リウマチ・膠原病診療フロンティア Bench to Bedside
-基礎と臨床をつなぐ13章-

監修 | 森信暁雄 |
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京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科教授 | |
編著 | 吉田常恭 |
京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科 |
- 【 冊子在庫 】

★2025年3月下旬 発売予定!★
リウマチ・膠原病の臨床×免疫学の最前線へ
内容紹介
本書は、リウマチ・膠原病疾患に関して、日常で出会った臨床上の疑問とそのエビデンスの紹介・活用を記した、免疫学と臨床をつなぐ13章立てとなっており、まさに、診断でリウマチ・膠原病が頭に浮かぶ医師・レジデント向けの参考書になっています。
リウマチ・膠原病領域の各専門家の視点を共有することによって、疾患や治療に関しての疑問が解決し、その裏付けとなるエビデンスも知ることができるので、自信を持って診療にあたれるようになります。タイトルの「フロンティア=未開の地を切り開いていく」という名の通り、研究をしているからこそ見える景色をお伝えします!
序文
監修者のことば
膠原病という名称が提唱されたのは1942年で、膠原線維の増生という病理学的特徴から名づけられました。当時、疾患は臓器に起こると認識されていたため、全身の膠原線維(結合組織)に病気の特徴があるとする考えは画期的なものでした。1947年にはSLE患者からLE細胞が発見され、翌年にはリウマチ患者からリウマトイド因子が発見されました。その後1964年に自己免疫疾患の概念が提唱されましたが、この時代に膠原病という新たな疾患概念と自己免疫研究は結びつき、膠原病の病因は自己免疫疾患であることが明らかにされました。その後、多くの疾患が膠原病類縁疾患と呼ばれるようになりましたが、中には自己抗体の存在が明らかでなく自己免疫では説明のつかない疾患もあります。そんな折、1999年に自己炎症症候群の概念が提唱されました。自己免疫でもアレルギーでもない疾患概念で、自然免疫系の活性化が病態の特徴です。現在では膠原病及び類縁疾患の病態は自己免疫と自己炎症という二つの病態の組み合わせとして説明されるようになりました。
膠原病診療の進歩は、1940年代のステロイドの使用に始まります。ステロイドは今でも有効な薬ですが副作用も少なくありません。1970年代には抗がん剤を少量使用することによる免疫抑制療法が始まりました。免疫抑制薬の登場です。血管炎のシクロフォスファミド、関節リウマチに対するメトトレキサートなどの治療薬は免疫抑制薬の主役です。さらに、21世紀にはいると生物学的製剤の時代となりました。20世紀後半の免疫学と分子生物学の進歩は数々の免疫分子を明らかにしましたが、それらの分子の機能を単クロ―ン抗体を用いてピンポイントに抑えることにより病勢を抑えるのが生物学的製剤です。今では膠原病治療に欠かせないものになっています。
膠原病とその治療の歴史を簡単に振り返りましたが、今も膠原病の治療法開発と病態解明は続いています。技術と知識の進歩は今までになかったアイディアをもたらしてくれます。本書のタイトルである「フロンティア」には「最前線」とか「未開の地」といった意味があります。本書では気鋭の執筆陣がリウマチ・膠原病診療の最前線を記載してくださいました。読者の皆様が最前線に立ち目前に拡がる未開の地平線を展望されることと思います。
2025年2月
森信暁雄
序文
ここ10年で、リウマチ・膠原病診療は飛躍的な進歩を遂げました。生物学的製剤やJAK阻害薬といった新しい治療薬の開発により、一部の疾患では臓器障害を残さずに寛解に至ることが可能となりました。さらに、現在進行中のCAR-T療法は、全身性エリテマトーデスのみならず、皮膚筋炎や全身性強皮症などの難治性疾患にも有効とされており、「寛解」だけでなく、免疫抑制薬を使用しない「完治」が期待される画期的な治療法として注目されています。
診断技術の面でも、MRIや超音波などの画像モダリティの進化、バイオマーカーの開発、さらには分類基準の改訂により、リウマチ・膠原病内科医は疾患の輪郭をより明確に描き、より早期に病態を把握し、介入できるようになりました。また、ゲノミクスの発展に伴い、VEXAS症候群のように新たな疾患が提唱され、21世紀においても疾患解明が続いています。同時に、リウマチ・膠原病の疾患内でも不均一性があることが解明され、その層別化が進むことで、予後や治療反応性の予測が可能となり、個別化医療への道が大きく拓かれました。
