同一症例の経過・画像・病理で紐解く 臨床神経病理ワールド

著 | 宇高不可思 |
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住友病院特別顧問 | |
秋口一郎 | |
宇治武田病院脳神経内科顧問 |
- 【 冊子在庫 】

★2025年3月下旬 発売予定!★
“画像診断は虚像である。画像診断には剖検との対比による厳密な検証が必要である ―― 京都大学神経内科名誉教授 亀山正邦”
同一症例の経過・画像・病理で紐解いた、究極の臨床神経病理の書籍が完成!
内容紹介
脳神経画像と病理を対比させ、臨床経過をつぶさに辿ることができる究極のアトラス。著者が保有する、京都大学亀山コレクションなどの膨大かつ貴重な症例(掲載画像は2000点以上)を収録しました。その多様な画像所見から思わず「そうだったのか!」と膝を打って、脳神経疾患の病変・病態の理解を深めることができます。特に注目すべき症例については「そうだったのか! Case」としてまとめました。また、神経疾患の診療に役立つ有用な情報をMemoとして随所に掲載しています。
臨床神経学、神経病理学、脳・脊髄の画像診断に携わる脳神経内科医・神経放射線科医、そして、病院のCPC担当者や脳神経内科専門医試験を受験する方々など、必携の書籍です。
序文
はじめに
“症例を覚えることです”
“知らない疾患は診断できない”
“画像診断は虚像である”
恩師 亀山正邦先生(1924~2013)の言葉
筆者が臨床医としてスタートした時代は、ちょうど、X線CTが導入された直後で、間もなく、それまでの症候と病理の対比に加えて、CT画像と病理の対比が臨床病理研究のメインテーマになった。やがてMRIが登場、瞬く間に普及し、今度はMRIと病理の対比が盛んに行われた。国内外で多くの論文発表がなされ、その成果は教科書の1行1行の記載に凝縮されて常識となった。今日、わが国のCT、MRIの人口当たり普及率は世界一であり、日常の臨床でこれらの画像診断が殆どルーチン検査として診療向上に役立っていることは喜ばしい限りである。
しかし、剖検数は減少を続け、脳を直接観察できる機会は減る一方である。また、神経病理学の主な研究主題は異常蛋白の染色や遺伝子解析などとなっていることとも相まって、一般の病院で臨床医が脳病理を観察できる機会は極めて少なくなっている。そのような状況の中で、画像と病理の対比アトラスを作成することは長年の念願であった。優れた画像の書や病理の書は沢山出版されているけれども、画像と病理を実際の写真で対比して体系的に記載した書は殆どないからである。画像と病理の対比という本書のテーマは30年以上も前に亀山正邦先生から頂いたものであり、幾度か発表の機会があった。
カラーアトラスとしての作成を強くお勧め下さったのは共著者の大先輩秋口一郎先生で、構想がまとまったのは20年前、以後、秋口先生との共著のかたちで筆を進めたが、多忙な中、少しでも多くの疾患を網羅するために実に長い時間を要した。
今日の真実が明日の誤りとして訂正を要求されるのは科学の常である。しかし、新しいものだけが重要で古いものは全て無価値というわけではない。とりわけ、神経症候学、神経解剖学、病理形態学に関しては古い症例の記載がかけがえのない価値を持つことも少なくない。また、学術的には希少疾患の報告が重んじられる傾向があるが、ありふれた疾患の観察が無意味というわけでもない。特に、初学者にとっては、日常遭遇することの多い脳血管障害や転移性脳腫瘍などの多様な病変の諸相の観察も価値がある。何を今更、画像と病理なのかと言われるかも知れないが、顧みられることのない古いスライドの一枚一枚は、病苦の末に身をもって病の実相を教えてくれた無数の患者さん達の貴重な記録であり、文学的表現を借りれば、「“自分のも載せて下さい”という幾多の剖検霊の聲に背中を押されて」、遅々とではあるが筆を進め、ようやく完成の日を迎えることができた。
本書は長期間にわたる多くの方々のご指導・ご協力の賜である。亀山正邦先生、秋口一郎先生はじめ医局同門の方々、臨床病理研究・画像とマクロ病理対比の最前線であった東京都養育院附属病院(現都健康長寿医療センター)で1980年代、多くの標本観察の機会を与えて下さった朝永正徳先生、東儀英夫先生、山之内博先生、住友病院での長い勤務で終始ご協力頂いた脳神経内科西中和人主任部長、度々の脳切・CPCでお世話になった辻村崇浩元病理部長、藤田茂樹病理部長ほか歴代の病理スタッフおよび自・他科の諸先生方、執筆に適した環境をご支援下さった松澤佑次名誉院長・最高顧問、金倉譲院長はじめ、ご縁のあった全ての方々に深謝する。その一部ではあるが、脳神経内科に在籍された方々のお名前を以下に記して感謝の印としたい。
