医療現場の悩みを解決! 子どもの発達障害Q&A

  • 未刊
定価 3,960円(本体 3,600円+税10%)
市河茂樹
安房地域医療センター小児科部長
A5判・224頁
ISBN978-4-7653-2043-6
2025年04月 刊行
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★2025年3月下旬 発売予定!★

小児科医・かかりつけ医が、ここまでできる! 原則&エビデンス、そして筆者のさじ加減より、発達障害診療の実践を伝えます

内容紹介

発達障害が広く認知され、医療的介入の重要性も明らかになる中、発達の相談で医療機関を受診する子どもが増えています。かつては専門機関を予約するケースが多かったものの、最近では、まずかかりつけ医に相談する家庭が増えてきました。まさに「発達障害はCommon Disease(ありふれた疾患)」となりつつあります。一方で、多くのかかりつけ医は発達障害診療のトレーニングを受けておらず、普段の「病気を治す」診療とは異なる、「子どもの人生を扱う」診療に戸惑いを感じています。

本書は、筆者の「発達障害に関わる医師が増えてほしい」という思いから生まれました。各Q&Aの冒頭では【原則&エビデンス】を提示し、次に具体的な【症例】を紹介。その症例を通じて、原則&エビデンスを詳しく【解説】しています。ここまでが発達障害診療で守るべき枠組みです。さらに、【私はこうしている】では、筆者自身の経験や先達からの教えをもとに、診療方法が決まっていない部分について、どのような判断をしているのか、実際の「さじ加減」を紹介しています。

序文

「発達障害はCommon Disease」。でも「発達障害診療はやりにくい」。発達障害が社会に認知され、さらに医療的介入の有効性が明らかになったことで、発達の相談を主訴に医療機関を受診する子どもは増え続けています。子どもの発達が気になる家族は、以前は遠方の専門機関を予約していましたが、最近は、まずかかりつけ医に相談してくれるようになりました。まさに「発達障害はCommon Disease(ありふれた疾患)」になりつつあります。

相談を受けるかかりつけ医側の事情はどうでしょう? 学生/研修医時代に発達障害のトレーニングを受けた経験のある医師はほとんどいません。また発達障害が疾患なのか、神経発達の多様性(neurodiversity)に基づく個性なのかという問題は別にしても、発達障害診療では発達障害だけに注目するのではなく、子どもの人生全体に関わる必要があります。普段の「病気を治す」診療ではなく、「子どもの人生を扱う」診療に戸惑う医師は多いでしょう。社会のニーズは高いけど、必要性もわかるけど、「発達障害診療はやりにくい」のが、多くのかかりつけ医のホンネだと思います。

筆者は「発達障害に関わる医師が増えてほしい」という思いから小児科専攻医やかかりつけ医と一緒に発達障害を診療してきました。また2021年の前著『外来で診る子どもの発達障害 どこまでどのように診るか?』(羊土社)では発達障害の具体的な診療方法を紹介しました。

こうした活動を通じて、専攻医や全国の発達障害診療に関わるかかりつけ医の皆さんから多くの質問をいただくようになりました。質問の多くは「発達障害の基礎知識は身についた。発達障害診療の楽しさも実感した。でも、微妙なさじ加減がよくわからない」というものです。

本書のテーマは、発達障害診療の「さじ加減」です。実際にいただいた質問を中心に、診療前(第1章)から初診(第2章)、問診と検査(第3章)、診断と告知(第4章)、治療介入(第5~8章)と診療の流れに沿って47個のQ&Aと6つのコラムを設定しました。

発達障害診療では人生を扱うので、個々の人生に正解がないように「絶対に正しい発達障害診療」はありません。しかし、決して「何をしても良い」わけではなく、発達障害診療にも基本的な原則やエビデンスがあります。私たちは医療者としてその枠組みの範疇で診療しなければいけません。

本書では、各Q&Aの冒頭に【原則&エビデンス】を掲げ、続いて具体的な【症例】を提示し、その症例を通じて原則&エビデンスを具体的に【解説】しました。ここまでが発達障害診療で守るべき枠組みです。

さらに【私はこうしている】では、筆者のさじ加減を紹介しました。ここには、専攻医とのディスカッションで「この先は、決まった診療方法はないから、あなたの考えで診療していい部分です。まぁ、ボクならこうするかな?」という内容を盛り込みました。もちろん、たくさんの子どもや家族を診療する中で、あるいは発達障害の先達に教えてもらったことから、筆者なりの発見や気づきを記載するように心掛けました。それでも首を傾げたくなったり、筆者の愚痴や毒舌が染み出したりしている箇所があるかもしれません。多様な発達障害診療のリアルな一例とご理解いただき、皆さんの診療環境やスタイル、価値観に応じて取捨選択して読んでもらえると幸いです。