しかし、これらの進歩は決して偶然の産物ではありません。昼夜を問わず研究に励む臨床医や研究者たちの尽力が、その背景にあります。リウマチ・膠原病の研究は、決して個人の地位や名声を目的としたものではなく、学問への純粋な好奇心と探求心に基づいていますが、その目的は、クリーンベンチで得られた知見が最終的に難治性疾患に苦しむ患者へ還元されることです。一方、免疫学の急速な発展とともに、リウマチ・膠原病という広い領域の中でも研究分野が多岐にわたって枝分かれしています。これにより、一人の医師や研究者がすべてを網羅することは困難となり、各自が興味のある分野に特化し、分業・細分化が進んでいます。
本書では、それぞれの分野における専門家に、最新の研究動向を詳細にまとめていただきました。ことわざに「餅は餅屋」というものがありますが、リウマチ・膠原病領域の各専門家の視点を共有いただくことで、読者が今後5年先の診療の展望を予測する一助となれば幸いです。
最後に、ご寄稿いただいた先生方、そして企画・校正にご尽力いただいた編集部の皆様に、この場を借りて心より感謝申し上げます。特に、最初の企画から4年間という長きにわたり、忍耐強くお付き合いいただいた編集部の西堀智子さんには、深い感謝の意を表します。
2025年2月
吉田常恭
目次
第1章 関節リウマチ
01 イムノミクス解析が切り開く病態と治療戦略
はじめに
RA発症の免疫応答の機序の解明
RAのprecision medicineへ向けて
おわりに
02 液性・細胞性免疫の要点
はじめに
関節リウマチにおける自己抗体の性質
自己抗体産生に関わる環境要因と遺伝的要因
自己抗体の病態への関与
RFの新たな産生機序
細胞性免疫の寄与
関節リウマチの治療と予防
おわりに
第2章 巨細胞性動脈炎・高安動脈炎
はじめに
GCAの病態
GCAの病態における近年のトピックス
GCAの発症に関与する抗原
GCAとTAKの病態生理における類似点と相違点
大型血管炎に対する治療のエビデンス
大型血管炎に期待される新規治療法
おわりに
第3章 全身性エリテマトーデス
01 全身性エリテマトーデスにおける免疫異常の概略
はじめに
SLEのオーバービュー
SLEにおける自然免疫の異常
SLEにおける獲得免疫の異常
SLEの病態から考える治療標的
おわりに
02 全身性エリテマトーデスにおける細胞内代謝の病態関与
はじめに
全身性エリテマトーデス(SLE)の病態
全身性エリテマトーデスにおける細胞内代謝の役割
おわりに
第4章 抗リン脂質抗体症候群
はじめに
抗リン脂質抗体の病原性と血栓症・妊娠合併症発症のメカニズム
凝固・線溶系への影響
補体経路の活性化
好中球細胞外トラップ(Neutrophil Extracellular Traps:NETs)
β2GPI/HLAクラスⅡ複合体に対するネオセルフ抗体
治療
新たな治療候補
おわりに
第5章 シェーグレン症候群
01 唾液腺病変の病態を中心に
はじめに
SSの疫学
SSの腺内(腺型)症状
SSの病因・病態
おわりに
02 唾液腺外病変を中心に
はじめに
SSにおける腺外病変(extra-glandular form)
新規治療法に向けて
おわりに
第6章 全身性強皮症
01 全般的病態、新規治療の可能性(特にPAHとILD)
はじめに
SScの全般的な病態
SSc-ILDの病態
SSc-PAHの病態
現在の治療
今後期待される治療
おわりに
02 全身性強皮症の動物モデルからわかること
はじめに
SScモデルマウスの紹介
誘導モデル
自然発症モデル
研究論文に使用されている強皮症マウスモデルの頻度
全身性強皮症の病態理解と新規治療標的-マウスモデルを用いた研究を交えて-
おわりに
第7章 皮膚筋炎・多発筋炎
01 MDA5抗体陽性皮膚筋炎(筋無症候性皮膚筋炎)
はじめに
MDA5の役割と病原性
抗MDA5抗体の産生機序と病原性
MDA5-CADMの要因
MDA5-CADMの病態
MDA5-CADMとSARS-CoV-2の類似性と相違
MDA5-CADMのマウスモデル
MDA5-CADMの治療選択
おわりに
02 筋炎特異自己抗体と自己抗体特異的マウスモデルの設立
はじめに