本書が臨床神経学、神経病理学、脳・脊髄の画像診断に携わる脳神経内科医・神経放射線科医、そして、病院のCPC担当者や脳神経内科専門医試験を受験する方々など、多くの方々のお役に立つことを望んで止まない。
2025年3月 亀山正邦先生十三回忌を前にして
宇高不可思
あとがき
本書は臨床経過からみた個々の症例の画像と神経病理所見の記載を中心に成り立っています。このコンセプトは、言わば臨床神経病理学と呼ばれるもので、病理学の一分野であると同時に、それだけではなく患者の診断・治療に貢献するための臨床神経学の一分野でもあります。したがってその中には、脳脊髄、筋・末梢神経、腸管神経節、皮膚、髄液細胞などの生検病理や脳神経疾患に関する手術中の迅速病理診断も含まれます。一方、個体の臨床経過の帰結である剖検病理もまた重要な領域です。この場合は、当然、生存中の画像診断や検査所見と対比させて、経過からみた最終病理診断を行います。
この臨床神経病理学という分野はわが国ではあまり馴染みがないかもしれませんが、少なくともヨーロッパ圏ではごく一般的な神経関連領域であり、実際、私が一時所属し、現在も交流を続けているウィーン大学神経研究所(Herbert Budka教授)では神経病理が臨床神経病理部門と実験神経病理部門に分かれ、両者はお互いに関連を持ちながら異なった臨床・研究活動を行っています。臨床神経病理部門は病院に属し、毎日2回ディスカッションタイムが設けられています。術中迅速やその日のうちに治療方針を得るための病理所見を報告しなければならない生検標本、院内や他施設からの生検・剖検診断依頼など、多くの標本がマッペの上に乗っかり、それらが手際よくディスカッション顕微鏡を囲んで議論・診断され、必要に応じて臨床経過や画像情報も提示されます。参加者は部門ドクターのみでなく病棟主治医・指導医、他施設から参加のドクターなどであり、そこではまさにホットな臨床神経病理の討論と診断が行われます。“そうだったのか、成る程”とか“これ別の免疫染色を追加しないと診断できないね”とか。
さて、私はかって日本神経学会近畿地区生涯教育講演会の企画をしていましたが、平成22年度講演会で宇高先生の「中枢神経疾患の画像と病理」という講演を聴いて大変感銘を受けたことを今でも鮮明に覚えています。この時、先生は、我々の共通の恩師である亀山正邦先生の“画像診断は虚像である。画像診断には剖検との対比による厳密な検証が必要である”という言葉を冒頭に示して、画像と病理の対比という極めて重要な、しかし大変検証が困難なテーマについて住友病院の症例を中心に素晴らしい講演をされました。また、養老孟司先生の“― MRやCTに示されるわれわれの身体の画像は、じつは画像ではない。計算機のなかの数字の配列なのである。しかし、われわれは、よく考えないでだまされているのだとしても、それをすでに「身体」だと見なしている―”という言葉も同時に示して、我々が日常陥りやすい画像診断への誤認や過信について警告を発していました。
この時以来、この亀山先生の指導の元に主に宇高先生を始め住友病院で働く諸先生達が苦労して集積した画像と病理を何とか世に出すお手伝いをしなければならないと思うようになりました。今般、宇高先生と相談の上、金芳堂の黒澤健さん、藤森祐介さん、市井輝和さん、宇山閑文さんのご厚意により本書を上梓することができることになり、私にとってこれ以上の喜びはありません。本書が、神経学を目指す若き臨床医のみならず神経学領域の多くの先生たちの座右の書になることを願っています。画像診断は、臨床神経病理学における病理診断に対峙する臨床側の重要なリファランスであるからこそ、剖検が得られにくい昨今だからこそ、この本の示すメッセージが重要であることを確信して止みません。
最後に私がこの本で主に脳血管障害、認知症疾患、脊髄筋末梢神経疾患で使用した画像および病理のデータは、私が、所属していた京大脳神経内科神経病理グループ関連の先生達(文末に別記)や現在所属している武田病院グループ・京都認知症総合センターの仲間の先生達(八木秀雄、渡邊裕子、仲嶋勝喜、恒石桃子、應儀達徳、浅沼光太郎、白樫義知、三宅あかり、伊辻花佳、小島康祐、川崎照晃他)、私が長年回診・カンファランスを続けながら共に症例を経験した洛和会丸太町病院や宇治徳洲会病院の救急総合診療科の友人達(上田剛士先生他)との共同作業によるものです。ここに諸先生方に対して心からの感謝の意を表したいと思います。
