第9走者:寺本典弘先生【病理医】
この連載は、2021年4月発売の
『Dr.ヤンデルの病理トレイル 「病理」と「病理医」と「病理の仕事」を徹底的に言語化してみました』(著:市原真)
について、病理医・臨床医の皆さまに読んでいただき、それぞれの視点から感想と、「病理」に関する考えを書評という形でまとめていただいたものです。
「病理トレイル 書評リレーマラソン」と題したこのマガジンを通じて、「病理」とは、「病理医」とは、「病理の仕事」とは何かを感じ取っていただけると幸いです。
■評者■
寺本典弘
四国がんセンター病理科医長・がん予防・疫学研究部長
■書評■『Dr.ヤンデルの病理トレイル』
これまでの病理医人生を振り返ってみると、私にも曲がりくねったトレイルが見える。
知らず知らず、歩いてきた、でこぼこで細く長いまがりくねった道、振り返ればはるか遠く医者を目指したころ・・・聴こえてくるのは美空ひばりが亡くなる直前の絶唱『川の流れのように』だ。こんな本を出して、まだ若いのに死亡フラグか??>ヤンデル。
ま、それもまた人生。
と50代以上にしかわからないつかみから始めてみた。
地図はないが、病理山脈にはいくつもの山があり、病理医にも臨床医にもいくつもの道がある。すでに山を登った、あるいはこれから登る病理医にも、その麓を通って別の山脈の山に登る臨床医にも、過ぎた道を思い出したり、先の道を考えたりするきっかけになる一冊となろう。
違う道をたどり、違うところにたどり着いて、これからも別々に歩いて行くが、私もヤンデルと同じ事を思っている。病理診断とは言語化だ。
あるいは、私が思うに病理医とは巫女のようなものだ。
唯一病理医のみが病理検体の中に潜って、病の真実に触れ、解釈し、神託としてそれを文字にして民草の臨床医に伝えることが許される。病理診断書は神託を彼らにも分かる言葉に変えたものだ。良い神託を授かるかどうかは病理医の技量や医学の進歩によるが、それを正しく言語化出来るかどうかは心がけの問題だ。神託をよりよく伝える意識のない病理医の診断はおみくじに過ぎない。
あつい本で内容は多岐にわたるが、この本では、いくつかある読みどころの一つとして、ヤンデルによる病気から病理診断への言語化の道筋のヒントがちりばめられている。おみくじに悩む臨床医にも、言語化に苦労している若手病理医にも参考になるだろう。
■「あなたにとって病理・病理医・病理の仕事とは」
なんだか最近若い奴らから腫れ物を触るように扱われる。最近までいた同僚の先生が怖い人だったからそのイメージが影響しているのかもしれない。
四国がんセンターに赴任して19年目、わたしはそもそも『怖くないフレンドリーな病理医』を目指してきた。それはそれなりに達成したと思うのだが、20年前からいる同期・先輩に対しての話なのかもしれない。冬にはマスターズジャケット、夏にはアロハを制服とする60がらみの医師が若手職員に恐れられるのは無理もない。
だから、病理医としての別の目標を書く。まじめに。
『病理診断だけではなく、病理学を修めた医師として病院や地域医療に貢献する』
公言するかどうかは別として、そう言うスタンスで働いている病理医はたくさんいることを知っている。『病理学を修めた医師』に何の強みがあるかを考えると、所見から結論につなげる修練、病院の扱う殆どの病気に関する知識、多職種・多科に関する情報、時間に縛られない勤務体制、臨床医との視点の違いなどが擧げれる。この目標もそれなりに達成したと思う。
今は次の目標を探している。『若者にかわいいと言われる病理医』がいいかな?
■書誌情報■
『Dr.ヤンデルの病理トレイル 「病理」と「病理医」と「病理の仕事」を徹底的に言語化してみました』
著:市原真
札幌厚生病院病理診断科
定価 3,080円(本体 2,800円+税10%)
A5判・278頁 ISBN978-4-7653-1862-4
2021年04月 刊行