MSAsとIIMsの関連性
DM/PM病態を反映したモデルマウス
おわりに
03 多発性筋炎・免疫介在性壊死性筋症ほか
はじめに
IIMにおける筋傷害機序
プログラムされたネクローシスと筋細胞の細胞死研究
おわりに ~ネクロトーシスの治療はIIMの新規治療標的となるか
第8章 ANCA関連血管炎
01 活動性・臓器障害のバイオマーカー、モデルマウスを中心に
はじめに
ANCAの病原性(臨床的根拠)とエピトープ解析
ANCAの病原性に関する動物モデル
動物モデルから新規治療薬の開発
AAVにおける疾患活動性・再燃予測マーカー
おわりに
02 病態:細胞性免疫を中心に
はじめに
免疫細胞動態異常の概要
病態形成仮説
治療標的となる免疫応答
EGPAの特殊性
おわりに
第9章 ベーチェット病(ベーチェット症候群)
はじめに
ベーチェット病の病態生理
ベーチェット病治療薬の機序
ベーチェット病の動物モデル
おわりに
第10章 成人Still病
01 サイトカインストーム・補体を中心に
はじめに
成人Still病の臨床 診断と合併症
AOSDの病態
成人Still病の治療
おわりに
02 細胞性免疫を中心に
はじめに
ASDの病態形成の全体像
ASDにおける単球/マクロファージの活性化メカニズム
おわりに
第11章 脊椎関節炎
はじめに
SpAの診断と分類基準の関係
HLA-B27やその他の遺伝子変異とSpAの病態生理
腸管dysbiosisおよびIBDとSpAの関係
メカニカルストレスと付着部炎のメカニズム
Type3 immunityとSpA
病態生理に基づいたSpAの治療戦略
おわりに
第12章 IgG4関連疾患
はじめに
IgG4陽性形質細胞の分化増殖メカニズム
炎症と線維化のメカニズム
病態を踏まえた今後の治療展望
おわりに
第13章 免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象
はじめに
がんの成り立ち
免疫チェックポイント阻害薬の位置付け
免疫チェックポイント阻害薬の作用機序
免疫関連有害事象
irAE診療における基本的な考え方
irAEは自己免疫疾患と似て非なるものか
irAE心筋炎、筋炎、重症筋無力症
irAEのモデルマウス
おわりに ~irAE診療の取り組み
執筆者一覧
■監修
森信暁雄 京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科
■編著
吉田常恭 京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科
■執筆者一覧(掲載順)
山田紗依子 東京大学医学部附属病院アレルギーリウマチ内科
辻英輝 京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科
渡部龍 大阪公立大学膠原病・リウマチ内科
日和良介 京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科
河野通仁 北海道大学病院リウマチ・腎臓内科
藤枝雄一郎 北海道大学大学院医学院・医学研究院免疫・代謝内科学教室助教/北海道大学病院リウマチ腎臓内科診療講師
宮原佑佳 九州大学病院顎顔面口腔外科
森山雅文 九州大学病院顎顔面口腔外科
安部沙織 筑波大学医学医療系膠原病リウマチアレルギー内科学
坪井洋人 筑波大学医学医療系膠原病リウマチアレルギー内科学
松本功 筑波大学医学医療系膠原病リウマチアレルギー内科学
加藤将 富山大学学術研究部医学系内科学第一講座
鈴鹿隆保 大阪医科薬科大学病院リウマチ膠原病内科
市村裕輝 東京女子医科大学膠原病リウマチ内科
神谷麻理 東京科学大学病院膠原病・リウマチ内科
石﨑淳 愛媛大学大学院医学系研究科血液・免疫・感染症内科学(第一内科)
松本紘太郎 慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科
副島裕太郎 横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科学教室
黒澤陽一 新潟大学大学院医歯学総合研究科腎・膠原病内科
田淵裕也 Leeds Institute of Rheumatology and Musculoskeletal Medicine(英国)
秋山光浩 慶應義塾大学医学部リウマチ・膠原病内科
白柏魅怜 京都大学医学部附属病院免疫・膠原病内科