本書が発達障害の診療に取り組むかかりつけ医の皆さん、そして子どもの発達を心配して、かかりつけ医の外来を受診する子どもと家族の役に立てれば、これ以上ない喜びです。

最後に貴重な機会を下さった金芳堂さん、また優しく見守ってくれた担当編集者の西堀智子さまに感謝します。

2024年12月
安房地域医療センター小児科
市河茂樹

目次

第1章 プロローグ~発達相談の前に~
Q1 そもそも発達障害って何ですか? 神経発達症とは何が違うのですか?
Q2 発達障害に対し医療は何ができますか? 家庭でのしつけや教育の問題ではないですか?
Q3 専門医ではない、かかりつけ医が発達障害を診療できますか? かかりつけ医の役割は何ですか?
コラム① 診察に時間がかかってしまうときの対処法

第2章 外来で発達の相談をされたら(初診)
Q4 どんなときに「発達障害」を疑うのですか?
Q5 発達の相談されたとき、最初にすることは何ですか?
Q6 発達障害と間違えられやすい身体疾患を教えてください
Q7 発達障害が疑われる子どもを診察するときに注意することは何ですか?
Q8 初診ですぐに専門医に紹介するべきサインは何ですか?

第3章 発達相談の問診と検査
Q9 問診のコツを教えてください
Q10 問診で集めた情報が膨大です。どのように整理したらよいですか?
Q11 かかりつけ医はどこまで検査をしたらいいですか?
Q12 併存/合併症の検査・診断はどこまでしたらいいですか?
Q13 知能発達検査結果をどのように活用したらよいですか?
Q14 発達障害診療のアセスメントについて教えてください
コラム② 診療が行き詰まったら「親を知ろう」

第4章 診断と説明・告知
Q15 診断は何のためにするのですか? 個性的な子どもを病気にしてしまうのではないか、と不安があります
Q16 診断の手順を教えてください
Q17 家族には、何を、どのように説明したらいいですか? うまく伝えるための工夫はありますか?
Q18 自閉スペクトラム症(ASD)を家族に説明するときの注意点は何ですか?
Q19 ADHDを家族に説明するときの注意点は何ですか?
Q20 知的障害(ID)を家族に説明するときの注意点は何ですか?
Q21 子ども自身にはいつ頃、どのように告知したらいいですか?
Q22 診断がつかない/診断基準を満たさないときは、なんと説明したらいいですか? その場合、診断書を書いてもいいですか?
コラム③ 子どもが話をしてくれないときの対応

第5章 治療と支援① ~心理社会的治療~
Q23 発達障害の療育・心理社会的治療とは何ですか?
Q24 かかりつけ医にできる早期支援は何ですか?
Q25 発達障害の子どもは絶対に叱ってはいけないのですか? ~望ましくない行動への対応法~
Q26 合理的配慮とはどんなことをするのですか?
Q27 子どもの行動に「どう対応したらよいか」と聞かれたら?
Q28 通常学級と特別支援学級、特別支援学校などについて意見を求められたら?
Q29 進学・進級前にあらかじめ伝えておくことはありますか?
Q30 勉強が苦手/嫌いな子どもにかかりつけ医ができることはありますか?

第6章 治療と支援② ~薬物治療~
Q31 どんなときに薬物治療を始めるのですか?
Q32 発達障害の薬物治療について、何をどのように説明したらいいですか?
Q33 非専門医が使いやすい発達障害の薬物は何ですか?
Q34 薬が嫌いだという家族への対応は? 子どもが飲んでくれないときはどうしたらいいですか?
コラム④ 家族が診断に納得できないとき

第7章 発達障害をめぐる社会福祉制度と多職種連携
Q35 どんな職種と連携する必要がありますか? 多職種との役割分担についても教えてください
Q36 学校と連携するコツはありますか?
Q37 発達障害の家族会に参加すると、子どもと家族にどんな影響が期待できますか?
Q38 発達障害の子どもが使える社会資源と、医師の役割を教えてください
コラム⑤ ネット・ゲームとの付き合い方

第8章 定期通院とトランジション(成人期診療科への移行)
Q39 発達障害診療の目標は何ですか? 「予後良好」とは定型発達になることですか?
Q40 長期的な目標はどのように設定したらいいですか? ~発達障害の予後あれこれ~
Q41 子どものライフステージに応じた支援の注意点を教えてください
Q42 急に子どもの様子が変わった/予想と違う経過になったとき、どうしたらいいですか?
Q43 専門医/専門機関に紹介すべきケースについて教えてください
Q44 子どもが良くなりません。医師の気持ちが焦ってしまいます
Q45 子どもが思春期になったときの注意点を教えてください
Q46 いつまで定期通院するのですか?
Q47 トランジション(成人期診療科への移行)はどうしたらよいですか?
コラム⑥ 「無視」した後は「待ってほめる」

付録 ASD・ADHD・ID・sLDの診断基準
索引

執筆者一覧

■著
市河茂樹 安房地域医療センター小児科部長

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