2025年春
秋口一郎
目次
Ⅰ はじめに 画像と病理で脳を診ることの重要性
1 脳の画像と病理、それぞれの特徴
2 CT、MRIと脳病理の対比検討:その意義と限界
3 正常脳のMRIと対応するマクロ病理
4 正常脳の加齢変化
5 この本の構成と「そうだったのか」症例について
Ⅱ 脳血管障害と関連疾患
A 頭蓋内出血
1 脳内出血
2 脳内微小出血、血管壊死、微小動脈瘤
3 脳アミロイド血管症による出血
4 脳動脈瘤とくも膜下出血
5 急性および慢性硬膜下血種
6 脳表ヘモジデリン沈着症
B 虚血性脳血管障害
1 大脳皮質領域梗塞
2 大脳皮質下領域梗塞
3 境界域梗塞
4 椎骨・脳底動脈領域梗塞
5 虚血性白質病変
C 血管奇形その他
1 動静脈奇形、硬膜動静脈瘻
2 海綿状血管腫と静脈性血管腫
3 血管の発達異常、variation
4 Arterial dolichoectasia、および、脳底動脈窓形成
5 動脈解離
6 血管周囲腔拡大
7 もやもや病
8 特殊な原因による脳血管障害
9 脳血管障害による錐体路二次変性
10 Guillain-Mollaret三角の血管性病変と下オリーブ核偽性肥大
D 低酸素性虚血性脳症
1 成因と分類
2 病態と神経病理、特に選択的脆弱性について
3 Stagnant hypoxiaからの回復例における画像所見
4 Stagnant hypoxia重症例における病理と画像所見の経時変化
5 Stagnant hypoxiaで観察された、その他の特徴的所見
Ⅲ 腫瘍と関連疾患
A 原発性脳・脊髄腫瘍
1 髄膜腫
2 び漫性星状膠細胞腫
3 膠芽腫
4 乏突起膠細胞腫
5 脳室上衣腫
6 Gliomatosis cerebri
7 髄芽腫
8 神経鞘腫
9 下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫
10 嚢胞、脂肪腫など
11 悪性リンパ腫
B 転移性脳腫瘍
1 出血を伴う転移性脳腫瘍
2 浮腫のない転移性脳腫瘍
3 嚢胞性転移
4 粟粒性転移
5 症候学的に重要な部位への転移
6 治療後の変化
7 脳実質以外への転移
8 髄膜癌腫症
9 血管内大細胞型B細胞性悪性リンパ腫
C 悪性腫瘍に伴う神経障害
1 Trousseau症候群
2 亜急性傍腫瘍性小脳変性症
3 放射線性白質脳症
4 傍腫瘍性自己免疫脳炎
Ⅳ 神経変性疾患
A 錐体路系疾患
1 筋萎縮性側索硬化症
B 錐体外路系疾患
1 パーキンソン病
2 進行性核上性麻痺
3 大脳皮質基底核変性症
4 脳内鉄蓄積を伴う神経変性症
C 小脳系疾患
1 多系統萎縮症
2 皮質性小脳萎縮症
3 遺伝性脊髄小脳変性症
D その他の変性疾患
1 神経軸索スフェロイドを伴う遺伝性び漫性白質脳症
2 神経核内封入体病
Ⅴ 認知症疾患
A 変性性認知症
1 アルツハイマー病
2 レビー小体型認知症
3 その他の認知症
B 血管性認知症
1 血管性認知症のサブタイプ
2 ビンスワンガー病
3 脳アミロイド血管症関連認知障害
Ⅵ 炎症性疾患
A 感染症
1 細菌性髄膜炎・髄膜脳炎
2 脳膿瘍
3 敗血症関連脳障害および感染性心内膜炎
4 結核
5 神経梅毒
6 真菌症
7 ウイルス性脳炎
8 進行性多巣性白質脳症
9 プリオン病
B 膠原病、その他の炎症性疾患
1 全身性エリテマトーデスおよび抗リン脂質抗体症候群
2 Sneddon症候群
3 神経ベーチェット病
4 神経サルコイドーシス
5 自己免疫性脳炎
6 自己免疫性下垂体炎
7 高好酸球性脳症
8 巨細胞性動脈炎、側頭動脈炎
9 肥厚性硬膜炎
C 脱髄性疾患
1 多発性硬化症
2 視神経脊髄炎関連疾患とMyelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease
3 急性散在性脳脊髄炎と急性出血性白質脳炎
Ⅶ 代謝性脳障害、中毒、物質沈着
1 一酸化炭素中毒
2 低血糖脳症、および、高血糖性舞踏病
3 痙攣重積発作後の大脳皮質DWI高信号
4 ビタミン欠乏症
5 肝性脳症
6 浸透圧性脳症
7 ミネラル沈着
8 先天性代謝異常症
Ⅷ 脊髄・筋・末梢神経疾患
A 脊髄疾患
1 脊髄血管障害、他
2 先天異常、脊髄外傷、変性、他
3 脊髄腫瘍
B 筋疾患
1 診断へのアプローチ
2 筋生検の有用性、筋生検でわかること
3 成人・高齢者特有のミオパチー
C 末梢神経疾患
1 症状の分布
2 解剖学的パターンはどうか?軸索性か脱髄性か?
