超入門! スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究
第2版
著 | 康永秀生 |
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東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学 |
- 【 冊子在庫 】
★2025年1月 発売予定!★
初版から法的なこと、利用できるデータベース、解析環境などをアップデート!
内容紹介
本書は、データベースの特徴の解説と使い方、 因果推論の入門、両方を兼ね備えています。初版刊行から5年が経ち、めまぐるしく変わる法律、増えるデータベース、研究デザインの流行に対応して最新のリアルワールドデータ研究に必須の一冊に大改訂しました。初版でも大好評だった査読コメントとファイトする方法もさらにパワーアップ。急速に普及しつつある傾向スコアマッチングのピットフォールに対する警鐘、狭きNDBの山門をくぐり抜けた先にある禅問答など新コラムも充実しています。
序文
リアルワールドデータ(Real World Data 以下RWD)とは、日常の保健・医療・介護の現場で記録され蓄積されている患者等のデータの総称である。ランダム化比較試験のような特殊環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータである。
筆者は臨床疫学のプロフェッショナルである。筆者の研究グループは、RWDを用いた臨床研究で毎年100本以上の英文原著論文を出版し続けている。本書『超入門! スラスラわかるリアルワールドデータを用いた臨床研究 第2版』では、筆者の経験を活かし、臨床医学・疫学・統計学の知識を背景として、データベース構築から論文執筆まで、RWDを用いた臨床研究の具体的・実践的な方法論を解説する。
本書の初版は2019年8月に上梓された。初版の序文で筆者は、「日本のRWDを用いた臨床研究はその端緒についたばかりである」と書いた。それから5年余り、RWDの注目度は高まる一方である。官民ともにRWDの整備を加速させ、利用可能なRWDが増えている。RWDを用いた研究は増加し、データサイエンティストの養成も着実に進んでいる。
国は、公的な患者レジストリーや保険データベースの構築および利用者範囲の拡大を進めてきた。アカデミアだけでなく民間企業も利用可能な公的RWDが増加した。さらに国は、データベース間のリンケージも進めている。2024年11月現在、匿名医療保険等関連情報データベース(NDB)、要介護認定情報・介護レセプト等情報(介護DB)、匿名診療等関連情報データベース(DPCDB)、匿名感染症関連情報データベース(感染症DB、iDB)は、相互に連結可能となっている。指定難病患者データベース、小児慢性疾病児童等データベースも民間利用が可能になり、さらに今後NDBとの連携も予定されている。
アカデミアにおけるRWDの利活用も着々と発展を続けている。各学会や学術団体がこぞって独自の患者レジストリーの構築・運用を進めたり、保険データベースの利活用を進めたりしている。日本外科学会のNCDを筆頭に、日本整形外科学会のJOANR、日本集中治療医学会のJIPAD、日本外傷学会の外傷データバンク等々、多くの患者レジストリーが着実に実績を挙げている。いくつかのデータベース関連企業が、健診・レセプト情報やDPCデータのみならず、一部の電子カルテデータも収集し、アカデミアだけでなく民間企業にもデータを提供している。このように日本のRWDは、まさに百花繚乱の時代に突入している。
5年以上を経て、本書初版の内容はかなり古くなった。本書『超入門!スラスラわかるリアルワールドデータを用いた臨床研究 第2版(パワーアップ改訂版)』は、上記のような時代の流れを踏まえ、新規の情報を豊富に盛り込んだ大増補改訂版である。
本書の第1章「リアルワールドデータとランダム化比較試験」においては、RWDの定義を示すとともに、様々なRWDの類型を紹介する。さらにRWDを用いた臨床研究の意義、特にランダム化比較試験との相対関係や役割分担、RWD研究の利点と限界について解説する。
第2章「患者レジストリー」、第3章「保険データベース」、第4章「電子カルテデータの活用」においては、初版から内容を一新し、RWDの各類型について、データベースの概要、データの利用可能性、研究事例などを紹介する。さらに第5章「民間企業によるリアルワールドデータ利活用」を追加した。
