身体不活動症候群 Physical Inactivity Syndrome
-医療従事者が知っておくべき安静・身体不活動・廃用症候群のすべて-
編著 | 上月正博 |
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公立大学法人山形県立保健医療大学理事長・学長/東北大学名誉教授 |
- 【 冊子在庫 】
★2024年12月中旬 発売予定!★
患者の安静の加害者とならないために、患者の活動性向上を引き出す技術を身につけられる一冊。
内容紹介
超高齢社会においてわが国の高齢患者の様相が激変し、不動・安静による全身の様々な症状である廃用症候群(Disuse Syndrome:DS)を抱える患者が多くみられる時代になりました。一方、自立可能な人々に対しても、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム(ロコモ)、メタボリックシンドローム(メタボ)など、矢継ぎ早に新しい概念が生まれました。これらすべての概念で共通しているのは、身体不活動(Physical Inactivity:PI)です。DSはネガティブワードとして海外では受け入れられていないこと、PIはDSと比較して海外でも広く受け入れられているものの、単に身体活動量の低下の意味であり、DSのもつ全身や多臓器での問題を想起しにくいという問題があります。本書では、これらの問題を解決するために、DSおよびPIを包括する新しい学術用語として、身体不活動症候群(Physical Inactivity Syndrome:PIS)を提唱し、安静にしていることの危険性に焦点を当て、広く体系的にまとめました。PISを予防・治療するのに必要なリハビリ・運動療法の実際とその有効性を解説します。医療従事者が患者の活動性向上を引き出す技術をきちんと身につけ、PISの危険性を十分に認識し、十分な自信を持って予防・治療を行うための知識を完全網羅した総合テキストとなっています。
序文
わが国は世界一の超高齢社会となり、患者の様相が激変した。内科治療で何とか内臓機能を維持できても、体力がどんどん低下していく患者。内科疾患に加えて変形性関節症など運動器疾患などによる重複障害を抱えた患者。家族の介護負担が増え、施設転院を余儀なくされる患者。このような不動・安静による全身の様々な症状である廃用症候群(Disuse Syndrome:DS)を抱える患者が多くみられる時代になってきたのだ。一方、自立可能な人々に対しても、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム(ロコモ)、メタボリックシンドローム(メタボ)など、矢継ぎ早に新しい概念が生まれた。これらすべての概念で共通しているのは、身体不活動(Physical Inactivity:PI)である。つまり、安静にしていることの危険性である。
安静にすべき患者を無理に動かすのは危険だという読者もおられよう。確かに、かつて、脳血管障害、慢性心不全、慢性呼吸不全、慢性腎不全などは安静が治療の一つとされてきた。しかし、近年のリハビリテーション(リハビリ)医学・医療の進歩により、これらの疾患の患者ですら、安静にすることは患者の自立を妨げ、生命予後を悪化させることが明らかになった。実際、トイレと食事の時以外は寝たままで過ごすと、1日約1%の筋肉量・筋力が低下する。ましてや、完全に安静にしていると、たった1日で2%の筋肉量・筋力が低下してしまう。通常30歳を過ぎると、1つ歳をとるごとに、平均1%ずつ筋肉量や筋力が低下する。つまり、たった1日の安静でなんと1~2歳も老化してしまうことになる。すなわち、安静が治療であった時代は終わったのである。超高齢社会の現在では、安静はむしろ自立を妨げ、生命予後を短縮する有害なものであるといっても過言ではない。
このように、DSやPIの予防・治療は現実的に医療・介護における大きな課題になっている。しかし、医学教育や保健学教育のなかでの運動医学やリハビリ医学の講義数は極めて少ない。このような教育を受けて医療従事者になったかたで、従来の医学・保健学の知識で十分対応できる人はどれだけおられるだろうか?