3 末梢神経生検の適応と有用性
そうだったのかCase
1 抗凝固薬(ヘパリン)投与下の心室細動治療中に生じた皮質下大出血
2 白血病により出現した局所性くも膜下出血・硬膜下血腫
3 被殻の陳旧性ラクナ梗塞
4 内頚動脈高度狭窄による多発梗塞、3枝境界域梗塞
5 Wallenberg症候群で発症、両側椎骨動脈閉塞による心肺停止から低酸素性虚血性脳症に至った後、急死した症例
6 脳ヘルニアで死亡の上小脳動脈領域梗塞
7 脳底動脈血栓症による入院中の突然死
8 肺腺癌の治療中、急速に認知機能低下をきたした症例
9 口蓋振戦よりmyorhythmiaが急速に上半身に拡大し、1か月後に死亡した症例
10 小細胞肺癌の脳転移と治療後の経過
11 肺腺癌の脳転移巣の完全治癒から8年後に新たな転移巣が出現し死亡した症例
12 肺腺癌の治療中に、くも膜下出血を発症し急激な経過で死亡した症例
13 動揺性に多彩な精神神経症候を呈した頭蓋内T細胞性悪性リンパ腫
14 進行性の認知機能低下・歩行障害をきたした血管内大細胞型悪性リンパ腫
15 せん妄と脳神経麻痺を示し、広範な大脳白質病変を生じた血管内大細胞型B細胞リンパ腫疑い例
16 急に見当識障害が出現しDWIで多発脳病変を認めた肺癌症例
17 亜急性に進行する歩行時のふらつきで脳血管障害の治療を受けた症例
18 上位運動ニューロンの変性が高度であったALS
19 原因不明の低血糖により意識障害をきたしたパーキンソン病
20 PSPとALSの合併例
21 せん妄で急性発症、パーキンソン症候群と認知症を呈し長期間経過した症例
22 血栓溶解療法による再開通後の遅発性血管性認知症
23 超急性の経過を辿った劇症型A群連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)感染症
24 骨髄性白血病転化で骨髄移植を受けた例のムコール症
25 白血病に続発した真菌感染症
26 亜急性発症の前頭葉症候群から長期間経過したNPSLE
27 多様な精神神経症候を呈し、Sneddon症候群からSLEに移行した多発性脳梗塞例
28 急速な経過を辿った白質脳炎
29 四肢の筋力低下と嚥下困難で発症した高齢者ミオパチー
30 CO2ナルコーシスで発症したミオパチー
31 振戦と一過性反復性運動障害を示した例
32 自律神経症状を伴い運動症候を主徴とする末梢神経障害例
33 長年の起立性低血圧症に幻視を認めた例
Memo
1 脳幹虚血による突然死
2 DWIで広範多発性小高信号域を示す疾患
3 梗塞後の遠隔部位変化
4 ALSの初発症状や初発部位が語ること
5 見逃されているPSP、PSPと鑑別が必要な他疾患
6 “hot cross bun sign”と“midline linear hyperintensity”
7 神経変性疾患と排尿障害
8 小脳障害の多様性
9 神経変性疾患と突然死
10 Selective vulnerabilityと発生学的視点
11 Glymphatic systemによる睡眠中のAβ除去.ADからPD・ALSの成因・治療研究へ
12 髄液産生吸収路update―髄液と脳間質液および脳リンパは互いに交通する
13 高齢者パーキンソン病/LBDの急増とその問題点
14 高齢者の総診救急神経学
15 変性疾患における封入体等、顕微鏡レベルの形態変
16 疾患共存comorbidityは高齢者神経疾患の基本病態
17 高齢者てんかんと認知症の接点
18 上眼窩裂症候群、眼窩先端症候群
19 北欧の火事Norse Fires
20 腫瘍性脱髄と脱髄疾患画像鑑別A-J
21 Hurst脳炎の悪夢
22 アルコールてんかん発作は離脱/誘発/急性/亜急性の4つに分けて考える
23 両側対称性中小脳脚病変
24 一過性の脳梁膨大部病変
25 MRI脊髄病変診断のコツ
26 PMRの7不思議
27 中枢神経疾患と皮膚生検
28 NIIDの七不思議