を高める
5章 看護観「患者に提供する援助」
1.看護観には看護体験を書く
2.全体の構成の仕方(題・第1文・体験・引用文・看護師の役割)
3.看護観の例
4.主な看護理論家と理論
5.「看護」と「看護観」
6章 看護研究と事例研究
1.看護研究と文章力
2.事例研究(ケーススタディ)
3.調査研究(リサーチ)
4.その他の研究
7章 不適切な専門用語
1.三大誤語(体位交換、熱発、中心静脈栄養)
2.四大不快語(指摘、対象、コンプライアンス、指示)
3.三大避語(声かけ、してもらう、させる)
4.三大不適切語(断定、疑問文、文語)
5.省略文字を使用する場合の注意点
6.専門用語使用上の注意点
7.表記の問題
8.その他に気を付ける表記
8章 物件化の克服と文章力
1.日本語は「人を物扱いせずに使い分ける」特質がある
2.ヨーロッパ言語では、物と人を区別しない
3.人間の物件化とその克服の歴史
4.敬語と物扱い
5.ブーバーの対話とジュラードの自己開示
9章 美しい文章
1.美しい行為
2.看護における美しい行為
10章 付録 ― 小論文と記録の留意点
1.事例研究の要約
2.診療情報の開示と看護記録
3.苦手意識は克服できる
4.論文の例
5.記録を書く際の留意点
6.「診療情報の提供等に関する指針」<抜粋>
【FOOTSTEP】
「三分節」は文章指導にも役立つ
文章力は向上できる
看護観を確立する
良い体験が良い文章になった
達成感があった
苦手意識が無くなった
使用しない根拠を示す
物扱いでなく人扱いで書く
美しい文章が課題
今までにない達成感
【学生の学習行動】
忍耐して続ける。継続は力なり
2023年度調査:99%否定的
褒められてやる気が出る
要約を書けるようになった
テキストを読む。下書きを書く
自己評価が高くなった
教室の雰囲気が明るくなった
【挿話】
推敲の目
こぼれ話 不適切用語
NOTE 評価のない教育は闇夜に弓矢を射ることに等しい
【学習方法】
書いた漢字を疑って漢字辞典で調べる
「下書きを作る」
生活時間から書く時間を確保する
向上心を働かせて何度も書く練習が必要
レポート・論文の基本的な法則を利用する
新しく作られた脳の神経細胞を働かせる
「三分節法」を看護記録やその他に応用する
短時間の復習を繰り返す
文章力は先天的ではなく、生得的才能
21世紀教育の難題 デジタル学習障害