本書は、いまなぜDSやPIが問題になっているのかを明らかにするとともに、これらを予防・治療するのに必要なリハビリ・運動療法の実際とその有効性を解説するために企画された。さらに、DSはネガティブワードとして海外では受け入れられず、修正が求められていること、PIはDSと比較して海外でも広く受け入れられているものの、単に身体活動量の低下の意味であり、DSのもつ全身や多臓器での問題を想起しにくいという問題がある。本書では、これらの問題を解決するために、DSおよびPIを包括する新しい学術用語として、身体不活動症候群(Physical Inactivity Syndrome:PIS)を提唱する。
医療は「寿命の延長」(Adding Years to Life)が目的である一方、リハビリの目標は「生活・運動機能の改善や生活の質の改善」(Adding Life to Years)であるとされてきた。しかし、最近、PISを予防・改善するまでリハビリを行うことで、“Adding Years to Life”も達成できることが明らかになった。すなわち、リハビリの概念が、“Adding Life to Years”から「生活・運動機能の改善や生活の質の改善に加えて寿命の延長」(“Adding Life to Years and Years to Life”)へとパラダイムシフトがおきたのである。しかも、“Adding Life to Years and Years to Life”はまさに医療の理想でもある。
医療従事者自らが患者に対する安静の加害者になってはならないわけであり、患者の活動性向上を引き出す技術をきちんと身につける必要がある。本書により、医療従事者が「不活動・安静・寝たきり」の危険性を十分に認識し、十分な自信を持ってPISの予防・治療をできるようになり、1人でも多くの患者やご家族の福音になれば、編者としてこれに勝る喜びはない。
上月正博
目次
序文
執筆者一覧
総論
総論1 安静が治療の時代は終わった
1.安静が治療の時代は終わった
2.1日で2歳も老化する!
3.本当に歩けないのか?—リハビリの効果
4.リハビリの新しい考え方
5.患者が歩けなくなる原因は医療従事者にある!
6.患者がリハビリを行えるかは医療従事者次第
総論2 廃用症候群(Disuse Syndrome:DS)
1.廃用症候群の定義と内容
2.廃用症候群になりやすい対象
総論3 身体不活動(Physical Inactivity:PI)
1.身体不活動の定義と実態
2.サルコペニア
3.フレイル
4.PIがもたらすサルコペニア、フレイルとその対策
総論4 不活動のレベルなどを知るための評価
1.評価の手順
2.評価の手順:第1ステップ(簡易な機能障害チェック)
3.評価の手順:第2ステップ(詳細な機能障害チェック)
4.評価の手順:第3ステップ(生活情報・日常生活機能チェック)
5.評価の手順:第4ステップ(栄養評価)
6.評価の手順:第5ステップ(運動機能評価)
7.判定基準・禁忌・中止基準・陽性基準
8.Ramp負荷試験中の生理学的応答とパラメータ
9.運動耐容能の規定因子
総論5 リハビリのパラダイムシフト
1.リハビリとは?
2.リハビリ・運動療法の種類
3.リハビリ・運動処方の原則:FITT-VP
4.内科治療で足りないことは?
5.医療従事者―患者関係の変化
6.歩けるようにするだけでは不十分
7.AIDE-SP2
8.「ことばセラピー」とAIDE-SP2
9.「ていねい」なリハビリの問題点
10.面倒・複雑なリハビリはリハビリ科専門医に相談を
11.「広く、早く、密に、そしてつなげるリハビリ」が今後の課題!
各論
各論1 筋肉
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.身体活動における骨格筋の役割
2.内分泌器官としての骨格筋
3.サルコペニア・廃用性筋萎縮・ダイナペニア
4.身体不活動による骨格筋への影響
5.日常生活における骨格筋の活動
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.骨格筋の質と量を保つ運動
2.レジスタンストレーニングの運動処方
3.トレーニングの分類と基本的な処方内容
4.レジスタンストレーニングの工夫
5.レジスタンストレーニングの動作特異性
6.有酸素運動の工夫
7.骨格筋電気刺激
8.栄養との組み合わせ
9.安全で効果的なトレーニングを行うために
10.レジスタンストレーニングの効果と限界
各論2 骨・関節
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.骨・軟骨・関節の構造
2.荷重や関節運動がなくなると……?
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.骨粗鬆症、拘縮の怖さ
2.骨を育てる―十分な栄養とメカニカルストレス―
3.高齢者に適した運動は……?