他のすべての臨床研究と同様に、RWDを用いた臨床研究においても、(i)研究デザイン、(ii)データ解析、(iii)論文執筆というステップを踏む。本書では、RWDを用いた臨床研究に特化して、これら3つのステップそれぞれのTips & Tricksを伝授する。具体的には、第6章「リアルワールドデータを用いた研究の実践」において、RWDを用いた研究におけるテーマ設定、PECOの定式化とFINERのチェック、潜在的交絡因子のリストアップ、観察データに対処する統計手法、などについて実例とともに解説する。第7章「リアルワールドデータ研究の論文投稿」において、RWDを用いた研究の報告ガイドラインであるRECORD声明を紹介し、さらに査読への対処法について実例に基づいて解説する。
なお、本書の1冊のみで、臨床研究の方法論についてすべて網羅できるわけではない。上記3つのステップに関する詳細は、他書を参照されたい。手前味噌で恐縮ながら、研究デザインについては拙書『できる! 臨床研究最短攻略50の鉄則』(金原出版)、データ解析については拙書『できる! 傾向スコア分析』(金原出版)、『医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本』(金原出版)、論文執筆については拙書『必ずアクセプトされる医学英語論文 完全攻略50の鉄則』(金原出版)を、必要に応じて参照されれば、本書の理解をさらに深められるだろう。
本書の読者対象は、臨床研究を志すすべての臨床家・臨床研究者、当該領域に関心のある企業(製薬・医療機器メーカー等)の従事者、国・自治体等の医療政策担当者である。
本書を通じて、RWDを用いた臨床研究がいっそう隆盛し、日本発のリアルワールドエビデンスが世界に向けて発信され続けることを願ってやまない。
2024年11月
康永秀生
目次
はじめに
第1章 リアルワールドデータとランダム化比較試験
1.リアルワールドデータとは
「医療ビッグデータ」と「リアルワールドデータ」
患者レジストリー
保険データベース
電子カルテデータ等を含むデータベース
2.RCTとRWD
RCTの優位性
RCTの問題点
RCTvsRWD
Column:80歳以上を対象としたRCT
Column:プラグマティック臨床試験
3.エビデンスのレベル
「観察研究だから質が低い」という誤解
GRADEシステム
第2章 患者レジストリー
1.患者レジストリーとは
2.既存の患者レジストリー
公的レジストリー
アカデミック・レジストリー
Column:予防接種情報・発生届・レセプト情報の連結
3.患者レジストリーの新規構築
リサーチ・クエスチョンの募集とブラッシュアップ
多施設からのデータ収集と解析
本レジストリーの利点
第3章 保険データベース
1.保険データベースの研究利用
アメリカの医療保険制度と保険データベース
日本の医療・介護保険制度の外用
レセプト
日本の保険データベースの類型
2.NDB
NDBとは
NDBの研究例
NDBオープンデータ
Column:NDB申請における禅問答
3.介護DB
介護DBとは
介護保険制度の概要
介護DBに含まれる情報
介護DBを用いた研究の実践
4.民間の保険データベース
JMDCデータ
DeSCデータ
5.DPCデータ
DPCデータとは
DPCのデータ項目
DPCデータを用いた臨床研究
Column:アメリカのNational Inpatient Sample
Column:癒着剥離
6.バリデーション研究
保険データベースにおける病名の妥当性
妥当性の指標
バリデーション研究の実例
バリデーション研究の引用
Column:バリデーション研究のすすめ
第4章 電子カルテデータの活用
1.電子カルテデータを含むデータベース
MID-NET
国立病院機構データベース
徳洲会メディカルデータベース
電子カルテデータを含むデータベースを用いた研究例
2.次世代医療基盤法
次世代医療基盤法とは
次世代医療基盤法の改正
第5章 民間企業によるリアルワールドデータ利活用
1.薬事上の意思決定におけるRWD活用
2.民間企業によるRWD活用のイメージ
Unmet medical needsの把握
臨床試験デザインにおけるプロセスの効率化
製造販売後の安全性評価
医療経済評価
臨床試験の結果を補完する資料の作成
臨床試験の外部対照群にRWDを活用
第6章 リアルワールドデータを用いた研究の実践
1.研究デザイン
RWDを用いた臨床研究の役割
RWDを用いた臨床研究のタイプ
RWDを用いた臨床研究のデザイン
2.リアルワールドデータの統計解析
RWDにおける解析上の課題
RWDにおけるリスク調整
適応交絡とその対処法
欠損値の取り扱い
Target trial emulation
Column:傾向スコア分析の誤用例
第7章 リアルワールドデータ研究の論文投稿
1.STROBE声明とRECORD声明
タイトルと抄録
緒言
方法
結果
考察
2.査読への対処法
「RCTでないからダメ」への対処法
「未測定交絡があるからダメ」への対処法
3.リアルワールドデータからエビデンスを生み出す力
Column:リアルワールドデータ研究を学ぶ機会
URL一覧
索引
著者プロフィール