4.転倒を防ぐ
5.関節拘縮を作らない
6.未来の私のために―身体は刺激を待っている―
各論3 脳・神経
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.脳・神経疾患における病態、症状とその経過について
2.脳・神経疾患の症状・障害と身体不活動症候群との関係性
3.代表的な身体症状と身体不活動症候群への影響
4.代表的な精神症状と身体不活動症候群への影響
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.概論
2.脳卒中
3.頭部外傷
4.脊髄損傷
5.パーキンソン病(PD)
6.脊髄小脳変性症(SCD)
7.筋強直性ジストロフィー
8.線維筋痛症
9.慢性疲労症候群
10.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
11.痙縮
12.疼痛
13.有酸素運動の効果
各論4 循環器
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.安静臥床および循環器治療に関する歴史
2.身体不活動症候群が循環器系に与える影響(急性変化)
3.身体不活動症候群が循環器系に与える影響(慢性変化)
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.高齢心不全患者の増加(心不全パンデミック)
2.心臓リハビリの概要
3.予防法、リハビリ、運動療法の実際と効果
各論5 呼吸器
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.廃用と身体活動性
2.COPDの身体活動性
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.呼吸筋力の評価について
2.持久力運動について
3.呼吸リハビリについて
各論6 内分泌・代謝
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.肥満
2.糖尿病
3.脂質異常症
4.クッシング症候群、サブクリニカルクッシング症候群
5.成長ホルモン欠乏
6.その他の内分泌疾患
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.運動と糖代謝
2.運動時のエネルギー消費
3.糖尿病における運動療法の効果
4.運動療法の意義
5.運動療法の実際、注意点
6.脂質異常症に対する運動療法
7.肥満症に対する運動療法
各論7 血液
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.血液の構造と機能
2.身体不活動症候群の身体や精神への影響
3.血液の有形成分に及ぼす身体不活動症候群の影響
4.血液の無形成分に及ぼす身体不活動症候群の影響
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.酸素運搬能低下
2.血清アルブミン低下に伴う浸透圧維持機能の破綻
3.電解質や酸の排泄/吸収のインバランスによる酸塩基不均衡
4.血液凝固能亢進による深部静脈血栓症
5.高カルシウム血症
6.免疫機能低下
各論8 腎臓・尿路
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.身体機能低下
2.身体不活動
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.リハビリ・運動療法の実際
2.リハビリ・運動療法の効果
各論9 精神・心理
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.精神・心理と身体不活動症候群との関係性
2.身体不活動症候群に関わる心理的問題
3.うつ
4.統合失調症
5.認知症
6.高次脳機能障害
7.身体拘束の影響
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.概論
2.薬物療法とリハビリ
3.精神疾患に対するリハビリアプローチ
4.精神疾患に対する運動療法のエビデンス
5.運動療法と生活の質について
6.意思決定支援
各論10 子ども
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.子どもにおける身体不活動症候群の影響
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.子どもの頃の身体活動性は様々な健康関連指標と関連する
2.「毎日合計60分以上」は世界的なスタンダード!
3.日本の子どもを対象とした身体活動ガイドライン
各論11 青年・成人
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.身体不活動症候群の<青年・成人期>への影響
2.<青年・成人期>における不活動、安静、寝たきりの要因と原因
3.<青年・成人期>における不活動、安静、寝たきりへの影響
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.青年・成人期
2.リハビリ、運動療法(身体活動)の効果
各論12 高齢者
1 身体不活動症候群(PIS)への影響
1.日本の高齢化率は世界一!
2.平均寿命と健康寿命の差、ますます低下する高齢者の日常活動量
3.身体不活動症候群の「高齢者」への影響
2 予防法、リハビリ・運動療法の実際と効果
1.老化と身体活動との関係
2.高齢者特有のリハビリのポイント
3.リハビリおよび運動療法における高齢者向けのFITT
4.高齢者における身体活動とリハビリの効果
5.身体的・精神的健康を維持するための個別プログラムの必要性
執筆者一覧
■編著
上月正博 公立大学法人山形県立保健医療大学理事長・学長、東北大学名誉教授
■執筆者一覧(執筆順)
河村孝幸 東北福祉大学健康科学部医療経営管理学科教授
成田亜矢 山形大学医学部整形外科学講座
高木理彰 山形大学医学部整形外科学講座主任教授
原貴敏 国立精神・神経医療研究センター身体リハビリテーション部部長
竹内雅史 東北大学病院診療技術部副部長、リハビリテーション部門部門長
安田聡 東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野教授
海老原覚 東北大学大学院医学系研究科臨床障害学分野教授
中澤ちひろ 東北大学大学院医学系研究科臨床障害学分野
千葉拓 岩手医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野
石垣泰 岩手医科大学医学部内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科分野教授
佐浦隆一 大阪医科薬科大学医学部総合医学講座リハビリテーション医学教室教授
伊藤修 東北医科薬科大学医学部リハビリテーション学教授
森直樹 公立大学法人山形県立保健医療大学作業療法科准教授
佐藤寿晃 公立大学法人山形県立保健医療大学作業療法科教授
韓昌完 下関市立大学学長